第10話「希望の火種」
ヘルマネ村に入って、俺はすぐに違和感を覚えた。
街並みはそれなりに整っている。
服もそこそこきれいだし、タブ石だってみんな持ってる。
──だが。
表情が死んでいる。
大人も、子供も、
笑っていても、心ここにあらずだった。
(……これじゃあ、
ただ"生きるために消費してるだけ"じゃないか)
胸の奥が、ズキリと痛んだ。
そんな中。
広場の隅っこで、騒がしい声がした。
「また通信費引き落としエラー!?うそだろ!?」
「なんでこんな高いんだよ!もう限界だって!」
怒鳴りながら地面にタブ石を叩きつけそうになってる若者がいた。
その隣で、
小柄な女の子が慌てて止めている。
「やめなよ!壊したって、ローンだけ残るだけだよ!!」
俺は、思わず近づいた。
「……大丈夫か?」
若者たちは、警戒した目で俺を見た。
だが、
タブ石を握ったままの少年──ハルクが、ふっとため息をついた。
「……誰だよ。
どうせまた、ギルドの回し者か?」
俺は、首を振った。
「いや、違う。
俺は、"自由になりたいだけ"だ」
一瞬、ハルクたちの表情が揺れた。
その隣の少女──ミーナが、おそるおそる尋ねた。
「自由……?」
俺は頷く。
「──そうだ。
この村、おかしいと思わないか?」
ハルクは、口をへの字に曲げた。
「……思ってるよ。
でも、しょうがねぇだろ。
これが"普通"なんだろう?」
「普通」──
その言葉に、俺は強く首を振った。
「違う。
本当に自由な世界は、
自分の金を、自分のために使える世界だ」
ハルクたちは、ぽかんとした顔をした。
(……伝わるか?)
俺は、ポケットから、銀色に光る【信用コイン】を取り出した。
手のひらに乗せ、
彼らに見せる。
「これが、俺の持っている財産だ。
金じゃない。
──信用だ」
ハルクが眉をひそめた。
「信用……?」
「そう。
無駄な出費を切り捨て、
本当に必要なものだけに金を使う。
信じられる仲間と、力を合わせて生きる。
それが、自由の第一歩だ」
ミーナの目が、かすかに輝いた。
「……そんな世界、本当にあるの?」
「──これから、一緒に作ろうぜ」
俺は、手を差し出した。
ハルクとミーナは、
しばらく戸惑ったあと──
「……くそ、なんでかわかんねぇけど」
「信じたいって、思った」
二人は、俺の手を取った。
こうして、
ヘルマネ村で最初の仲間ができた。
小さな、けれど確かな火種。
この火を、絶やすものか。
俺たちの──
自由への戦いが、今、始まった。
【To be continued...】