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追放した人がヒロイン 転

 彼女達に追放されてから、1か月が過ぎた。


 ボクはどうやら、ショックなことがあると部屋から出たくなくなるらしい。

 何をするでもなくずっと、宿でぼんやりしている。

 朝起きてから寝るまでずっとだ。

 その変わり映えのない日々のおかげで、ようやく、少しずつ、事実を受け止められてきた。


 彼女達はもともと、3人のパーティーだったんだ。

 ボクは駆け出しの彼女達に知識を与えるためにパーティーにいた。

 それが不要になったなら、パーティーを去るのが当然だ。

 いつまでもボクがぐずぐずと居座ってるから、彼女達もしびれを切らしたんだろう。

 それはしょうがないことだと、思えるようになってきた。


 ただ、やっぱり胸の中は空っぽだ。

 埋まりかけていたものが、またなくなってしまった。

 いや、以前よりひどい。

 もうボクは、この穴を埋めることを諦めそうだ。


 結局、ボクと彼女達の間にあると思っていたものは、ボクだけのものだったんだ。


 彼女達と冒険して。

 いくつかの幸運を喜んで。

 いくつもの危機を乗り越えて。

 いろんな経験を共有して。

 いろんな感情を分かち合った。


 それらを経た彼女達との間に、絆を感じていたんだ。

 以前、母や姉、妹に感じていたのと同じ種類のものを。

 ボクの胸から伸びるそれは、彼女達に通じてると思っていたんだ。


 でも。

 それを辿ってみると実は、その辺の木にくくりつけてあって。

 離れたらちゃんと引っ張ってくれると喜ぶボクを、彼女達は遠巻きに眺めていただけだった。


 でも、彼女達に否はない。

 悪いのは、勝手に彼女達のイメージを作り上げていたボクの方だ。

 そのイメージが現実の彼女達と違っていたからといって、裏切られたなんて主張するのは間違ってる。

 それは分かってる。

 それは分かってるんだけど。


 とにかくもう、ボクは疲れた。

 なんだか、他人と関わることが嫌になった。

 これからは、一人で生きていこう。


 一人で生きていくと決めてしまえば、少し楽になった。

 期待するから悲しいんだ。

 その相手がいなければ、こんな思いはせずにすむんだ。


 結局それが、この一か月間で、ボクが出した結論だった。



 ―――――



 さて。

 できることならもう少し何もせずにいたいけど、世界はそんなに甘くない。

 そろそろ財布の中身が心もとなくなってきたのだ。

 しかたないから、クエストをこなすしかない。


 ボクはようやく部屋を出て、ギルドへと向かう。

 日差しがやけにまぶしい。

 風が少し心地いい。

 そういえば外の世界って、こんな感じだった。


 ギルドで適当にクエストを選んでると、噂話が聞こえてきた。


「あの、きれいな女が3人いるパーティーあるだろ?」

「ああ」

「なんか、Cランククエストから5日間戻ってないらしいぞ」

「えー、まじかよ。死んだのか?

 青い髪の子、タイプだったのになぁ」

「はっ。そんなこと言ってると、あのリーダーにぶん投げられるぞ」

「違いねぇ。剣聖じゃねえかって話だろ?

 1年前に格闘王のユバルがボコボコにされたんだもんな」

「あれがもう1年前か……。

 時が過ぎるのは早えなあ」

「まああの剣聖がいるなら、Cランクくらい問題ねえだろ。

 大方、クエストのついでにダンジョンでレベリングでもして、時間を忘れてんじゃねえか?」

「そんなとこだろ。

 まぁ、たとえ死んでたって、しょうがねぇな。俺らにゃ関係ないことだ。

 ところで、B地区の新しい酒場あるだろ?

 あそこの……」


「おい」


 男達は会話を邪魔されて、不快そうにこちらを見た。


「ああん?

 なんだてめぇは……って剣聖じゃねえか!

 な、なんだよ?」


「今の話、詳しく聞かせろ」


「あん?

 お前のパーティーの話だろ。

 お前が一番知ってるんじゃ……ってなんでお前、ここにいるんだ?

 あの女達と一緒じゃなかったのか?」


「いいからさっさと話せ!」


 テーブルに拳を叩きつける。

 男達はおびえた口調で言った。


「い、いやだから、あの、お前がいつも連れてる女達が、ダンジョンから帰って来てないって……」


「どこのダンジョンだ?」


「え?」


「どこのダンジョンだって聞いてんだよっ!」


「あ、あそこだよ。

 あの、街の東にある、Cランクダンジョン!」


 その言葉を聞いて、ボクは即座に駆け出した。




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