100.可愛らしい子が隣にいます
「……ねぇ、起きてよ」
身体を揺らされているのが分かる。
「誰?」
「あっ、目を覚ました!」
聞き覚えのない高い声が耳に届く。
身体を揺すっていたのはサラサラのロングヘアーの女の子。
「誰、君?」
「あの、えっとね、男の子を探しているの、当真君って言うんだけど、落っこちたらどっか行っちゃたの……」
「当真はボクだよ、それよりも、女の子は近くにいなかった? お下げにした子で、七海美ちゃんって言うんだけど」
「七海美はわたしよ」
「違うよ、七海美ちゃんはそんな髪型じゃなかったよ」
否定された事にムッとした少女。
「あなたこそ、当真君はもっと背が低かったよ、どこの小学校よ」
「昭陽小学校だけど、サラサラの君は?」
「わたしも昭陽小よ、何年何組よ……」
▽
信じられないけど、サラサラ髪の女の子は七海美ちゃんだった、クラスのみんなの名前やあだ名、社宅にいつ引っ越して来たかまでスラスラと言われたら信じるしかない。
そして相手もボクの事を信用してくれたみたいだ。
「……それじゃ、わたし達ガケから落ちて身体が変わっちゃったの?」
「多分だけど僕たちは身体が変わっちゃったと思う、七海美ちゃんは何となくだけど目元は似ているけど、アゴとかがシュッとしていて奇麗だよ」
無自覚なお世辞に頬を赤らめ、アゴに手を当て、自身の変化を確かめる四年生。
「……そうかな? えっと、当真君も大人っぽいよ、六年生みたい」
さっきから背中がゾクゾクしてなんか嫌な感じ、早く家に帰って休みたいよ。
「それより、ここがどこかが分からないよ、早く帰らないと」
「当真君、多分だけど、こっちだと思うよ」
「どうして分かるの?」
「あのね、今は夕方でしょ、太陽があっちの方向いあると言う事は、こっちの方向が海だよ」
学校では自信なさげ、いつもオドオドしていた七海美ちゃんとは似つかない聡明さと推論力、そして行動力。
「サラサラちゃん、本当に七海美ちゃんなの?」
「失礼ね、何よサラサラって、それを言えば当真君だって……」
何となく面影はあるけど、ずっとカッコ良く大人っぽい感じになった同級生をあだ名を
付けようとしたが、褒め言葉にしかならないので言葉を飲んだ七海美。
▽
少し見上げていた同級生、今は頭の上から見下ろしている。
「七海美ちゃん、小さくなったの?」
「何言っているのよ、当真君が大きくなったのよ!」
身長は虎の尾だったようで、声を荒げた少女。
「じゃあさぁ、服を見ればわかるじゃん」
今まで互いの顔しか見ていなかったけど、改めて服を見ると、見たことのないねずみ色の服。
「当真君こんな服持っていた?」
「全然、初めて見るよ」
突然背中を向けた七海美ちゃん、首筋がしっかり見える。
「当真君、タグを見てみて」
一部の輸入品を除いて首筋と左の脇腹には必ずついているタグ、その存在に気が付くあたりは女子としか言いようがないが、手掛かりになりそうな物は一つも無かった。
何となく海の方向に歩いて行くのだけど、さっきから寒くて仕方がない、背が伸びると寒くなるの?
「今日は寒いよね、早く街に出ないかな?」
悪寒が止まらなくなった少年。
「何言っているの、風が気持ちいいじゃない」
草むらを水面の様に撫でる初夏の風、振り返ると、もうろうとした表情の当真君に驚いた少女。
「ダメよ、休まないと、さっきの岩まで戻ろう……」
異世界に飛ばされて外見が変わったけど、かろうじて前の印象が残っている容姿です。
二人とも美形に変わっています。




