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第16話【やまない雨 IN パラレルワールド サトシ。】

 「きょうはがっこうが、お休みの、日曜日です。ですから、ほしぞらえんのみんなでお昼ごはんを、つくりました。ぼくの大すきなカレーをつくりました。おさらにいれるときに、にんじんがはいらないようにしたのですが、サキ先生に見つかって、おでこにでこぴんされました。でも、おいしかったしたのしかったです。おさらあらいを、おてつだいしたら、サキ先生がおでこをなでてくれました。「おてつだいありがとう。でこぴんいたかったかな?」と言ってたので「いたくないよ。カレーおいしかったね。」とぼくは言いました。そしたら先生がわらってくれました。よかったです。 1月16日 雨 さとし。」


 星空園。僕はこの孤児院で育った。日記の半年前。8歳のときにサキ先生が赴任してきて、それから随分目をかけてもらったっけな。


 この日記を書いた日はよく覚えている。朝から冷たい雨が降っていて、随分退屈していた。皆で雪になるかどうかかけたり、歌ったり。トランプをしたり部屋でボール遊びをして怒られたり。どうにかこの一日が早く過ぎないか。そんなことばかり考えていた。7歳の誕生日から日記を書いているのだけれど、この頃はだいたい昼過ぎには書き終えてしまっていて、この日もそう、お昼のカレーを食べた後すぐに書き終えてしまった。


 孤児院、星空園。僕は記憶が定まらない頃からここにいるのだけれど、皆が皆同じではない。色々な事情や悲しい出来事なんかを被せられてここにいる。親を亡くしたもの。なんだかわからないうちに捨てられたもの。元々が片親で、その親が逮捕されてしまったもの。虐待を受けていたもの・・・。理由は様々だ。せっかく仲良くなったのに、結局2、3日でさよならするやつもいる。僕みたいにずっとここにいるやつもいる。さよならしたと思ったら、また一か月で帰ってくるやつもいる。まあ何にせよ、皆わけありでここにいるってわけだ。



 日記を書き終えて、幼稚園組はお昼寝タイム。少し静かになった教室で、僕は外を見ていた。やまない雨。雪にもならない。中途半端な冷たい雨。


 ふと、なんで僕がここにいるんだろう。僕にはどうしてお父さんやお母さんがいないんだろう。そんなことを考えはじめた。物ごころついてから、何度も考えたこと。歴代の先生に何度も質問したこと。でも、どこにも答えがなかったから、いつしか考えるないようにしていたこと。だが、なんとなくこの時に考えてしまったんだ。もしかしたら、いつも無意識に考えていたのかもしれないけれど。しっかりと考えてしまったんだ。


 別に悲しいわけじゃない。その理由が見当たらない。でも、涙が出てきた。やっぱり、悲しいのだろうか。


 サキ先生が隣に座って来た。


「雨。やまないね。せめて雪になったら楽しいのにね。」


 優しくふわりと話しかけてくれた。


「うん。とっても寒いしね。なんで雪になってくれないんだろうね?誰かが意地悪してるのかな?」


 鼻声を隠しながら僕も答えた。


「雪になると外で遊んじゃうでしょ?そしたら風邪ひいちゃうかもしれないから、遠慮してくれているのかもしれないよ?」


 サキ先生は、これは意地悪じゃないと言いたいみたいだった。でも、なかなか前向きで素敵だなと感じた。


「そっか。うん。きっとそうだね。」


 俯いてそう答えてから、少し静かな空間が続いた。乱雑な冷たい雨が落ちる音だけがここに響いていた。


「サトシ。サトシは今、何が悲しいのかな?」


 泣いているのがバレていた。瞬間、恥ずかしいと強く感じたが、見てもらえている嬉しさにそれはすぐ変わっていった。


「うん・・・いいんだ。今まで誰もわからなかったことなんだ。とっても困っちゃうことみたいなんだ。皆もよくその質問をするけど、誰も教えてもらってないんだ。」


 サキ先生は、少し表情を変えて僕の方を見つめていた。目は少し悲しそうに。でも口元には優しさがあった。


「先生に答えられるかわからないけれど、せっかくだから話してごらん?」

 

 少し躊躇ったが、思い切って質問した。なんで僕はここにいるのか。なんで僕にお父さんやお母さんがいないのか。質問しながら僕は先生の答えを予想した。先生はいつも神様のお話をする。だからきっと、神様の思し召しで、これは使命だ。なんて言うんだろうなと。そう思っていた。でも、僕の想像は裏切られた。

 先生は教室のはじにある、壊れた望遠鏡を持ってきた。(以前教室内でボール遊びをして壊してしまった。)


「サトシ。この望遠鏡でお空を見て御覧?何が見えるかな?」


「これ、壊れてるんだよ?何も見えないよ。」


「壊れてないとして。何が見える?」


「う~ん。雨と。雲?」


「そうだね。じゃあ、その向こう側には何がある?」


 先生が何を言いたいのかさっぱりわからなかった。それでも先生があまりにもうきうきしながら質問してくるので、僕も少し楽しい気分になっていた。


「お日さまとかお星様とかかな。」


「お!正解!」


 先生はより一層笑顔でうきうきしていた。


「それがどうしたの?先生。」


 先生は僕をじっと見つめてからゆっくり空に目をうつした。


「お星様はね、すっごく遠くにあるの。知ってる?」


「うん。望遠鏡はすっごい遠くまで見えるけど、お星様はやっぱり小さいままだもんね。」


「そうだね。実はね、あのお星様はいつか爆発して死んじゃうの。」


「爆発しちゃうの?」


 衝撃を受けた。星ってのはずっと張り付いてるものかと思っていたから。


「そう。それでね、爆発する時に色々なパワーを出すんだよ。その中には、お星様が爆発しちゃうときじゃないと生まれないものもあるの。それがね、沢山沢山旅をして、時々地球に落ちて来るんだよ。」


