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2、ユーリの転職

 王都から少し離れた貴族たちの別荘地にその屋敷はある。屋敷の一室で安楽椅子に男は座っている。


「ユーリ君、座り(たま)え」


銀髪の男はユーリに椅子を勧める。ユーリは一礼すると、椅子に座った。


「君がSランクパーティーを追放されたことは聞いている。マチルダも君を心配している。マチルダの叔父である僕としても君の転職をサポートしたい」


「ありがとうございます。ナディルク公爵閣下」


「閣下などやめてくれよ。くすぐったい。妻が国王陛下の妹というだけさ。僕が偉いわけじゃない。妻に釣り合うように僕が公爵の位をもらった。ただそれだけだよ」


「ご謙遜を。ナディルクおじさんが大魔法使いなのは国中の人間が知っていますよ」


 ナディルクは首を振る。


「僕でも司書の足元には及ばない。いや、ホントだよ。でもね、ユーリ君、君ならば彼女の心に寄り添えるんじゃないかな」


 司書と言うのはナディルクが所有する『賢者の図書館』の司書だ。美麗な容姿に加えて、博識で王国でも並ぶ者がいないとされる人物でもある。


 その名はナナ・アイスロード。


「僕がナナさんの? 僕はただの吟遊詩人ですよ。そんなの無理に」


「やる前から(あきら)めるのかい? 魔王たちは虎視眈々(こしたんたん)とこの王都オルドバーンを狙っている。学園から勇者も選抜され、学生であるにも関わらず、危険な前線に出ている。そう、君を追放した勇者ライオネルがその勇者だったね」


「……」


「陛下を守る近衛騎士団もいる。他にも強者がいる。ただね、彼らでも魔王の猛攻は防ぎ切れないだろう」


「なぜ、そう言い切れるのです?」


「南の魔族であるワルティアという女魔族が魔王に降伏した。あの女とは現役時代何度か戦ったことがある。あの女が本気を出せば、王国など吹っ飛ぶ。もう勇者でどうこうできるレベルじゃない。ユーリ、君は戦闘向きの職業に転職するべきだ。そしてこの王国を魔族の手から守ってくれないか」


「しかし……」


「君が強くなることで王国は救われる。もう僕ではワルティアを抑えることなど、できない。どうだろう、適性がなければ、途中で諦めることもできる。図書館に(こも)って大賢者を目指して見ないか? 君がその気なら司書と共に君をサポートしたい」


 静かだが、熱のこもった口調で公爵はユーリに迫る。


「正直、Sランクパーティーを追放になって悔しいです。転職できるなら、したい。そして王国の人々を魔族から守りたい。ナディルクおじさん、転職の件、よろしくお願いします」


 ナディルクは穏やかな笑みを浮かべて、頷いた。











 ユーリが転職を決めてから一か月後。王都では二人の女性徒が暴漢に(から)まれていた。


「きゃあっ、何するんですかぁっ、離してください」


 高い声を上げたのは王立魔法学園のエーリカ・ティブライユ。名門貴族・ティブライユ家の令嬢だ。エーリカは端正な顔を(ゆが)ませて、暴漢を(にら)む。


「あ、あ、あ。あの私たちはこれから図書館れ向かうところです」


「んー、舌が回ってねえぜ。ビビってんのか。嬢ちゃん。じゃあ俺たちが図書館よりもっといいところに連れていってやるよ」


 茶髪の女生徒はひっと声を上げると、後ずさる。男が目を細めた。


「オラ、つーかまえた」


 魔方陣が茶髪の女子に直撃する。女子の体が浮き上がり、身体が拘束された。


「魔封じの魔法だよ。さて、一緒に行こうぜ。お嬢ちゃんたち」


 男が言うと、他の二人の男が頷いて、エーリカを無理やり引っ張る。


「嫌ぁ。離してぇっ」


 手を掴まれたエーリカが金切り声を上げた。


「お兄さんたち、その二人は同級生なんだ。離してもらえないだろうか」


 男たちが声のした方を見るとフードをかぶった若い男がいた。男たちはニヤつきながら、フードの男を見た。


「あーん、何なんだ。口挟むってのか」


「口を挟むのではなく、手を出そうと思っている」


 フードの男が杖を振ると、一瞬のうちに魔方陣が生成された。男たちは驚いて目の前の魔方陣から後ずさる。


「こいつ……無詠唱(むえいしょう)で魔方陣を!?」

「相当な使い手だぞ」


「早く女の子を離してくれ。今ならこの魔方陣を展開させずに済む」


 男たちは小さく(うなず)くと、全力(ぜんりょく)疾走(しっそう)で逃げ始めた。若い男はフードを取る。美青年が現れた。ユーリだ。


「あ、ありがとうございます。私はエーリカ・ティブライユ。魔術学園の魔法使いです。こっちは友達のイリア・フォンデュです」


 エーリカとイリアは頭を下げる。そして、二人はあっと声を出した。この男はSランクパーティーの吟遊詩人のユーリという少年ではないかと。



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