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18 鎌倉ダンジョン 〜絶体絶命〜

「……嘘、でしょ……」


颯季の掠れた声が、霧が晴れ、その全貌を現した『大蜘蛛の谷』に虚しく響いた。目の前には、壁も天井も地面も見えないほどにびっしりと、赤黒い甲殻を持つ巨大な蜘蛛、蜘蛛、蜘蛛。大きさは子犬ほどのものから、小型の馬車ほどもある巨大な個体まで様々。


無数の禍々しい複眼が、獲物を見つけた捕食者のように、俺たち『四聖幻舞』の四人へと一斉に向けられていた。粘つく太い糸があちこちに張り巡らされ、谷底には骨や装備品の残骸らしきものが散乱している。そして、むせ返るような甘ったるい腐臭と、金属が擦れるような微かな音が、死の気配を濃厚に漂わせていた。


ザワザワ…シャカシャカシャカ……。カチカチカチ……。


一瞬の、まるで嵐の前の静けさのような静寂の後、奴らは一斉に動き始めた。そのおびただしい数の足が一斉に地面を掻く音、鋭い牙を鳴らし合わせる音は、まるで死神のオーケストラのように、俺たちの鼓膜を不気味に震わせ、本能的な恐怖を呼び覚ます。


「――まずい! この数は尋常じゃない! 雫音、シグナル・リベレイターを作動させろ! 今すぐにだ!」


燎兵が、かつてないほど切迫した声で叫んだ。彼のデータパッドには、既に夥しい数の敵性反応が赤く点滅し、危険を示すアラートがけたたましく鳴り響いているのだろう。その額には、普段の冷静沈着な彼からは想像もつかないほどの脂汗が浮かんでいた。


「我々の現状では、この数を相手にするのは不可能だ! 研修評価の減点はやむを得ない、今は生存を最優先する!」


「は、はいっ!」


雫音は、恐怖に顔を引きつらせながらも、燎兵の指示に頷き、震える手で腕につけられた腕時計型の『シグナル・リベレイター』のボタンへと指を伸ばした。脳裏には、前田先生の「これを使った奴らは大幅減点だ!」という言葉が、まるで警告のようにフラッシュバックする。


でも、そんなこと、今はどうでもいい。仲間たちが、そして自分が、こんな場所で、こんな気味の悪い化け物たちの餌食になるわけにはいかない!


彼女は、意を決してボタンを強く押し込んだ。だが――。


「え……?」


何も起こらない。青く光るはずのクリスタルは沈黙したままだ。何度かカチカチと、爪が白くなるほど強くボタンを押してみるが、リベレイターはうんともすんとも言わない。


「う、動きません……! な、なんで……!? どうして……! こんな時に……!」


雫音の顔から、サッと血の気が引いていく。その瞳には、絶望の色が浮かび始めていた。



高台・アビス・クロウズ


その様子を、少し離れた谷の高台、岩陰から見ていた『アビス・クロウズ』の四人は、腹を抱えるようにして嗤い、その歪んだ愉悦を噛み締めていた。


「ククク……無駄だ、無駄だ! その程度の玩具、僕の『魔力妨害の呪符』と『濃霧の呪符』の相乗効果の前では、ただのガラクタに過ぎん! 奴らの希望は、今、完全に断たれたのだ!」


忌部呪々(いんべじゅじゅ)が、双眼鏡から目を離し、その影に隠れた顔を歓喜に震わせる。


「あらあら、助けを求める声も届かないなんて、本当にお可哀想ですわねぇ。わたくしの可愛い子供たちが、今頃お腹を空かせて、あの甘美な『誘引香』に引き寄せられていることでしょう。せいぜい、蜘蛛さんたちの素敵な晩餐になるがいいわ」


蝮沼桔梗まむしぬまききょうが、うっとりとした表情で、紅い舌なめずりをしながら囁く。彼女の足元には、空になった小さな香炉が転がっていた。


「ギャハハハ! 最高のショーじゃねぇか! あの絶望した顔! 見ろよ、あのヒーラーの小娘、もう泣きそうだぜ! たまらねぇ! これだから、弱い奴らをいたぶるのはやめられねぇんだよ!」


鬼塚轟おにづかごうが、獣のように獰猛な笑みを浮かべ、巨大な拳を打ち鳴らす。


煉獄院凶魔れんごくいんきょうまは、その光景を冷ややかに見下ろし、満足げに口元を歪めた。


「――フン。これで、目障りな奴らは消える。我々の計画通り、完璧にな」


シャアアアアッ!


