1.オレ転生する
ピッピッピッピッ
目覚ましの音で目覚める。
「ん、うーん、、」
やけに首が痛い、最悪の寝起きだ。
寝ぼけ眼で周囲を見渡す。
見慣れたオフィスでやつれた顔の同僚達がパソコンに向かってせっせと仕事をしている。
「おっ起きたか、次は俺が仮眠とるから続きは頼む。」
隣のデスクで仕事をする同僚と作業の引き継ぎを軽くして
同僚は、スマホでタイマーをセットしそのままデスクにうつ伏せになり寝てしまった。
かれこれ2日は家に帰っていない。
自分のデスクの上はエナジードリンクの空き缶が積まれており、ゴミ箱はカップ麺のゴミで溢れている凄惨な状態だ。
「やるしかないか」
終わらねば帰れないのである。
やりたくなくてもやらねばならない。
俺はそのまま仕事に向き合うのであった。
仕事が終わったのはそれから10時間が過ぎた頃だった。
やり切った達成感などは無い。
早く家に帰りたい、それしか頭には無かった。
普通の人ならこんなコンディションで車で帰ろうとは思わないはず。
ろくに睡眠も取れていないのだ。
だが、この時の俺は早く家に帰りたい一心であった。
慣れた道、慣れた運転で慢心していたと思う。
対向車のヘッドライトがやけに明るく思えた。
そう思った瞬間。
ガッシャーン!!
そこで俺の意識は途切れた。
目を覚ますと表現すればいいのか。
意識が戻ったと表現すればいいのか。
意識ははっきりしているが、視界が真っ暗だ。
耳も聴こえていない。
手足も体も思うように動かない。
自分は事故にあって寝たきりになってしまったのか。
不安だけが募って行った。
どれくらいの時間がたっただろう。
視界はぼんやりだが見えるようになり、耳もある程度聞こえるようになった。
そこで分かったのだが、どうやら俺は転生というものをしてしまったようだ。
目と耳が機能するようになったので、周囲の状況把握に務めることにする。
何語か分からないが話し声が聞こえる。
声のする方に目を向けると、金髪のメイドさんらしき人と白い体毛の狼のような顔をした軍服姿の人が話していた。
まさか、獣人というやつか!
前世のアニメの知識をフル稼働させ、何とか状況を把握する。
獣人なんて出てこられたらいよいよ異世界転生が現実味を帯びてくるな。
他にも部屋などくまなく見てみる。
部屋の様式的には中世ヨーロッパのような作りだな。
その部屋の中で俺は天蓋付きの豪奢なベッドで寝かされている。
そこでようやく自分の姿を確認する。
明らかに前世と違いもちもちの小さい手。
前世では見たことない立派なパジャマを着用している。
どうやらいい所のお坊ちゃんに転生したようだな。