【後日談】 「風が遺したもの」
──それから数年後。
かつて灰色だった鉱山都市・ディセルドは、
“自分で考え、自分で働き、自分で選ぶ”街へと生まれ変わっていた。
建物が派手になったわけじゃない。
技術や資源が急に増えたわけでもない。
けれど、笑う声があった。
誰かを指さして怒る声よりも、
「自分で選んだ」ことを誇る声が、広がっていた。
街の広場に、ひとつの銅像が建てられている。
それは──
ただ背を向け、コートの裾を翻すだけの“無名の旅人”の像。
台座に名前はない。
ただ、こう刻まれている。
『ここに立ち寄ったひとりの風が、
この街を“自由のある街”に変えた。』
『あなたの選択が、誰かの明日を照らしますように。』
少年──いや、今や若き指導者となったセナ・リオネルは、
その像の前で語る。
「風の人が教えてくれたのは、
“何者かになる方法”じゃない。
“自分のまま選ぶ勇気”だった」
彼の言葉を聞いた子どもたちが、問いかける。
「その人って、誰だったの?」
セナは微笑む。
「さあ……誰だったんだろうね?
でも、君の中にも“その風”は、ちゃんと吹いてると思うよ」
そして──
遠く離れた街、リベシティでも。
建国記念祭のたびに、ある一席が空けられる。
誰も座らないその椅子を囲んで、
ティアやハルク、ミーナたちは冗談を飛ばしながら笑い合う。
「今日も、あの人帰ってこなかったなぁ」
「帰ってこないのが“リベルさんらしさ”ってもんやろ」
「うん。でも、たぶん今も誰かの“自由の力”を吹かせてるんじゃない?」
みんな、そう思ってる。
そして、誰も知らないどこかの丘で。
一人の男が、また歩き出している。
名前も名乗らず、目的も語らず。
ただ、誰かが“もう一度選びたい”と願う場所へ──
「……いい風だ。次も、よそ者で行かせてもらおか」
今までお読み頂きまして有難うございます。次回より、異世界で得た5つの力を現実社会で活用していく。現実編が始まります。楽しみにお待ちください!
感想・お気に入り登録・リアクションお願いします。