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第20話【たとえ君と政治。】

 以前紹介したが、私の同僚に「たとえ君」というあだ名の者がいる。すぐたとえ話をするところがあるので、そういうあだ名になった。まあ、私しか呼んでいないのだが。


最近のたとえ君を例えるならば、煮込みすぎた大根の様である。本来の味であるあの食感もなく、グニャリとしていて箸を入れるだけで崩れてしまい食べ辛い。これから多少イラっとするぐらいたとえ話を聞かされる事を考え、先に例えておいた。


 本来不便とも言えるほどの超集中力を持っているたとえ君であるが、最近はあくびばかりしていて張り合いがない。先日問いただしてみると、毎晩毎夜洋画を借りてきて鑑賞しているらしい。そういえば少し前、彼が映画に明るくないことを突っ込んだのは私であった。そうか、その時は笑っていたが余程悔しかったらしいな。それからたとえ君はレンタル屋の棚を片っ端から借りては観て勉強しているらしい。さらに昼休みなどは、映画に関係している著名人の本などを読み、映画の周りの相関図まで詳細に頭に叩き込んでいるようだ。うむ。さすがはたとえ君。一旦何かに執着すると凄まじいものだ。だが、今朝私が「スタローンとシュワルツネッガーの筋肉は全てCGだ。」と説明したところ偉く感心していた様子を見ると、どうもまだ勉強が足りない(というか、他の何かが足りないのかもしれないが。)らしい。


 ともかく、昼休みも終わりを迎えたので、ちょっとたとえ君をいじくりはたき摺り倒してみよう。


「やあ、たとえ君。随分眠いようだね。」


「そうさなあ。例えるなら、壊れかけのレイディオの様だ。周りと通信するのに苦労する眠さだな。」


 虚ろな目を擦りながらも、たとえ君はやはり例える。“レイディオ”という辺り、徳永英明を意識しているのは間違いない。彼の目を覚ます為にも、真面目な話題をふってみるとするか。現実に戻ってもらわなければ困る状態でもあることだし。


「そうか、それは辛そうだな。ところでたとえ君。最近の政治(2010年4月。)をどう思うね?」


「うむ。そうさなあ。あれはまるで自信過剰のドライバーの様だな。」


「ほう。それは一体どういったことだい?」


「うむ。政治というものは本来、『政府なんて必要ない。我々は自身でこんなに幸せに暮らせているではないか。』と、民に感じさせるものでなくてはならないのだ。しかし今の政府はどうだ?やれマニュフェストだ。仕分けだ。改変改革だと。運転に例えるならばスピードを大いに出し、抜け道だからと細くガタガタな道をグネグネウネウネと進み、しかもナビや運転手が一つではなく幾つも用意されている状態だ。運転というのは、助手席の人間が車に乗っているのを忘れてしまい、眠りこけてしまうくらいの運転がいいものなのだ。政府もまた同じと言えよう。」


 ほう、たとえ君にしてはいいことを言う。確かにそうである。政府が車なら助手席は国民だ。国民が車に揺られているのを忘れて幸せに過ごせる政府というのはまさしく理想であろう。もちろんその場合、国民もその政府を評価してこそ互いに持ちつ持たれつでいけるわけだが。いや、初めて感心したぞ。たとえ君。だが、たとえ君の演説はだんだん熱を帯びていく。


「であるからして!政治に派手さはいらない!違反をするなどはもっての他だ!!自身のアピールと善行をあらわにしている暇があったら、山積みの問題を一つ一つ片付けたまえ!!不正のかんぐりももちろん必要だが、とにかく今は国家をちゃんとした道へと導くことが必要だと、僕は思うんですよ!!」


 ついには立ち上がってしまった。因みに私はかなり前から話し相手であることから逃げ、パソコンに向かっている。もちろん周りの同僚もそうしている。部長の尾崎にチラッと目をやると、丸い眼鏡の奥に潜んでいる目を同じく丸くしながらたとえ君をみているが、何かを諦めたかの様に書類へとその目を沈めていった。


「たとえ君は、政治に熱心なんだね。」


「ああ、やはりいつの世も激動の時代だからねえ。政治については敏感に生きているつもりなのだよ。例えるならば、熊蜂の飛行・・・」


「それはこの間聞いた。他の例えにしてくれ。」


「そうだったな。そうさなあ。例えるならば餌付けされた野犬のようだな。餌をくれる家の様子は逐一気になるというものだ。」


「ほう。以外に受け身なのだね。政府が主人のようではないか。」


「いや、そうさなあ。そうさなあ。それも例えるならば、花見の様なものだ。華が咲けば酒を飲む理由ができる。いやあ愉快だなあ。やはり政治は華なんだな~。」


「さっきと偉く矛盾しているぞ。たとえ君。」


 が、この突っ込み空しくたとえ君の目は急激に虚ろさを増していき、遂には寝た。午後の仕事用に残しておいたか細い体力を、演説と例えに使い果たしてしまったらしい。


映画を少し控えるよう、帰りにでも進言するとしよう。


 10分後、鼾をかき始めたたとえ君に気付いた部長の尾崎は、また目を丸くした後何かに決心したように一回立ち上がったが、やはり何かを諦めたようにまた座った。


 変な会社だ。全く。

 たとえ君はこれからも、色々なことに非凡な集中力を発揮し、おかしなたとえを続けることでしょう。こうご期待(笑)

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