107.わたしは誰 ◆ 常盤 七海美 ◆
一旦当真は離れて、七海美のお話しです。
主人公のカイトはもう少し後です。
もう、何がどうなっているのか、サッパリ分からない。
いじめっ子のエリちゃん達から石を投げられ用水路に落ちたと思ったら、見た事もない草むらに投げ出された。
一緒にいた当真君は中学生みたいな姿になってしまった、ちょっとカッコ良いけど、何となく当真君の面影も残っている。
そしてわたしも美人さんになったみたいなの、本当かなぁ、なんて思っていたら、当真君が大変な事になっていた。
目がうつろで、苦しそうに息をしている、急いで休ませてあげたの。
近くに沢が有ったから、ハンカチに水を染み込ませて飲ませてあげたけど、寒そうにブルブル震えている。
どこなのかよく分からない場所に飛ばされて、お友達が苦しそうにしている、どうすればいいのか分からないよ。
泣きそうになったわたしを助けてくれたのは軍隊の人達、最初に緑色の服の人達が来たときは怖くて仕方なかったけど、兵隊さん達はみんな女の人で優しい人ばかりだったよ。
その後当真君はアンビって言う車に乗せられたの、それが最後に見た当真君の姿。
わたしは兵隊さん達と一緒に軍隊の基地みたいな場所に連れていかれて、衛生隊と言う場所で検査を受けた後は、連隊本部って言う場所で名前とか、学校とか、どこに住んでいるかとか、色々な事を訊かれたの。
結局わたしがどこから来たのかは分からないそうよ、そりゃそうよね、この世界ではほとんどが女の人なんだって。
わたしは女子も男子も同じくらいの数だよ、って説明したのだけど、可哀想な子を見る目で見られたのよ。
そうそう、男の子は特別な場所で大切に育てられるそうよ、当真君とはもう会えないのかな?
▽第九歩兵科連隊、連隊長室▽
「……常盤七海美を自称する少女ですが、彼女の言った住所や学校は見つかりませんでした」
取り調べを担当した連隊長の副官の三佐が言う。
「うむ、そうだったか」
報告はすでに聞いているが、今日は一中隊長が来ているので、芝居かかった演技をする犬吠埼一佐。
「連隊長、これは困った事態です、男児は男性管理局に引き渡しました、これは規則に則った事で問題はありません、
ですが、女児が問題でして、市民を保護すれば行政を通して家族や保護者のもとに返せば良いのですが、常盤七海美には返すべき保護者がいません」
「警察に引き渡せば済む話ではないのですか」
一中隊長、御前崎一尉が言う。
「もちろんそれが原則なのだが、犯罪性がない人間を警察に引き渡すのもどうかと思うし。
行政に頼めば身寄りのない子はメロディ学園に送らせて終わりだが、それは忍びないしなぁ。
何よりも、懐古主義者の実情を知っている可能性もある、時間をかけて懐柔すれば情報が得られるかもしれんぞ」
警察不信の連隊長、軍隊と警察の関係は微妙だ、双方が情報を共有し力を合わせて問題を解決する事もあるが、根底に流れているのはお互いの不信感。
「犬吠埼連隊長、身寄りのない子をここでかくまうと言う認識でよろしいでしょうか?」
御前崎一尉は上司の意向を言葉にして確認する。
こと軍隊においては阿吽の呼吸で事を進めると、人命を伴う事態を招く事があるので、面倒でも口にしなければならないのは、幹部軍人の処世術。
「そうだ、いつまで衛生隊に寝泊まりさせるわけにもいかないな、どこか良い場所は無いかね?
とりあえず司令部の法務官が来るまでの間でよいから」
「幼いですが、なかなかの美形です、営内に住まわせるわけにもいかないでしょうし」
副官が統制された野獣が幼子に牙を剥かないかを心配する。
申請すれば外出が許される組織とはいえ、陸士は基本営内住み、溜まった性欲の発散方法が挨拶代わりみたいな連中だ。
「犬吠埼さん、中隊の当直室はどうでしょうか、あそこなら常に人目があるから、そうそう問題は起きないでしょう」




