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1、パーティー追放

「ユーリ。君は僕たちのパーティーにふさわしくない。ハッキリ言って無能だよ」


 膝立ちの俺を見下ろしながら、勇者ライオネルは言った。


「そうですね。これからの魔王退治には足手まといでしょうし。難易度の高いダンジョンには連れていくことはできません。勇者様、私もこの男の追放には賛成です」


 巫女のアリシアが言うと、他のパーティーメンバーも頷いた。


「ろくにスキルも持ってないしな。こいつ才能ねえんじゃねえの?」


「吟遊詩人ですからね。といっても吟遊詩人でも詩に乗せて高等魔法の発動ができる人もいます。ただユーリさんは後方でボーッとしてるだけで。荷物持ちもできませんし、はあ。本当に無能ですよね」


 剣士のギルドラと魔法使いのティルミナが俺に侮蔑の視線を投げかけてくる。だ、だってしょうがないじゃないか! 歌うことしかスキルが身に付かず、あまり戦闘の役には立てないんだ!


「ねえねえ、こいつさっきも町の女の子に声かけられてへらへらしてたよね? うちのパーティーにいるから、女どもがちやほやするのよ。無能のくせにちゃっかりいい思いだけはしてるわけ。私は遊び人の職業だけど、正直こいつはいらないと思うのよね」


 今度は遊び人のエンリが俺を責める。


「誤解だ! 俺は魔物に怯える町の女の子たちに明るさを取り戻して欲しくてそれで歌を……」


「言い訳にしか聞こえないな。ユーリ、君は学園に強制送還する。そこでパーティーでも何でも作るといい。ま、誰も相手してくれないだろうがね」


 哀願する俺を剣士のギルドラと魔法使いのティルミナが抑える。俺は無理やり立ち上がらされて、町の方に連れていかれた……。










「な、何ですってー、それで『金の閃光』をクビになったですって」


 『金の閃光』というのは俺が所属していたSランクパーティーだ。そしてこの女は子爵令嬢のマチルダ・アルファント。俺の子供の頃からの幼馴染でBランクパーティーのリーダーをしている。職業は魔法使いだったか。


「まあ、良かったんじゃない。ユーリ、レベルは高いけど、戦闘能力はゼロに等しいし。まあ追放した時のライオネルの奴の言い方はムカつくけどね」


「いや、俺は悔しいよ。王国の女の子たちは今、悲しみに、恐怖に顔を(くも)らせている。強大な悪・魔王を倒さないと。そのためには俺の詩の力が絶対にあのパーティーには必要だったんだ。魔物に怯える女たちを救うには俺の詩が」


 俺は力強く言うと、マチルダは苦笑いを浮かべた。俺は彼女たちのことは忘れない。村娘に踊り子、やむなく乞食をしている女もいた。魔物に夫を(さら)われた未亡人。俺の詩に感激してくれた貴族のお嬢さんたち。皆、俺は励ました。悲しみを忘れるわけじゃない。魔物に相対する力強い詩。彼女たちは俺を尊敬と憧れの目で見てくれた。ライオネルは、勇者は何も分かっちゃいない。他の吟遊詩人なんて、女の子をナンパするために旅してるようなもんだ。俺は違う。この世界を救う、そういう崇高な使命を背負って生きている。


「うーん、それは分かるけど、戦闘力を身につけないと、魔物に襲われた時の対処に困るわよ。思い切って転職してみたらどう? 今の吟遊詩人のスキルは残して、ね」


「転職? 考えたこともなかったな。そうだ。戦闘スキルがなければ、麗しき乙女も守れない。そうか。転職か……」


 俺はブツブツ独り言を言うと、マチルダが嬉しそうに目を細めた。変な奴だ。だが、助言はありがたく受け取っておこう。転職。そう言えば、あの人は転職についてやたらと詳しかったな。あの人に転職について教えを乞いに行くか。


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