104.この子は何歳? ◆ 広尾 愛美理 ◆
親戚に上級官僚がいると入庁もし易いです。
広尾愛美理最高の大学の法学部に進んだ。
“将来は官僚に進みたい”
と母親に伝えたら、翌週には内務省の上級公務員の叔母のもとに連れていかれた。
国家公務員一種試験の願書は叔母が人事部まで直に持って行ってくれて、
“わたしの姪なの、公正に判断してくださいね”
と人事担当者に伝えると、担当者は願書の片隅にマジックで印をすると、願書の積み置かれたカゴの一番上に置いた。
公正な試験の結果、内務省に入庁、男性管理局に配属された。
最初の2年間は本省勤務、仕事の流れと省内の派閥力学を学ぶと、次の2年は地方勤務。
野分市と言う地方都市、郊外の某所に男性居住区があるので、かの地の地方自治体の上級職員達と友誼を結ぶのが上級公務員の仕事のはずだった。
訓練の名目で原野に住んでいる懐古主義者達の痕跡を探していた軍の部隊が男児を保護したとの連絡を受けたときは驚いたものだ。
急遽男性居住区に確認を入れたが、不明の男性は存在しないとの事。
とりあえず人口調整病院に入院させて検査をしているところだが、不明な点が多すぎる。
そうそう、男性居住区がどこに有るのかは重要な国家機密、正確な場所を知っている人はごくわずか。
人口調整病院が有る街の近郊に有るらしい、とは一般市民でも知っている。
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白い滴のバッジを付けたキャリア官僚広尾。
モニタールームで心理テストの様子を観察している。
心理テストはドラマ形式の映像を見せながら選択をさせる、選択の内容も重要だが、かかった時間やその時の心拍の変化、レバーを握る力加減、視線の動きまで全て記録されている。
「広尾連絡官、今回は被験者がパニックになってしまったので、完全な検査結果とは言えません」
野分市の人口調整病院、通称男性病院の院長が帝都から来た官僚に伝える。
24歳の連絡官は院長からしたら小娘のような歳だが、中央の官僚を甘く見てはいけない、奴らは欠点を見つけると肉食獣の様に嚙みついて来る猛獣だ。
「それは私も確認しました、曲がった事が嫌いなタイプの印象を受けたのですが、院長はいかがでしたか?」
「心拍や視線、反応時間の解析が済んでいないので、断定は出来ませんが正義感が強いタイプに見受けられます、ただし暴力には忌避感が強いですね」
「攻撃性はどうでした?」
「ペーパーテストでは攻撃性は低く大変優しい子でした、総合判定でも暴力には否定的との結果が出ております」
やれやれ、これは参ったな、男は女に攻撃的であるべき、これは絶対だ、白い滴を得るには女性を殴らなければ始まらない。
どうすれば攻撃性を育成出来るのか、頭の中で家族計画を創り上げていく。
心理テストの前に“機器の故障”で女性の映像が流れたが、もちろんこれもテストの一部、異なるタイプの女性を順番に見せ、誰の顔を良く見ていたかを記録させてある。
観察するのは顔だけではなく、身体もポイント、巨乳や小ぶりな胸、乳輪の大きさまでタイプを並べてみた。
完璧美人よりも、たれ目の情けない顔の女性を良く見ていた、胸はすぐに目が行くが、性的な魅力を感じているのか、単なる好奇心なのかは判断に迷うところだ。
局部に関しては見ようともしなかった、まるで子供の反応だ。
男性は疑似家族に囲まれて育つ、豊満な胸のママと美人の女子高生のお姉さんは定番だが、それだけでは足りない。
ブサ顔のメイドをいじめられっ子にして攻撃性を養うか、いやメイドの中で序列を作ってみるのも面白い。
はて? この子は何歳なんだ?
「年齢の件はどうでしたか?」
「それが奇妙でして、自身は10歳の小学四年生だと言い張っていますし、学力もそれを裏付けています。
ですが、体格は13から14歳の男性のそれです」
「身体は中学生、頭の中は小4とは、どう扱えば良いのでしょうか。
それよりも、あの少年はどこから来たんでしょうかね?
街からも男性居住区からも遠く離れた原野で少女と一緒に保護されたとは」
「推測ですが原野に潜む懐古主義者のアジトから逃げてきたのではないでしょうか。
やつら最近は人工授精技術を使いこなしているようですし」
「懐古主義者のもとで育ったのなら男女の数が同じだと言う戯言もうなづけますね」
「まったく、そんな時代は何百年も前に終わったと言うのに」
院長がため息をつく、遥か昔男女比はほぼ同じだったそうだが、少しずつ男児の出生数が減り続け、男性は保護すべき希少種。
男性が減っても社会を維持するために子供を産まなければならない、人工授精の技術が確立され、減少に歯止めはかかった。
シャーレ授精で人口は維持できる、だが遺伝子の多様性には早晩限界が来るのは明らか。
より多くの男性が誕生してほしいのだが、ガラス管での着床で男児が産まれるのは稀な出来事。
自然交接をすれば男子の出生率は高まるのだが、男性は基本的に勃起不全、薬を使わずに勃起をさせる唯一の方法が暴力。
女性に対する攻撃的な衝動で陰茎に血液を集めることが出来るのだ。
「まったく、男女が対等だなんて幻想はサッサと捨て去って欲しいものです、我々女性は白い液体の奴隷だと言うのに」
男性管理局から来た連絡官、男性からほとばしる液体の前には女性の人権なんて存在しない。
「広尾連絡官、男性と一緒に保護された女児ですが、現在は軍の施設にて調査を受けております。
聞き及んだところ少年とほぼ同じ社会常識を持っております。
通っていた小学校では男女比はほぼ半々と言って軍人達を呆れさせたそうです、口裏合わせでしょうか?」
「テクノロジーに関してはどうでした」
「パソコンやスマホのある世界だと言い張っております、それから一家に一台車が有ると言っております、妄言にも程がありますね」
内務省官僚はアゴに手を当て考える。
スマホに関しては納得が行く、あれを持たないとそもそも外出すら出来ない、オムニバスやメトロに乗るのはもちろんの事、買い物すらままならない。
店によってはそもそも入店出来ない場合もある。
現代人の外出証だが、その行動履歴はしっかりと記録されデータとして蓄積されている管理社会。
だが、車が一家に一台とは流石に無理があるだろう、一世帯に一台の車とは社会的リソースの無駄遣いだ。
だが、男性居住区ではスマホどころか、電子機器すら存在しない。
これは外の世界に接して不要な情報を得るのを防ぐためと、もっと有意義な娯楽に専念させるための措置。
女性に対して攻撃的になることが疑似的な性欲を産み勃起につながり性交へとつながる。
とは言え、好まれる女性のタイプには傾向があるようで、幼い顔をしているけど巨乳と言うアンバランスな女性の悲鳴が最高の媚薬。
自家用車の無い世界観です。




