第35話「その幻想、壊してやる──“複利の力”と再起の始まり」
──夜、リッチナーンの片隅。
リベルたちは、古い倉庫を借りて簡易の作戦本部を開いていた。
目の前には、昼間出会った青年・シュウト。
魔導配当の“保証”にすがり、
身を削って得た資金を、全てモラウサギ商会につぎ込んだ一人だった。
「オレ……信じてたんだよ」
「“働かなくても稼げる”って、すごいと思った」
「でも気づいたら、仲間も、金も、未来も失ってた──」
誰もが静かに耳を傾けていた。
ティアがぽつりとつぶやく。
「オレも一歩間違えたら……そうなってたかもな」
ミーナも、そっと隣に座って言った。
「シュウト、あなたが悪いんじゃない」
「“知らない”ことを、責める必要なんてないよ」
リベルが、ゆっくりと口を開いた。
「──本当の“増やす力”は、派手じゃない」
「地味で、遅くて、目立たない。
でも確実に、未来を育てる力だ」
魔導板に映し出されたのは、一つの数字。
年5%で複利運用した場合の資産推移
10年後:1.6倍
20年後:2.6倍
30年後:4.3倍……
「これは“複利”っていう魔法だ」
「お金が働いて得た利息が、また働き出す。
そしてそれが、雪だるま式に膨らんでいく」
シュウトが、静かに呟く。
「……時間がかかるんだな」
「でも……そうか。
やり直せるなら、そっちの方がいいかもしれない」
ティオがガッと拳を握った。
「リベルさん!オレもその“複利魔法”、覚えたいっす!」
ハルクが笑う。
「地味でも、倒れねぇ魔法の方が、オレは好きだな」
「じゃあ、やってみよう」
リベルは魔導板に魔法陣を描いた。
「今日から、複利を味方につけるトレーニングだ」
「シュウト──お前の“これから”に、投資してみないか?」
その夜、倉庫の明かりは遅くまで灯っていた。
失ったものを、少しずつ取り戻すために。
そして、自分の力で“自由”を築くために。
翌朝。
シュウトは立ち上がって言った。
「……オレ、“魔導積立システム”を始めるよ」
「時間はかかる。でも、自分で育てる方が、ちゃんと自由に近づける気がする」
リベルは、にっこりと笑って言った。
「それが、“増やす力”の最初の一歩だよ」
【To be continued…】