そんな彼らの嘲笑を肯定するかのように、一匹の、特に巨大な麻痺毒大蜘蛛が、鋭く研ぎ澄まされた鎌のような前脚を振り上げ、一番手前にいた雫音めがけて、猛烈な勢いで飛び掛かってきた! その顎からは、緑色の麻痺毒の泡がブクブクと溢れている。


「雫音っ!」


俺は、考えるよりも先に体が動いていた。絶望に染まりかけた雫音の小さな体を突き飛ばし、その代わりに自分が大蜘蛛の前に立ちはだかる! 『雷迅刀』を抜き放ち、迫りくる死の影を迎え撃つ!


「――《雷迅・刹那一閃》!」


合宿で親父に叩き込まれた、仲間を守るという想い。そして、雫音を絶対に死なせはしないという強い意志。それを乗せた俺の一撃は、かつてないほどの速さと鋭さで、迫りくる大蜘蛛の巨体を、その硬い甲殻ごと両断した!


挿絵(By みてみん)


緑色の、鼻を突くような悪臭を放つ体液を撒き散らし、大蜘蛛は無残な二つの肉塊となって地面に落ち、ピクピクと醜く痙攣した後に、ようやくその動きを止める。


「はぁ……はぁ……はぁ……やったか……!」


俺は荒い息をつく。刀を握る手が、ギリギリと音を立てそうなほど力が入っていた。だが、安堵する暇など、一瞬たりとも与えられなかった。


一匹倒したところで、状況は何も、本当に何も変わらない。むしろ、俺たちの必死の抵抗が、奴らの縄張りを荒らしたと認識されたのか、あるいは仲間を殺された怒りか、谷全体を埋め尽くす蜘蛛たちの殺気が、一気に膨れ上がったのを感じた。


キシャアアアアアアアアアッ!!


ギシャアアアアアアアアアッ!!


四方八方から、何十、いや何百という数の大蜘蛛が、壁を、天井を、そして地面を蠢きながら、一斉に俺たちへと雪崩のように迫ってくる! その光景は、地獄という言葉ですら生ぬるい、まさしく悪夢の具現だった。


「もうっ! きりがない、これ! 次から次へと湧いてくる!」


颯季が、顔面蒼白になりながらも『疾風双刃』を構え直し、憎々しげに叫ぶ。彼女の額にも、玉のような汗が浮かんでいた。


「囲まれる……! 逃げ場が……どこにも、ありません……!」


雫音は、もはや涙声で、必死に周囲を見回すが、そこにあるのは無数の蜘蛛の影だけだった。


「……万事休す、か。この数と、この状況……僕の計算では、生存確率は限りなくゼロに近い」


燎兵ですら、その額に浮かんだ冷や汗を拭うことも忘れ、表情は硬直している。データパッドは、既に夥しい数の敵性反応で真っ赤に染まっているのだろう。


俺たちは、自然と背中合わせになり、四方から迫りくる蜘蛛の軍勢を睨みつけた。ザワザワという無数の足音、カチカチというおびただしい数の牙が鳴り合う音、そして、時折放たれる粘つく白い糸や、シュッと音を立てて飛んでくる緑色の毒液。空気は重く、死の匂いが満ち満ちていた。


「ぐっ!」


颯季の腕を、狙いを定めて吐き出された毒液が掠めた。インパルス・レシーバーが甲高い警告音を発し、彼女のゲージが僅かに減る。幸い、直接肌に触れたわけではないようだが、その毒々しい緑色は、見ているだけで気分が悪くなる。


