第51話「風のあと──ダーレン・バケットと静かなる対話」
──リッチナーン、再建から数日後。
崩れた塔の跡地には、
若い魔導士たちが集まり、“仕組みの講義”を自発的に開いていた。
「ちゃんと分散しようね〜」
「為替リスクは“通貨の分散”で対策するんだよ〜」
リベルたちが立ち上げた「自由の森プロジェクト」は、
街の新たな文化として根付きはじめていた。
そんな中、リベルのもとに一通の手紙が届く。
──送り主:ダーレン・バケット
「ちょっと話がしたい」とだけ書かれたその手紙を手に、
リベルは郊外の“配当の丘”へ向かった。
◆◇◆
静かな風が吹き抜ける丘の上。
ミルクティーをすすりながら、賢者はそこにいた。
「……やぁ、リベルくん。来てくれて嬉しいよ」
「こちらこそ、お招きありがとうございます。
街のおかげで、やっとみんなが“育てる力”に目を向けてくれるようになりました」
バケットは微笑みながら言った。
「でも君は……どこか、疲れた顔をしているね?」
リベルは、ほんの少し苦笑した。
「正直、思ってたよりも……ずっとしんどいです」
「地道に、派手じゃないことを伝えるのって、
“戦い”みたいなんですね」
バケットうなずく。
「うん、派手さは人の心を引くからね。
でもね……」
「“地味でも本物”なものが最後に残る。
投資も、人生も、そういうものさ」
「君は、“自由の文化”を街に根付かせた。
もう、ポンジが戻ってきたとしても……通用しないよ」
リベルの表情が、少し緩む。
「……そうだといいな」
バケット、ポケットから小さなメモを取り出して差し出した。
「これは私の“初期投資メモ”さ。
どれだけ小さく始めたか、見てみるといい」
そこには──
『魔導石株×毎月10ルル・購入』
『分散:木材/水道/魔導輸送』
『目的:配当で年老いた猫の薬代』
という、思わず笑ってしまうような手書きメモが残されていた。
「……なんだこれ……かわいいじゃないですか」
「猫、元気になったんですか?」
「うん。18歳まで生きてくれたよ」
ふたりは静かに笑った。
そしてバケット立ち上がる。
「さあ、君の旅はまだ続く。
次は、“稼ぐ力”を必要とする人々が待っているんだろう?」
リベルはしっかりと頷いた。
「──はい。自由の種を、もっと広く撒いていきます」
風が吹く丘に、バケット声が静かに響いた。
「夢を見るのは自由だ」
「でも、“育てた夢”ほど、美しいものはない」
リベルは、歩き出す。
次なる地へ──
“稼ぐ力”を求めて、
自由を届けるために。
【To be continued…】