第154話 「選ばぬ者に、明日は来ない」
──夜明け前の街は、いつにも増して重かった。
再建同盟の拠点では、副代表ブロガスが顔を紅潮させて怒鳴っていた。
「アイツが戻ってからだ!
労働報告の数字がガタガタだぞ!
“もうやめたい”だの、“自分で働き方を選ばせろ”だの……
まるで“自由”ってやつが、この街にあるみたいな言い草じゃないか!」
部下たちは押し黙る。
もう誰の目にも明らかだった。
風が変わっていた。
だが、それを“誰が吹かせたか”を指させる者は、まだいなかった。
一方、自治評議会も揺れていた。
エルネが主導した「臨時意見会議」には、市民が大勢集まった。
話されたのは、希望ではなかった。
“沈黙の痛み”だった。
「ずっと、誰かが決めてくれるのを待ってた」
「でも、待ってても、生活は良くならなかった」
「だからって、自分で決めるなんて怖すぎる……」
「だって、間違ったら──誰のせいにもできないから」
その言葉を、リベルは後方の柱にもたれて聞いていた。
彼は何も言わない。ただ、ただ聞いていた。
そのときだった。
集会所の外から、怒号が響く。
再建同盟が、デモを暴動と認定し、排除部隊を出したのだ。
武装した男たちが、叫びながら広場へ突入してくる。
逃げる市民。泣き叫ぶ子どもたち。
混乱の中で、エルネが叫んだ。
「やめろ!!ここは話し合いの場だ!!」
だが叫びは届かない。
暴力が、すべてを塗りつぶそうとしていた。
その瞬間──
一発の音が、空気を切り裂いた。
広場の中央。
リベルが、たったひとり、そこに立っていた。
剣も杖もなく、ただその姿だけで“暴力を止めた”。
誰もが息を呑んだ。
彼は、叫ばず、威嚇もせず、ただ一言、呟いた。
「……それでいいのか?」
沈黙のなか、ひとりの少年が前に出る。
少年:「僕は、自由なんて知らなかった。
ずっと、“決めてもらう方が楽”だと思ってた。
でも──もう違う!」
彼は振り返り、街の人々に叫ぶ。
「僕は、自分で決めたい!
誰かに怒られたって、間違っても、やり直してでも──
僕は、僕の明日を選びたい!」
その声に、誰かが頷いた。
誰かが拳を下ろした。
誰かが涙を流しながら、“初めて”うなずいた。
【リベルのノート】
『自由とは、誰かが与えるものではない。
それは、“自分で引き受ける覚悟”だ。
選ばぬ者に、明日は来ない』
【To be continued…】