疑惑の指輪
深夜1時、俺を乗せた車は港に止まっていた。アカマルの香りが臭いのか、綾辻は窓を全開にしてこちらをにらんでいる。
「何回車内で煙草を吸うなって言えば分かるのかしら」
「これ以外に暇を潰す方法がないから仕方ねえだろ。それとも作戦前に酒を飲んでいいのか」
「そもそも未成年でしょ。吸うこと自体アウトよ」
「俺の所じゃ煙草と酒は18歳からだからセーフだよ」
俺は綾辻の文句をごまかすように指を向ける。
「それよりも、見てみろ。あいつらが来たぞ」
指し示す先ではちょうど3台の車が倉庫に入っていった。港の端、目立たないように建てられた小さな倉庫に次々と車が入っていくのは異様な光景だった。
「間違いなく『魔女狩り』のアジトはあそこね」
「ああ、そうだな。しかもあの倉庫、中身が空だったな」
「ええ、数か月前に市役所に出された耐震補強工事の申し出は真っ赤なウソ。本当は地下室を作って、そこに武器を隠してるようね」
「んじゃ、さっさと終わらせようか。武器を運び出されたらめんどうだ」
「なら私は車に残っておくわ。あなたの戦いに巻き込まれたくないし」
「ははっ!俺がそんなへまをするって思ってるのかよ」
車を降りると、魔力を身にまとう。倉庫の前に見張りがいるが関係ねえ、どうせ俺の素早さに反応できねえからな。
〈肉を強く、骨を硬く、我が身を高みへ…身体強化〉
「無系補助魔術、しかも初歩の身体強化を詠唱って…。そのぐらい中学生でも詠唱破棄してるのに」
「うるせえ!俺が魔術苦手なの知ってるだろ‼」
俺は魔術が発動しているのを確認すると、見張りに向かって走った。ちょうどいいから、女狐にバカにされた八つ当たりをするか。
〈火種を灯せ…点火〉
「ようやく終わったのね。ずいぶん時間がかかったみたいだけど」
「うるせえな、見て分からねえのか。仕事終わりの一服中だ」
「やれやれ、未成年でヤニカスって。長生きできないわよ」
「ほんっっとうにうるせえな‼お前は嫌味を言えなきゃ死ぬのか‼」
「はいはい、ごめんなさい。それで情報は?」
ちっ‼この女、いつか絶対に泣かせてやる。俺は持ってた紙を渡すと、さっさと地下室から出ていく。おっと、そういえば…。
「ああ、そうだ。綾辻、お前に渡すのがあったわ」
「あら、何かしら。指輪でもくれるの」
「正解だよ。ほらよ」
「…こっ、これってもしかして!」
「ああ、魔導具だよ」
魔導具…魔力を持たない人や少ない人でも魔術を使える魔術と科学の最新技術。こんな物を犯罪組織が、しかも魔術を心底嫌う反魔術主義の『魔女狩り』が使っていたのはおかしすぎる。
「詩枝、これの効果は」
「魔力は充電式、起動するとある一定の物理的攻撃を防ぐ盾になる。マシンガンぐらいなら普通に防ぐだろうな。立派な軍事品だよ」
「どうしてこんな物が…」
「さあな、そんなの知らねえよ。そいつを調べるのがお前の仕事だろ」
「ああっもうっ!せっかく仕事がひと段落したと思ったのに!また、忙しくなるじゃない‼」
「はっはっは‼」
ざまぁみやがれ!これで少しはやり返すことができたなぁ!俺は綾辻の嘆きに満足すると、今度こそ地上に上がった。
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魔導具
第一次魔術大戦時の2053年に初期の魔導具が発明された。発明者はアメリカのメイリーン・スミス(当時43歳)であり、魔力の波を使った長距離無線(全長10メートル)を開発した。その後、世界中で魔導具の開発が急速に進められた。
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魔女狩り
2030年以降に見られる反魔術運動、その中でも武力によって魔術師の排斥を行う集団である。代表的な事件は2034年に起こった渋谷交差点爆弾テロである。初代代表は―レベル5未満の閲覧不可―であり、現在の代表は不明である。構成員は魔力を持たない非魔術師である。特に魔術師が引き起こした魔術犯罪の被害者、近親者あるいは友人が構成員になる事例が多い。魔力を持たない関係上、武装は重火器や爆薬がよく使用される。
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