もはや、逃げ場はない。

四方八方、見渡す限り、蜘蛛、蜘蛛、蜘蛛。

俺たちの小さな抵抗など、まるで巨大な津波の前に立つ小舟のように、あまりにも無力に思えた。


「(……ここまで、なのか……? 親父……母さん……ごめん……!)」


親父の顔が、今は亡き母の笑顔が、そして、合宿で初めて「仲間」と呼べる存在になったこいつらの顔が、脳裏をよぎる。せっかく手に入れた、この居場所を、こんな気味の悪い化け物たちの餌食になって、失ってたまるか。だが、圧倒的な数の暴力が、俺たちのなけなしの希望を、ジリジリと確実に食い潰していく。


『四聖幻舞』、結成からわずか数週間。俺たちの最初のダンジョン研修は、こんなにも早く、こんなにも惨めで、こんなにも理不尽な形で、その幕を閉じようとしていたが、


「……やるしか、ねぇみてぇだな」


俺、雷牙は、『雷迅刀』を強く握り直し、覚悟を決めた。震える足を叱咤し、腹の底から声を絞り出す。隣では颯季が『疾風双刃』を構え直し、その瞳には絶望ではなく、怒りと闘志の炎が燃え始めていた。後方では燎兵が懐から数枚の呪符を指に挟み、雫音が涙をぐっと堪え、震えながらも杖をギュッと握りしめている。


もう、助けは来ない。この地獄を、この四人で切り抜けるしかないんだ!


「燎兵、指示を! 俺と颯季で前を、いや、全方位を抑える! 雫音は、無理すんな! 回復と援護、できる範囲でいい!」


「了解した、雷牙! 敵は数が多い、一点集中で各個撃破しつつ、活路を探る! 颯季、右翼を頼む! 雫音、僕の左後方へ! 詠唱開始! 君の力が必要だ!」


戦闘が始まった。いや、生き残るための、必死の、そして無謀な抵抗が始まった。


「せりゃあああああっ! 来いよ、化け物どもがぁっ!」


「風よ舞え! こんなところで、終わってたまるかーっ!」


俺と颯季は、雄叫びを上げ、左右から怒涛のように迫る大蜘蛛の群れに、まるで一点の光明を求めるかのように突っ込んでいく。雷迅刀が閃き、疾風双刃が舞う。一体一体も、決して弱くはない。硬い甲殻に、鋭い牙、そして厄介な麻痺毒。

だが、合宿で叩き込まれた剣技と体術、そして新しい武器の力が、俺たちの動きを以前とは比べ物にならないほど鋭敏にしていた。


「――《炎狐ノえんこのじん》! 行け、我が式神! 時間を稼げ!」


燎兵が、懐の護符から呼び出した数体の狐型式神が、炎を纏って蜘蛛の群れへと勇猛果敢に突撃する! 式神たちは、蜘蛛の注意を引きつけ、自爆に近い形で炎を撒き散らし、敵の進攻をわずかながらも遅らせる。


さらに、彼自身も杖を振るい、闇の呪詛で蜘蛛の動きを鈍らせ、火の呪符で追い打ちをかける。その顔は冷静だが、額には玉のような汗が浮かび、呼吸も荒くなっていた。彼の魔力も、無限ではないのだ。


「い、行きますっ! 凍てつく刃よ、邪悪を貫け! ――《アイシクル・ランス・マルチショット》!」


雫音も、震える声を振り絞って氷の槍を連続で放つ! それは、訓練場の時のような暴走した威力ではない。彼女の強い意志が込められた槍は、狙い過たず、数匹の蜘蛛をまとめて串刺しにし、その動きを確実に止めていく!

胸の護符が、彼女の魔力を安定させるように淡く光り、その消耗をわずかに軽減してくれているようだ。


俺たちは、必死だった。雷牙が前線で敵の攻撃を受け止め、その突破力で血路を開こうとし、颯季がそのスピードと変幻自在の動きで敵を攪乱し、燎兵が広範囲を呪術と式神で制圧し、雫音が的確な援護魔法で敵の数を減らす。


後衛の二人、特に魔力制御がまだ不安定な雫音に攻撃がいかないよう、俺と颯季は文字通り体を張って戦った。インパルス・レシーバーのゲージが危険な領域に入っても、足を止めるわけにはいかなかった。


だが、いかんせん、敵が多すぎる。倒しても倒しても、次から次へと、まるで無限に湧いてくるかのように、大蜘蛛たちが赤い複眼を光らせて襲い掛かってくるのだ。俺たちの体力も、魔力も、そして集中力も、確実に限界へと近づいていた。


ピピッ! ピピピッ! ビィィィィン!!


