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【短編集】とある小説家の最初の10日間

小説家 8日目

作者: 涼花

 今日は、2025年7月17日。目覚めると冷房の音が鋭く耳を刺した。昨日の清々しさは消え、代わりに喉の渇きが絡みつく。小説家としての8日目だ。初めての作品の完成から1週間。初めての達成感はまだ温かいが、その裏で水への恐怖が蠢く。あのノートを捨てたのに、頭の中は「水」で満ちていた。子供の頃、川で溺れかけた記憶。冷たい水流に足を掬われる感覚。背筋が凍る。


 ふと窓の外を見る。雨上がりの水たまりが朝日にきらめき、恐怖を優しく溶かし始めた。あの光景は刃ではなく、物語の種かもしれない。キーボードに手を伸ばす。指は震えたが、一行、打ち込んだ。

『今日は、2025年7月17日。』

 突然、冷房の風が首筋を撫でる。昨日までは刃だったが、今は励ましに変わった。7月10日の達成が土台となって、恐怖を押し流す。書くたびに鼓動は速くなるが、逃げない。ゴミ箱の中からノートを拾い上げ、濡れた記憶を言葉に紡いだ。


 300字を超えた頃、保存ボタンを押す。窓の外で鳩が舞う。水たまりはまだ輝いている。明日もこの指は動くだろう。8日目がそう約束する。

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