眠れる獅子
熊本県熊本市、治安の悪い郊外に5階建ての古びた廃ビルが建っていた。壁はひび割れ、ガラスは砕け、落書きだらけの廃墟は一般人なら立ち入ることはないだろう。現にそこは不良のたまり場として有名だった。しかし、その建物は今では不良といった半グレすら近づかない。なぜなら、その廃ビルには恐ろしい獣が住んでいるから…。
「んぅっ?ふぁぁああ~、今何時だよ…」
俺は気配を感じて、目を覚ました。スマホが表示する時刻は12時半、俺みたいな夜行性はまだ眠っている時間だ。こんな時間に俺の住処にやってくるのは恐れ知らずのバカか、あるいは仕事か…。俺は目を覚ますためにアカマルを取り出すと、火をつける。
〈火種を灯せ…点火〉
俺は肺を煙で満たすと、大きく吐き出した。気配はもう扉の向こうまで来ているが問題ないだろう。よく知っている女狐の気配だからな。
「詩枝君、開けるわよ。…はぁ、起きてるなら服ぐらい着てくれないかしら」
「うるせえな。家でどんな格好するか、俺の自由だろ」
「こんな廃墟が家って…引っ越すか掃除ぐらいしたらどうなの?」
「はいはい、小言はもう聞き飽きたよ。んで、何のようだ。どうせ仕事だろ」
「まったく…まあいいわ。あなたの言う通り仕事よ。最近『魔女狩り』が準備をしているようなの。あなたには彼らを調査してもらうわ」
俺は女狐…綾辻絵美から資料を受け取り、流し読みする。まあ、内容は興味ないから読まなくても別にいいだろ。こいつのことだから間違った情報ってこともないだろうしな。
「あいつらは何をやってるんだ?」
「武器商人と接触しているみたい。爆薬や重火器を買いあさっているわ」
「はぁっ?『魔女狩り』の奴ら本気かよ。魔術が発達した時代にそんな骨董品を持ちだしてどうすんだ」
「まあ、彼らは反魔術主義だから…。それに一般人にとっては立派な凶器よ」
俺はあいつらのバカさ加減にあきれると、資料を床に放り投げた。こんなバカのために時間を使うぐらいなら、さっさと寝てしまおう。
「何で寝ようとしているのかしら」
「もう、読む必要がないからだよ。そんぐらいお前もわかるだろ」
「はぁ…。作戦の決行は深夜1時、アジトまでは私が運転するわ」
「はいはい、りょーかい。…ああ、そうだ。一応聞いとくけど生殺は?」
「……いつも通り、あなたの判断に任せるわ」
俺はその言葉を聞くと笑いながら答えた。
「了解」
…レベル3カードキー読み取り完了…
…パスワード合致…
…音声・網膜認証合致…
…指紋合致…
…セキュリティクリアランス オールクリア…
…情報を開示します…
|詩枝 獅子《Utaeda Shishi》
性別:男 年齢:19歳
生年月日:7月28日
公安特別保護対象
…これ以上の情報はレベル5未満の閲覧を禁止されています…
|綾辻 絵美《Ayatsuzi Emi》
性別:女 年齢:27歳
生年月日:11月24日
公安特殊事例捜査班に所属
…これ以上の情報はレベル4未満の閲覧を禁止されています…