第7話「最初の一歩」
広場に集まった村人たちの中で、
一人──少年のように痩せた若者が、もじもじと手を挙げた。
「……オレ、やる」
その声は、震えていた。
だが、確かな意志が宿っていた。
名は、ティオ。
まだ十六歳。
この村で最も若く、最も未来を奪われた世代だった。
「ティオ、お前……!」
周りの大人たちが驚きの声をあげる。
ティオは、小さな拳を握った。
「ずっと、逃げたいって思ってた。
でも、どうすりゃいいかわかんなかった。
──今なら、少しだけ、勇気が出せそうだ」
俺は、にっこりと頷いた。
「よし、ティオ。
一緒に、鎖を断ち切ろう」
ティオが契約していたのは、
取り立てギルド提供の「幸運増幅保険」プランだった。
月5銀貨。
解約するには、"本人意思"による契約解除申請が必要。
ただし、
申請場所はギルド支部。
受付の取り立て屋たちは、解約者に罵声を浴びせ、脅し文句を並べてくる。
(ティオ一人じゃ、絶対に押し負ける……!)
俺は、作戦を考えた。
「ティオ、こう言うんだ」
俺はメモを渡した。
「この契約に関する説明義務違反により、解除を求めます。
不当な阻害行為を記録し、外部ギルド評議会に提出します。」
ティオは、顔を青くしながらも頷いた。
(説明義務違反──
つまり、契約時にリスク説明が不十分だった場合、契約は無効にできる)
バリ師匠が教えてくれた"知識の剣"を、ティオに託す。
翌日。
村のギルド支部前に、ティオは立った。
取り立て屋たちが睨みつける。
「チッ、何の用だ、ガキが」
「まさか、契約破棄とか言うんじゃねぇだろうな?」
ティオの手が、わずかに震える。
──だが、
彼は、震える声で言った。
「……この契約、説明が不十分だった。
……解除、申請します。
拒否するなら、記録して評議会に提出します!」
一瞬、空気が凍った。
取り立て屋たちは顔を歪めたが──
評議会への告発となれば、彼らにとってもリスクだ。
しぶしぶ、ティオの解約申請は受理された。
「やったぁああああ!!!!」
広場に戻ったティオは、顔を真っ赤にしながら、拳を突き上げた。
村人たちは、
最初はぽかんと、
次に、どよめき、
最後には、大きな拍手でティオを迎えた。
「すげえ……ティオが、ギルドと対等に渡り合った……!」
「できるんだ……!自分の力で、鎖を断ち切れるんだ!!」
ティオは、照れくさそうに笑った。
俺は、そっとティオの肩に手を置いた。
「よくやった、ティオ。
──お前が、この村の未来を変える一歩目だ」
ティオの目に、涙がにじんだ。
高台の上。
バリ師匠は、静かに見守っていた。
「……最初の一人が変われば、
村全体が動き出す。
──それが"自由の連鎖"だ」
師匠は、そっと呟いた。
そして、
俺と村人たちの未来を、静かに見届けるように、
空へと消えていった。
【To be continued...】