「隕石?」


「うん。隕石とか彗星とか。それでね。私たちの体も、お星様の爆発でしか生まれない物を沢山持ってるんだよ。」


「そうなの!?」


 とても大きな話だった。


「だから、私たちは星の欠片なの。この宇宙のとっても遠くと繋がっているんだよ。一人一人ね。そうやって私たちはここにいるの。皆、お星様なんだよ。皆繋がっているの。サトシのお父さんお母さんも、ちゃんと繋がってるの。」


 もう、最初の質問はふっとんでいた。僕の心はその時宇宙にあった。なんだか、優しい気持ちと安心感に包まれていた。先生にありがとうと言って、僕はもうこの質問をすることはなかった。



 6年後、僕は中学生になっていた。星空園でも年長組に入って、学校やら先生のお手伝いやらで、楽しくも忙しい日々を過ごしていた。変わったことと言ったら、ミチルというお姉さんがお手伝いに来てくれていること。サキ先生も随分助かっているみたいだった。ミチル姉ちゃんは、明るくて優しい。僕が年長なせいか、しょっちゅうちょっかいを出してくる。将来的にはここで働きたいらしい。でも何故だろう。ミチル姉ちゃんには、僕や星空園の皆と同じ匂いがした。なんとなく時折見せる遠い視線が、なんだか少し苦しくさせるのだ。


 その年の夏。タカキという男が訪ねて来るようになった。このおじさん・・と言ったら怒るので、お兄さんと言っておこう。このお兄さんは近くで塾の先生をしているらしい。それで星空園の存在をしって、ボランティアで勉強を教えに来てくれているってわけだ。当時は相当怪しいと感じていた。茶髪でチャラチャラしていてお調子者で。初対面の僕に。


「おう、サトシってのか。いくつ?中一?の割にはちっさいな~。なに、すぐでっかくなるさ。」


 なんて話をマシンガンの様にしてきた。だいぶ苦手だった。大体、僕は勉強は嫌いだった。お手伝いなんかで忙しいのに、大きなお世話だと思っていた。


「いいか。勉強ってのはさ、自分の為にやるんだよ。自分が知りたい。色々な事を解りたい。だからするんだ。でも、基礎の勉強をしておかないと、自分が何を知りたいかわからないだろ?だからしっかり基礎からやろうな。つまり、色々な事を知ったり解ったりするための器を作ろう!そういうことだ。」


 なるほどとは思ったけれど、僕は乗り気じゃなかった。サキ先生はニコニコしながらその熱弁を聞いていたけど、なんだか嫌な気分だった。でも、最初の理科の授業の時、それが全部変わった。


「宇宙ってあるだろ?ま、なくちゃ困るけれどな。あれは凄い。あれは凄いぞ?すんごい広くて、すんごい深いんだ!あ~。何から話そうかな。そう!じゃあ、僕らとの関係から話そう!実はな・・・僕らは星の残骸でできてるんだ。DNAってあるだろ?そのDNAの成分はな、地球上では作られない成分でできてるんだ。じゃあ、なんで僕らの中にあるのかって?それはな、遠い昔、遠い宇宙のどっかで星が爆発して死んでしまったんだ。その爆発の時、沢山のエネルギーや物質が生まれるんだ。それが気が遠くなるほどの旅をして、この地球に運ばれてきたんだ。そんで、また沢山の時間や出来事が起こって、今僕らがここにいるってわけ!すごいだろ?」


 僕は呆気にとられていた。また、僕の心は宇宙にあった。


「よし!じゃあ、今度はこの地球の歴史に興味を持ったよな?じゃあ、歴史の授業に移るぞ~!」


 タカキ兄ちゃんは、こうやって色んな物事を繋げながら勉強を教えてくれた。時間を遡ったり先に進んだり。一個の気になることから何本も枝分かれしながら、沢山の事を教えてくれた。勉強が苦手な僕だけれど、なんだか全てが僕や宇宙と繋がっている気がして、とにかく楽しかった。


 ただ、一つ気になったのはその星の授業の後。いつも明るいミチル姉ちゃんが、少し遠い目をしていた。


「全部嘘だったらいいのに・・・。」


 よく聞き取れなかったけれど、たぶんそう呟いた。あれはどういう意味だったんだろう。未だにわからないでいる。


 そして今、僕は大学で天文学を勉強している。高校時代は学費の為のアルバイトに勉強。全てが忙しく流れていったが、奨学金ももらえて、なんとか大学に入学できたのだ。サキ先生は今も星空園で忙しく毎日を過ごしている。ミチル姉ちゃんは正式に星空園のスタッフになって、元気に働いている。


 タカキ兄ちゃんも相変わらず星空園にボランティアで来ているんだけれど、実は少し前にサキ先生にプロポーズしたみたい。ミチル姉ちゃんがこっそり教えてくれた。あの二人が一緒になってくれたら、凄く素敵なんだけれどな。今も僕を虜にしている宇宙。それに導いてくれた二人だもの。


 それにしても未だに気になるのはミチル姉ちゃんのこと。いつも元気で明るいミチルねえちゃんが、なんであんなことを言ったんだろう・・・。


 それはまた別のお話・・・いや・・・別の世界で。今日の日記はここでおしまい。


  2014年 1月16日 雨。 サトシ 11年前の日記を見て思い出したこと。

 こちらの小説も、一話読み切りという形で載せておりますが、これから違った視点、違った世界から沢山書いていく予定です。是非とも今後も楽しみにして頂けたらと思います。この小説関連のものは題名に【やまない雨】が必ず付きます。よろしくお願い致します。

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