第8話「鎖を断つ者」
──夜明け前。
鎖村の空気は、いつになく張り詰めていた。
俺、リベル・アーツは、広場に集まった村人たちを前に、静かに言った。
「今日、俺たちは──自由を掴み取る」
顔を上げる村人たち。
怯え、迷い、それでも、確かな決意が宿っている。
(もう、誰も下を向いていない)
ティオが、真っ直ぐな目で俺を見上げた。
「リベルさん。
──オレたち、行こう」
俺は、力強く頷いた。
作戦はシンプルだ。
● 村人全員が一斉に、ギルドに対して「契約解除申請」を提出する。
● 解除理由は「説明義務違反」と「無効契約条項」。
● 拒否されれば、村ぐるみで評議会に告発する。
いきなり力でぶつかるのではない。
"ルール"を逆手に取り、"知恵"で勝つ。
(これが、"貯める力"で掴む自由だ)
朝、ギルド支部前。
取り立て屋たちが、面食らった顔をする。
「な、なんだぁ……この集団は」
村人たちは、怖くても、怯まずに列を作る。
一人一人、書類を突き出す。
「契約、解除だ」
「違反があったからな」
「このままごまかすなら、評議会に持ち込む」
取り立て屋たちが怒鳴る。
「ガキが調子乗りやがって!」
「ギルド様に逆らうってどういうことか、わかってんのか!」
──だが。
誰一人、引かなかった。
ティオも、老人たちも、若者も、主婦たちも。
皆、ぎゅっと契約書を握りしめ、前を見据えていた。
(──これだ)
俺は、胸が熱くなった。
この村は、
もう、"奴隷"じゃない。
ギルド側はしぶしぶ交渉に応じざるを得なくなった。
不正なオプション契約の解除。
更新料の不当請求の取り下げ。
契約書の改訂と、違約金なしでの解約。
すべて、勝ち取った。
村の空気が、変わった。
重苦しい鎖が、次々と断ち切られていく音が──
確かに、聞こえた。
夜。
村の中心で、ささやかな祝いの火が焚かれた。
ティオたち若者は、笑いながらパンを分け合い、
大人たちも、涙ぐみながら、互いを讃えあった。
俺は、少し離れた丘の上にいた。
そこに──ふわりと、金色のカーペットが舞い降りる。
「よくやったな、リベル・アーツ」
バリ師匠が、満足げに言った。
「お前は、"貯める力"を身につけた。
──そして何より、人々に"自由を掴む力"を教えた」
俺は、静かに答えた。
「俺一人じゃ、何もできなかった。
みんなが、勇気を出してくれたからです」
バリ師匠は、にやりと笑った。
「その謙虚さを忘れるな。
自由は、常に"誰かと共に掴むもの"だ」
師匠は、懐から小さなメダルを取り出して、俺に投げた。
受け取ると、そこには──
【スキル:貯める力 Lv2】
無駄を見抜き、未来への資産を築く者
と、刻まれていた。
「さぁ、次だ」
バリ師匠は、遥か東の空を指さした。
「"減るマネー"と呼ばれる、その村が待っておる。
──お前の力で、さらに大きな自由を広げてみせよ」
俺は、強く頷いた。
(もう、迷わない)
(俺は──自由のために、生きる)
こうして、
次なる戦場へ──
希望と覚悟を胸に、俺は歩き出した。
【To be continued...】