第167話 「文字単価0.03円でも、オレには価値があった」
──翌朝。
クラウドワークスの通知が、スマホに届いていた。
【まちだ様からメッセージが届いています】
【「ご提案ありがとうございます!お願いできますでしょうか?」】
目が覚めるより早く、心が跳ねた。
(──採用された……!?)
提案した案件。
テーマは「退職後、生活防衛資金で暮らしたリアルな話」。
報酬は、3000文字でたったの100円。
文字単価にして0.03円──“副業の現実”をまざまざと突きつけられる金額。
でも、健太郎は思った。
「評価されないより、安くても“必要とされた”ほうがずっといい」
◆
早速、記事の執筆に取りかかる。
PCの前に座り、あの日々をなぞるように、言葉をつむいでいく。
──退職届を出した日の不安
──口座残高を見て震えた夜
──固定費を削り、生活防衛資金でなんとか1ヶ月しのいだこと
──その中でも“気づき”や“反省”があったこと
「誰かが、これを読んで“安心”してくれたらいい」
ただそれだけを想いながら、丁寧に綴った。
途中、何度も校正し、読み返し、構成を整え──
納品ボタンを押した瞬間、深く息を吐いた。
(……これが、“仕事”か)
◆
数時間後、クライアントから返信が届く。
「とても読みやすく、リアリティのある内容でした。
初心者の方とは思えません。またお願いしたいです!」
──さらに、評価欄には:
【★★★★★】
【納期:迅速/品質:高い/対応:丁寧】
たった1件。
たった100円。
でも、健太郎の心は熱くなっていた。
(誰かが、オレの言葉に価値を感じてくれた)
それが、どれだけ嬉しいか──
会社では、数字でしか評価されなかった。
上司に褒められることもなかった。
けれど今は、知らない誰かが“評価”をくれた。
仕事として、自分の言葉に「報酬」と「信頼」がついた。
◆
その夜、健太郎はノートに記す。
『自分の中の経験が、誰かの役に立った。
安くても、最初の一歩が“心の火”になる。
たった100円で、オレはもう一度、社会とつながった気がした。』
そして、ふと口角が上がった。
「100円って、すごいんだな……」
会社で100円稼ぐのと、
“個人で100円稼ぐ”のは、まったく違う意味を持っていた。
【次回予告】
「安い案件ばかりやってたら、時間が足りなくなる」──
単価を上げるには、何が必要なのか?健太郎、単価アップの壁にぶつかる。
次回:「“稼げるライター”は何が違う? 単価交渉とポートフォリオの話」