表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/192

第167話 「20ページの本が、オレの人生を語り出す──Kindle出版、始動」

──Kindle出版って、簡単なんでしょ?


そう思ってた。甘かった。


 


健太郎は、ノートPCの前で3時間以上フリーズしていた。


「タイトル、どうする……?」「表紙って……画像どこで作るの?」


 


ネット記事を何本も読み、動画も見た。

“誰でも簡単!”って書いてあるくせに、やることは山のようにある。


アカウント登録


銀行口座登録(海外銀行用の選択肢がわかりにくい)


税務情報入力(英語表記と格闘)


本文ファイルの作成(Wordで文字化け地獄)


表紙画像の仕様(縦横比の謎)


そして“説明文の書き方”問題


 


「……簡単って言ったやつ、前出ろ」


愚痴りながらも、健太郎は少しずつ形を整えていった。


 



 


執筆テーマは、自分がブログで書いてきた内容の再編集。


タイトルはこう決めた:


『会社を辞めた日の僕へ──生活防衛資金と自由への準備ノート』


 


目次は5章構成。


会社を辞める前に知っておきたかったこと


生活防衛資金って何?


固定費見直しのリアル体験談


失業保険、実際いくらもらえる?


不安な心とどう付き合うか


 


内容は、うまく言えば「ミニマルで読みやすい」。

正直に言えば「短いし素人感バレバレ」。


でも──今のオレだから書ける本だった。


 



 


Canvaで表紙を作るときは、どこか緊張していた。


タイトルが目立つようにフォントを調整。

色は、節約と冷静さを表す“淡いブルー”。

背景には、ひとりの男が静かに前を向いて歩くシルエット。


 


「……ダサいかも。でも、これは今のオレの全力だ」


そう思えたからこそ、アップロードボタンを押せた。


 


Kindle本は、販売価格250円。

印税は70%、つまり1冊売れたら約175円。


 


大金ではない。

けれど、これは“ただの商品”じゃない。


オレ自身の証明書だ。


 



 


その夜、画面には「審査中」の文字が表示されたままだった。


だが、健太郎はノートにこう記した。


『出版とは、自分の経験に値札をつける行為だ。

安いか高いかは、読んだ人が決める。

でも、“届ける勇気”だけは、オレが決められる。』


 


異世界で仲間と書き記した「リベシティの建国録」。

その続きが、いま現実世界で始まった。


 


──これは、小さな革命だ。


──販売開始から、3日が経った。


健太郎の初めてのKindle本、

『会社を辞めた日の僕へ──生活防衛資金と自由への準備ノート』。


公開ボタンを押したときの興奮は、もうどこか遠い。


 


「……売れてねぇな」


AmazonのKDP(電子書籍出版プラットフォーム)の画面には、

【販売部数:0冊】

【KENP(Kindle Unlimited読了ページ数):0】

【レビュー:なし】


文字通り、完全無風。


 


“まあ、最初はこんなもんだろ”と強がるつもりだった。

でも、正直な気持ちを言えば──ちょっと、いや、かなり凹んでた。


 



 


Twitterで「Kindle出版しました!」と投稿した。

ブログでも記事にして告知した。

ココナラのプロフィールにもリンクを貼った。


それでも、数字は動かない。


 


「オレの話なんか、誰も興味ねーのか……?」


 


画面越しに浮かぶ0という数字が、

静かに健太郎の自信を削っていく。


異世界の魔物は、吠えもせず、襲いもせず、ただ無音で近づく──

そんな“心の敵”だった。


 



 


その日の夜。

健太郎はインスタント味噌汁を啜りながら、自分に問う。


(オレは、なんでこの本を書いたんだっけ?)


答えは明確だった。


「1ヶ月前の自分」を助けたかったからだ。


 


“あの頃の自分”が読んだら、

たとえ一言でも、何かが救われる内容にしたつもりだった。


そして──

「誰かひとり」に届けば、それでよかったはずだ。


 


「オレが最初から“売れるかどうか”しか見てたら、

 この本、そもそも書いてないんだよな……」


 


健太郎はそっとパソコンを閉じ、ノートを開いた。


そして、いつものように静かに言葉を綴る。


 


『数字は評価ではない。

評価は、時間と共に育つものだ。

オレは、オレ自身の“証明”として書いた。

だから、この本が売れなくても、意味はある。

誰かが読むその日まで──オレが、この本を信じ続ける』


 


 



 


その夜、通知が1件届いた。


【Kindle Unlimitedで1ページ読まれました】


 


たった1ページ。


でも、確かに“誰か”がページをめくった証だった。


 


健太郎は、小さく息を吐いて、笑った。


 


「……ようこそ、オレの本へ。1ページでも、ありがとう」


 


売上はゼロ。レビューもゼロ。

でも、オレの言葉は、今、誰かの画面の中にある。


 


それだけで、今夜は少しあたたかかった。


──“いい本を書いた”だけじゃ、届かない。


 


健太郎は、Kindleの販売ページをじっと見つめていた。

数字は動かない。レビューもつかない。

KDP(電子書籍管理画面)に表示された売上は、相変わらずゼロのままだった。


 


「そりゃそうだよな……誰も“存在”を知らなきゃ、手に取れないわけだ」


 


本の中身に手応えはあった。

でも、今必要なのは、“中身”じゃない。


「届け方」だ。


 



 


健太郎は、まず表紙を作り直した。


前作は落ち着いたブルー。誠実な印象はあったが、目立たなかった。


今回は、あえて「白×黒×赤」の構成。

「辞めたい人の背中を押すメッセージ」を強調したタイトルバナーを追加。


 


次に、タイトルを変更。


旧)会社を辞めた日の僕へ──生活防衛資金と自由への準備ノート

新)退職したら、まず読んでほしい!生活防衛資金・固定費・失業保険まるわかり本


 


検索に引っかかりやすいキーワードを入れ、

「不安な人が“クリックしやすい”導線」を意識した。


紹介文も、かつての自分に語りかけるような文章にリライト。


 


「伝えるって、“売る”ことじゃない。

 “ちゃんと届くように整える”ことなんだな」


 



 


仕上げはSNSとブログ。


Twitterにて、表紙画像付きで以下の投稿をした:


「退職した時、何をすればいいか全然わからなかった。

同じような人に、今の自分だからこそ書ける本を届けたいと思って、Kindle本を出しました。

内容は生活防衛資金・固定費・失業保険の話。

誰かひとりに届けば、それでいいです。」


 


数時間後、通知が鳴った。


【引用リツイート:「これ、まさに今の私……」】

【いいね:13】

【リプライ:「読んでみます!」】


 


その夜、KDPの画面を更新すると──


販売数:1冊

KENP:28ページ

レビュー:★4/「具体的で、焦っていた自分にとって参考になりました」


 


健太郎は、静かにスマホを置き、天井を見上げた。


「……届いたんだな」


 


1冊。

レビュー1件。

それだけなのに、胸が熱くなる。


 


 



 


ノートに、今日の気づきをこう書いた。


『どれだけ思いを込めても、伝わらなければ意味がない。

届け方を工夫して、ようやく価値は“伝わるもの”になる。

発信力は、自分の中の価値を外に届ける翼だ。』


 


ようやく、自分の言葉が“商品”になった。

ようやく、誰かの中に残る形になった。


 


Kindle出版、ここまででようやく“スタート地点”。


あと1話で、この挑戦にひと区切りをつけよう。


  


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