10月20日 スパーリング
ボクシングジムの薄暗いロッカー室から、俺と山下は、出てきた。あそは、汗の匂いが充満していて、ずっといたいと思えない。けど、そんなに人がいるようにも感じない。
山下「覚えたか?」
俺 「いや、まったく」
目の前には、三上、東藤、そして奥から工藤がやってきた。
工藤「誰?」
山下「江だ」
工藤「ああ、言ってたやつ」
とても鋭い目つきで俺の方を見てくる。
山下「そうそう。後で相手してよ」
工藤「いいよ」
どうやら、前から話をつけてくれていたみたいだ。
東藤「さあ、始めようぜ」
東藤の声とともに俺たちは、動き出した。とりあえず、今日は、山下の動きに従うことに。三上、東藤たちは、シャドーボクシング。山下、工藤はランニングに。仕方なく山下の後ろについていた。パンチを繰り出す東藤は、とても凄そうに見える。ステップを踏むように前後左右へと動き回る。シャドーボクシングをしていた三上、東藤たちは、ミット打ちを始め出した。三上は、東藤が構えるミットに向かって、パンチを打ち始める。凄い音が鳴り響いている。これが、何ヶ月もやってる強さか。ただ、そこまで驚くほどではない。こんなの、俺もやればできると強気だった。
「もっと強く打ってこい!!」。東藤の声に引っ張られるよう三上のパンチも強くなる。東藤は、大きな声で煽って行く。そこまでしなくてもというのはあるのだろうけど。まったくひくつもりはない様子だった。俺は、山下の指示に従い、柔軟を行うことに。思ったよりも自分の体が硬いことに気がつく。こんなに硬いかな?
三上の強烈なパンチに東藤も後ろに引いてしまったのだ。さすがだ。すると、大汗をかいた三上に変わってさっきまで一緒にいた工藤がスパーリングの相手をつとめた。さっきまでの三上とは違ったパンチの種類だ。もっとガードを上げろ!工藤もしっかり声を出す。フットワークも軽く!言われるがまま、東藤は、打ちこんでいく。頷きながら、打ち続ける東藤の姿勢は、高校生じゃないように感じてしまっていた。
三上「お前、淮南高校?」
俺 「ああ。そうだ」
コイツがどう思うかは、正直どうでもよかった。
三上「凄いな」
俺 「どう言うこと?」
何が言いたいのかわからない。賢いからっていうことだろうか?
三上「勉強できるじゃねぇか」
俺 「山下は、できるけど俺は大したことねぇよ」
自分なんて大したことはない。