俺たちの胸のインパルス・レシーバーが、けたたましい警告音を鳴らし続ける。ゲージは、みるみるうちに赤色へと変わり、点滅を始めている者もいる。


「くそっ、キリがねぇ……! このままじゃ、ジリ貧だ……!」


俺は、一体の蜘蛛を斬り捨てた瞬間、別の方向から飛び掛かってきた大蜘蛛の強靭な糸に左足を絡め取られ、体勢を崩した。そこへ、別の蜘蛛の鋭い牙が迫る!


「雷牙、危ない!」


颯季が、俺を庇うように割り込み、その身代わりに蜘蛛の牙を受けた!


「きゃあっ……!」


彼女のインパルス・レシーバーのゲージが、一気に危険水域まで落ち込む。


「颯季っ! てめぇら、よくも……!」


俺は怒りに任せて糸を引きちぎり、颯季を襲った蜘蛛を滅多斬りにする。だが、その間にも、別の蜘蛛が俺の背後から飛び掛かってきた。


「ぐあああっ!」


俺の体は、まるで木の葉のように弾き飛ばされ、岩壁に叩きつけられる。視界がチカチカし、額から生暖かいものが流れ落ちるのを感じた。インパルス・レシーバーが、激しい警告音と共に、俺のゲージが残り一割を切ったことを告げていた。


「「「雷牙っ!」」」


仲間たちの悲鳴のような声が、遠のく意識の中で聞こえる。


(やべぇ……このままじゃ、本当に……全滅だ……!)


「……お前ら! 逃げろぉぉぉっ!」


俺は、最後の力を振り絞って叫んだ。俺が囮になっている間に、一人でも多く……!


颯季と燎兵が、俺の元へ駆け寄ろうとするが、それを阻むように、さらに多くの蜘蛛が彼らに襲いかかる。もはや、これまでか……。万策尽きた、そう思った瞬間だった。


「いやぁぁぁぁっ!」


雫音の、涙声の絶叫が谷底に響き渡った。彼女は、俺の前に立ちはだかるようにして、必死に杖を構え、何かを詠唱し始めた。その小さな背中は、絶望的なほど頼りなく見えたが、その瞳には、かつてないほどの強い光が宿っていた。


「だめだ、雫音! 無茶だ! お前まで……!」


「私は……私は、逃げない……!」


雫音の声が、震えながらも、確かな意志を帯びていた。


「仲間を……雷牙さんを、失いたくないんですっ!」


彼女の脳裏に、過去のトラウマか、あるいは俺が倒れた姿を見たからか。その悲痛な叫びは、彼女自身の心の奥底からの、魂の慟哭だった。


「私が……私が、今度は、雷牙たちを……守るっ!」


その強い、強い祈りが、引き金となった。




ーCルート最終監視ポイント・安倍孔明ー


「む……!?」


Cルートの最終目的地に設置された監視テントで、生徒たちのインパルス・レシーバーから送られてくるバイタルデータをチェックしていた安倍孔明先生が、鋭く目を見開いた。彼の目の前のコンソールが、けたたましい警告音を発している。


「この凄まじい魔力の奔流は……!? 我が結界術でも観測しきれぬほどとは……! しかも、この質……清浄でありながら、どこか古の、強大な神気すら感じる……! まさか、Cルートの……梶原雫音君か!?」


彼の顔から、いつもの飄々とした笑みが消え、険しい表情へと変わる。データモニターに表示された魔力指数は、異常な数値を叩き出していた。


「これは通常の魔力暴走ではない。何らかの触媒によって、彼女の奥深くに眠る力が強制的に覚醒しつつある……! だが、このままでは彼女自身の魂が持たないやもしれぬ! しかも、この魔力反応の直前に、『四聖幻舞』全体のバイタルが一気に低下している……! 周囲の魔物の反応が……まずい、これは最悪の事態を招きかねん!」


安倍先生は、即座に通信機を手に取った。その声は、普段の彼からは想像もできないほど切迫し、鋭かった。


「学園長! 前田君! 清水君! 聞こえるか!? Cルート『大蜘蛛の谷』にて緊急事態発生! 『四聖幻舞』の梶原雫音が、制御不能なレベルで魔力を解放中! シグナル・リベレイターからの救助要請は確認できず、何らかの魔力妨害を受けている可能性が高い!

