108.当直室
自衛隊の当直は何時に交代なのでしょうか?
▽第一中隊当直室▽
わたしの住所や学校はどこを探しても無くて、もちろん家族や友達もまったく引っかからなかったそうよ。
そりゃそうよね、わたしと当真君は違う世界に飛ばされちゃったのよ、世界のほとんどが女の人の世界に。
この世界の男女の割合はどれくらいなのですか? と質問したけど、教えてもらえなかったの、男の子の数は重要な国家機密なんだって。
けど当真君が来たから少しだけど、男の人が増えたわよね。
なんでも男の人は美人さんに囲まれて、王様みたいな生活を送っているらしいの。
当真君は私の事なんて忘れちゃうかもしれないわよね。
わたしはどうなるのか、決まっていないみたいなの、決まるまでは軍隊の当直室と言う場所で過ごす様に言われたのよ。
朝九時に新しい当直さんが上番してくるのだけど、連隊本部に報告や命令の受領、定数確認とかが終わるとする事がなくなるから、当直陸曹さんはわたしの勉強をみてくれるの。
その後は食堂にご飯を食べに行ったり、本を読んだりして過ごして、17:00になると外出する隊員さんに外出証を渡すのがわたしの仕事。
パチンコみたいなギャンブルを楽しみにする人、お酒を飲みに行く人、ハッキリとはわからないけど、エッチな店に行くお姉さん達。
何となくだけど、このお姉さんは何をしに出掛けるのかが、分かってきたの。
当直陸曹さんのお手伝いをしていると、これからどうなるかと言う不安は紛れるわ。
「枕崎士長さん、外出証です、日夕点呼までに帰って来てくださいね」
わたしは外出証を士長のお姉さんに渡します。
軍隊のみんなは普段は緑色の服を着て訓練しているけど、外出の時はオシャレな格好をした、普通の人です。
言われなきゃ、軍隊の人だなんてわかりません。
「ありがとね、七海美ちゃん、勝ったらお土産買ってきてあげるからね」
「枕崎、おまえ、わざわざ外出してパチ屋に寄付しているのか」
「違いますよ、最近はパチ屋なんて行っていません、スロットです」
「一緒だ、サッサと税金を寄付して地域経済を回してこい」
だけど枕崎士長さんは、私の前に跪いて、優しく見上げます。
「お姫様、何でも欲しいものを言ってくださいませ」
「……あの、 えっとー、マンガの本をお願いします」
「かしこまりました、お姫様必ずやスロットに勝ってみせましょう……」
「子供にギャンブルの話なんてするな!」
当直陸曹さんが、追い出す様に枕崎士長さんを外出させます。
「枕崎士長さんで普通外出は全員です、特外はありません、それと延灯申請が八人で昨日と同じです」
「ああ、給料日前だからな、みんなクラブで飲んでいるのだろう」
「クラブ……?」
「ああ、隊員クラブと言って、駐屯地の中にお酒を飲む場所があるんだよ。
街にあるクラブとはだいぶ雰囲気は違うよ、セルフサービスの食堂みたいな場所で、安く飲めるんだ」
「そうなんですか」
「七海美ちゃんにお酒の話は早かったかな?」
「う~ん、時々パパがお酒臭いで帰って来たけど、クラブに行っていたんですかね?」
わずかだが、右の眉が上がった当直陸曹。
「そうなんだ、七海美ちゃんのパパはいつもお酒の臭いがしたのかな?」
「そんなに、いつもじゃないですよ、月に2,3回くらいですよ」
「休みの日、パパは何をしていたのかな?」
「10時頃まで寝ている時もあるけど、遊びに行く時は早起きしてくれました……」
わたしは当直陸曹さんにパパとママと三人で水族館に行った話や、同じ社宅の当真君と一緒に船の博物館に連れて行ってもらった話をしたの。
▽
その日の晩、枕崎士長は21:00前に帰隊したの、もの凄く勝ったからお土産にドーナツとマンガ本を頂いたの。
マンガの主人公は高校生のお姉さん、同級生の男の子と仲良くなって、水族館でデートをする話だったわ。
21:40が日夕点呼、だけど中隊の規則で21:30までには当直室に帰ってきて、外出証を返さないといけないの。
「今日は外出者全員が21:00前に帰隊してきたから楽だったわ。
七海美ちゃんが当直室にいるとみんな素直で楽で良いよ」
ニコニコ笑いながら当直陸曹さんが言うけど、なんか恥ずかしいわよね。
「はぁ、ありがとうございます」
「今日は早いけど休んでいいよ」
「わかりました、おやすみなさい」
当直室の片隅にパーティションと暗幕でわたし専用のスペースを作ってくれたの。
当直陸曹さん達は一晩中起きているの、仮眠は取っているみたいだけど、数回は見回りに出かけているみたいよ、すごいわよね。
▽
朝は結構忙しいわ、起床ラッパが鳴ると、当直陸曹がマイクのスイッチを入れて。
“起床、起床、一中隊舎前に集合、服装G装”
と言うと、あっという間に緑色の服を着た人たちが、整列するの。
前の晩にバカなことを言っていた愉快なお姉さんの枕崎士長も、真面目な顔をして並んでいるわ。
「七海美ちゃんは寝ていても良いから」
なんて言われるけど、そんなわけにはいかないわよね。
わたしもちゃんと起きて、服を着るわ、そうそう、軍隊にはパジャマって無いみたいなのよ。




