表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/27

第3話【今と嘘】

どこにある?と聞かれれば間違いなくここにある。だが、そのここも一瞬で今ではなくなるものだ。当然。だが納得できない。それが今というものだろう。


 拳を握ろう。握れる。少し歩こう。歩ける。しかし、一旦その構造を機械的に考え出すと途端にぎこちなくなる。今までが嘘であったかのように。


 僕はどこ?俺はここ。私は昨日。君は未来。


 暗くなった空を見上げる。そこに星はある。だが、厳密に言うとそれは今そこにない。何十年、何百年前の光たち。それは嘘?だが本当。今見えている。


 突然こみ上げる痛み。うずく傷。それは誰?昔の自分。今の痛みではない。でも、今まさに痛い。嘘ではないのだ。


 涙。今落ちる。この目から落ちた。証明できるか?もう、できない。既に今は泣いていない。


 また、空を見上げる。やはり星はある。眼球が捉え、脳が感知する。ほんの少しの誤差。じゃあ、君も今の君ではない。ああ、そう。僕も。僕もだ。


 今ここにいる?いや、確かにいる。それでも疑う。やはりいる。今ここにいる。疑っている自分が。デカルトはそう言ったわけだ。


 僕はここにいない。嘘をつく。笑う。泣く。やはりここにいる。だが、今はまた証明ができない。それは今じゃないから。



 君が亡くなった。聞かなければそうじゃなかった。確認しなければ本当ではなかった。だが、今君はいない。それが今。


 でも、僕はここにいる。君はもういない。それでも極端に言えば、君はいる。残りカスとなって、重い石の下。


 僕にはわからない。君がいるのかいないのか。いるとは思いたいが、どちらかと言うといないのだろう。


 また空を見上げる。そこに君はいないらしい。涙はここにある。君はいないながら、君は僕を泣かす。


 毛布にくるまる。暖かい。でも君はいない。それがどうやら本当だ。


 目を閉じる。さっき見た星空が目に浮かぶ。君もそこにいる。簡単に思い出せる。今、思い出せる。でも、それは今じゃない。



 一秒前の自分を否定できない自分は、今の自分じゃない。それは、一秒前の自分だ。


 

 怖くない。言い聞かせる。つまりは怖い。時計の針は1秒ごとに小さな音を立てる。すぐに今は今じゃなくなる。


 それでも今怖い。今痛い。今また涙がこぼれる。共に歩む今じゃなくなったから。


 だからそれでいい。怖くていい。嘘じゃないから。


 僕はいる。ここにいる。今。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