9月12日 応援練習
柏木と向井は、距離をとりながら、大きな声を出し合っていた。俺は、スマホをみながら、声を聞いていた。
柏木「もっと、右!」
黒板の前にある教壇をどけ、何やら合図をする柏木。
向井「ここ?」
一番後ろの席にいた向井は、先ほどの位置から動いて、柏木に確認を求めた。
柏木「いや、もうちょい」
さっそく、俺たちの応援練習は始まった。まずは、俺たちからということで全員に教える前に、私たちで先に始めることにした。
水城「江もこっちこいよ」
俺 「どうした?」
水城「この曲とこの曲どっちがいい?」
水城の左手には、堀隆史の『you』。右手には、vingの『蓮』という曲が流れていた。
俺 「どっちも微妙じゃね?」
水城「じゃあ、他にオススメある?」
質問をされた時、小学校の運動会のことを思い出していた。
俺 「オススメかぁ」
水城「なんかあるんじゃないの?」
俺が何かをひらめていたと水城は、思っていたらしい。
俺 「流行りの曲よりも、昔ながらの曲とかは?」
水城「昔ながら?」
目をキョトンとさせていた。あまりよくわかっていないみたいだ。
俺 「そうそう」
水城「例えば?」
何やら、向こうで騒がしい音が聞こえてきた。柏木が椅子をこかしてしまったみたいだ。
俺 「学園ものの曲とかリレーの時にかかる曲とか」
水城「ああ。逆におもしろいかもな」
納得した様子で、カバンの中を触り出した。
俺 「だろ?」
水城「じゃあ、それ探すか」
水城は、スマホを取り出し、音源を探し出した。
俺 「でも、疲れない?」
水城「何が?」
俺の方を向いた。
俺 「一生懸命すんの」
水城「そうか?」
また、スマホに目を向けた水城だった。
俺 「俺には無理っぽいわ」
水城「一生懸命だからこそ、思い出残るんじゃね?」
俺 「そうだろうなぁ」
水城の言っていることはわかる。でも、一生懸命頑張ったからなんなんだろう?俺は、その一生懸命とやらがよくわからないでいた。
水城「でも、江は、なんでもできるからもっと頑張ればいいのに」
俺 「そういうの苦手なんだよな」
これは、本音だ。
水城「なんで?」
俺 「なんか、成功しても失敗しても何も思わねぇし」
水城「それは違うと思うぜ!」
水城の目は、とても輝いていた。