これはEランクダンジョンで起こりうる現象ではない! 最優先で救助部隊の出動を要請する! 私も直ちに現場へ向かう! 急いでくれ、一刻を争うぞ!」


通信を終えるや否や、安倍先生は数枚の強力な式神の呪符と、普段は研究用に使用する空間転移の古文書の一部を掴むと、文字通り風のようにテントを飛び出した。彼の額には脂汗が滲み、その瞳には強い焦りの色が浮かんでいる。


「……間に合え……! あの才能を、こんな場所で潰えさせてなるものか……!」




雫音の瞳が、あの魔法訓練の時と同じ、深く、凍てつくような蒼色に染まっていく。胸に下げられた九尾の護符が、まるで心臓のように脈動し、温かい、しかし圧倒的な光を放ち始めた。

彼女の実家、梶原家に代々伝わる、お稲荷様――九尾の狐の、強大で優しい「気」が、彼女の中に流れ込んでくるのを感じる。


(……力を、貸してくれるの……? お稲荷様……九尾様……!)


彼女の身体から、これまでとは比較にならないほどの、莫大な魔力が蒼白いオーラとなって溢れ出した! そのオーラは、周囲の蜘蛛たちを怯ませるほどの威圧感を放っている。




ー高台・アビス・クロウズー


岩陰からその様子を監視していた『アビス・クロウズ』のメンバーは、その尋常ならざる魔力の奔流に、思わず息を呑み、そして表情を凍りつかせた。


「な……なんだ、あの魔力は……!? ヒーラーの小娘、あんな力を隠し持っていたというのか……!? 我々の情報では、ただ魔力量が多いだけの、制御不能な雑魚のはず……!」


煉獄院凶魔が、初めて焦りの色を露わにする。彼の冷酷な仮面が、わずかにひび割れた。


「ククク……面白い……実に面白い! だが、制御できなければただの暴走だ! ……いや、待て……あの力は……神気にも似た、清浄で強大な波動……まさか……あの護符は、ただの気休めではなかったというのか……!? これは……計算外だ……!」


忌部呪々が、何かに気づいたように目を見開き、その声には珍しく動揺が混じる。


「まずいわ……! あの魔力、助けに行くどころじゃない……! 下手をすれば、こっちが巻き込まれて殺される……! あの結界らしきもの、尋常な防御力じゃありませんわ! 我々の存在がバレたら……!」


蝮沼桔梗の顔から、いつもの妖艶な笑みが完全に消え、恐怖と焦燥が浮かんでいた。


「お、おい! あのヒーラー、マジでヤベェぞ! なんだよ、あのプレッシャーは! あんなのが、あのパーティーにいたのかよ!?」


鬼塚轟ですら、その圧倒的な魔力を前に、本能的な恐怖を感じていた。


煉獄院凶魔は、ギリッと歯噛みした。


「……チッ! 計画変更だ! これ以上ここにいては危険すぎる! あの力は、我々の手に余る! 教官どもが来る前に、ここから離脱するぞ! 奴らがどうなろうと、我々の知ったことではない! だが、この借りは、必ず返す……!」


捨て台詞を残し、煉獄院凶魔は忌々しげに踵を返した。『アビス・クロウズ』の面々も、一目散に、その場から逃げ出していった。彼らの巧妙な罠は、予想外の力によって、脆くも崩れ去ろうとしていたのだ。


ご一読いただきありがとうございます!

最近読んでくださる方が増えてきて、とても嬉しいです。

もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。

今後の励みになりますので、ぜひページ下のいいねボタンで応援してください。

よろしくお願いします(^O^)/

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