表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/192

第155話「風は、止まらなかった」

──暴動は起きなかった。


それは奇跡ではなかった。

誰かが何かを止めたわけでもない。

リベルが剣を抜いたわけでもなかった。


ただ、“言葉”が吹いたのだ。

「自分で選びたい」という、たったひとつの願いが、風になって街を包んだ。


その夜、街には奇妙な静けさがあった。

だがそれは、沈黙ではなかった。


人々が、“初めて自分の頭で考えていた”時間だった。


少年は、火の灯る広場で立っていた。

彼の周りには、徐々に集まり始めた市民たち。

労働者も、評議員も、商人も、誰もが手ぶらでそこにいた。


「僕は、もう誰かに答えを決めてほしくない。

でも、誰かの意見を聞いてはいけないとも思わない。

だから……一緒に考えよう。

この街を、どうするのかを──自分たちの言葉で」


その言葉に、沈黙していた市民のひとりが、口を開いた。


「俺は……配給に依存してた。

でも、本当は自分で育てた野菜が一番うまかったんだ……」


「私はずっと、“間違えたら誰かに怒られる”って思ってたけど、

リベルさん、何も怒らなかった。むしろ、笑ってくれた」


「自分で決めるって、怖いけど……それって、生きてるってことよな?」


リベルは、その様子を遠くの影から見ていた。

少年の声に、初めて言葉を返す大人たち。

言葉が対立を生まず、次の問いを生む時間。


「そうだ……それでいいんだ」


明くる朝。

街は何も変わっていなかった。

建物も、路地も、空の色も、鉱山の煙も。


けれど──

街の人々は、朝から広場に集まっていた。


再建派も、自治派も、バッジを外し、

「個人」として、座っていた。


「派閥ではなく、市民として話し合いたい」

「配給の仕組みを、みんなで考え直そう」

「子どもたちに、“考える練習”をさせたい」


それはまだ、稚拙で、意見は揃っていなかった。

けれど、その不揃いこそが、“選び始めた証”だった。


リベルは、その光景を見届けたあと、宿を後にした。


宿主は声をかけた。


「……お前の名前、結局わからずじまいだったな。

なあ、ひとつだけ教えてくれ。お前は、何者なんだ?」


リベルは、ほんの少しだけ微笑んで言った。


「風」


「……は?」


「ただ、風。

空気を変えるだけ。何も持ってこないし、何も持ち帰らない」


 【リベルのノート 最後の一節】:


『選ぶ者たちが動き始めた。

俺はもう、必要ない。

なら、次の風の吹く場所へ──』


【To be continued…】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