11月3日 一期一会(5人組)
俺は、再びカラオケボックスのドアを開ける。ドアの先にはソファが机の回りを囲む。そして、笑顔で村田がマイクを持ちながら楽しそうに歌っていた。俺が入ったのがわかりマイクを近づけてくる。コイツは相変わらず面白いやつだった。俺たちは、歌詞が流れるテレビ画面を見つめながら声を出していた。歌い終えると、みんなの笑顔が見えた。山下、佐藤、谷口たちが俺たちにに拍手を送っていた。村田は、胸を軽くたたき、ソファに立ち去った。
今日は、村田の就職祝いとなればよかった。そして少しの沈黙が流れ、谷口が何やら話しているみたいだった。俺たちは久しぶりに5人で集まる日だった。すると、再び灯りが落ちた。次に歌を入れたのは、谷口だった。谷口の周りは、暗闇に包まれた。スポットライトが彼に集中した。
ここ最近は、谷口と村田が就職試験を受けていたこともあり、全然会えていなかった。村田は、消防士の試験に合格し、ようやく自由を手に入れたのだった。谷口も、もう一つの試験は受けるがすでに一つの警察官の試験には受かっていた。そんな二人とは、対象的だったのが佐藤と山下。佐藤は、毎日毎日、居残りをして18時までずっと勉強をしている。一方、山下は全く勉強しない。俺が心配になるくらいしてるところは見ていなかった。
しかし、常にテストを受けると1番は、山下だった。毎日勉強をしている佐藤すら勝てない。本人が言うには、帰ってから勉強していると言っていたけど、全然、そんな風には見えない。俺は、山下のそういう天才なところに俺は惹かれてしまう。ピアノのイントロが流れると、谷口は、手を叩く。もう、完全にノリノリだ。マイクを口元に近づける。谷口の声がスピーカーから流れ出し、俺の耳に響き渡る。相変わらず声が大きいな。谷口は力強く、いい感じのリズムにのっている。
すると、横の佐藤が視界に入る。佐藤は目を閉じ反応しなくなっている。よく、こんな大声で歌っている中で寝れるな。理解できなかった。感情を込めて歌う谷口とは真反対だった。けど、そんな真反対な奴たちがいるからこそ面白い。それが、俺たちのグループなのかもしれない。アイツらと一緒にいればこれかも面白いことを経験できる。そんなことが長く続かないことはわかってるけど、それでも現実から目を背け、毎日それなりに一生懸命生きることが今の俺に課せられたモノだった。歌は、ちょうどサビに入っていく。俺は、再び立ち上がった。




