第6話【物を考える~1~】
時に世界は小さなものに支配される。あまりに広大な空間においても、それを無意識に大きな運命へと導くものがあるのだ。それは時代を遡れば生命の誕生であり、遺伝子の形成であり、その小さなコピーのミスの繰り返しであると言えよう。
ただ、その原因となりうるものを特定するのは難しい。単に運命がそういう方向に転んでいったとしか言えないのである。
想像してほしい。ここになんの変哲もない10円玉があるとする。これが数秒後、地面に落ちるとしよう。もし、この10円玉が世界を大きく変えるものになるとしたら、それは一体どんな音を立て、どこに落ちるというのだろう。音もなく絨毯の上に落ちるのか、ワイングラスの中で乾いた音を立てるのか。それは解らない。ただ、世界や運命というのは、そう言った小さく普遍的なものがしばしば動かしてしまうものなのだ。僕らの気付かないうちに。
良く生きたい。うまくすり抜けたり、押し返したり。逃げたり立ち向かったり。そう思う。それでも小さな運命の歯車はしばしば自分のすぐ傍で生きていて、その体に似合わず大きく何かを変えようとする。だから、どんなに従順に生きていてもそのことで悪人になるかもしれないし、逆に自分の汚い部分が人を救ったりもするものなのだ。
そう考えると、どうやって生きていけばいいのかと考える。今まさに10円玉を握りしめ、それを床に落としてみてもそれは何も変えてはくれない。そして予期せぬ時に何兆かそれ以上の確率をかい潜って、その10円玉は世界を変えてしまうのだ。
かと言って、諦めたくはない。どうやってでも自分の運命を自分で進んでいきたいと考える。そして作り上げる。自分の目標や夢を。自身の未来に目印を突き立て、儚く散りゆく事を覚悟しながら、それでも進むのだ。物を知り言葉を操り経験し想像する。そうして一秒一秒を進むのだ。決してただやり過ごさぬよう。
10円玉を見つめながらただそう思う。ただの10円玉で、僕はここまで飛ぶこともできる。少し、不便でもあるが。
小さなものにも動かされる儚い運命だからこそ、その恐怖をちゃんと知った上で決断する。回りくどいようで、決めた自分に責任を持つ。それを愛しく思う。こうしてまた一つ、物を考える。
さあ、次は何を考えようか。