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第7話 のんびりなおばあちゃんがいると孫ものんびりになるのかな


 今日のリリアは、ひたすら雑草を抜いていた。出てきたばかりの芽と間違えないように、無心で抜いていく。飽きてきたら、途中でちょこんと土から出ている芽を見て和む。それを繰り返すこと数十分。


「ふふーん、かん、ぺき」


 額に流れる汗を拭う。地上を照らす太陽が、リリアの顎を伝う汗を光らせる。畑には雑草一つない。


「どう、おばあちゃん?」

「うん、よきかね」

「良い畑ですねー」


 その返事に満足したリリアは、誇らしげに鼻を鳴らし、再び畑に向き直る。が、二度見した。綺麗な二度見だった。



「誰!?」


 驚きをそのままに聞く。自然に溶け込みすぎて、全く気付かなかった。彼は、ゆっくりとした動作でリリアと目を合わせる。


「僕、この村に住んでいるエリック。よろしくー」

「リリアです。こちらこそよろしく……じゃなくて、何で(ウチ)の畑にいるのよ!?」


 今日もいつの間にかやってきたよきかねおばあちゃん。これはいつものことだ。しかし、その隣に見知らぬ青年が座っていた。この村では珍しい若い男だ。さらにイケメン。目元がつり上がっているのでキツイ印象を受けるが、彼のおっとりとした雰囲気がそれを緩和している。



「いやあ、おばあちゃんが最近ここにお邪魔しているって聞いたので、家族を代表してご挨拶に」

「おばあちゃん、え、てことは、お孫さん!?」

「そうですよ」


 へらっと笑う顔が、隣に座るおばあちゃんと似ていた。体を動かして熱いはずなのに、この二人を見ていたら涼しくなってきた。マイナスイオンでも出ているのではないだろうか。

 それにしても、ここに最近来ていることは、本人から聞いたのか? 彼女は「うん、よきかね」以外に喋れたのか? ぜひ、詳しく教えてほしい。


「君のことは村の連絡網で聞いてるよ。すごく感性がおかしいから気を付けてって」

「私の感性は普通よ。誰よそんなこと言った人」

「ハンナの死んだ旦那さん」

「ビリーね!」


 ハンナの死んだ旦那と言ったら、その人と似ているビリーしかいない。なんと失礼な執事か。リリアの感性はおかしくない、いたって普通だ。ちょっと前向きなのが取り柄なだけで、ちょっと霊長類最強を目指しているだけで、全くもっておかしくない。


「何か不便なことはない? 僕のお父さん、この村の村長だから、何かあれば遠慮なく言ってね」

「不便なことなんてないわ。ここはとても良い村よ。あるとしたら(ウチ)の使用人にしかないから」



(畑の妖精じゃなかったのね)


 彼のお父さんが村長なら、よきかねおばあちゃんは村長のお母さんということになる。てっきり畑の妖精と思っていたリリアは、がっかりした。が、それをおくびにも出さない。今そのことを言えば、やっぱり感性がおかしいと思われてしまう。

 村長の息子が、いきなり家に来たことについては気にしないことにした。きっと一家揃ってこんな感じなのだろう。会ってまだ数分だが、彼といる時は大抵のことはスルーした方が良いということを、リリアは本能で察していた。


「おばあちゃん、お饅頭食べる?」

「うん、よきかね」


 どこから取り出したのか、エリックはよきかねおばあちゃんに饅頭を渡していた。そして、二人で食べ始めた。もぐもぐしている。可愛い。


「おじょうさまー、またお見合い写真が来てますよー」

「またぁ? しょうがないわねー」


 二人を見て癒されていると、ビリーがまた大量のお見合い写真を持って現れる。これで三回目だ。一応上から順に、中を覗く。半分ぐらいが目新しい人物で、もう半分がこれまで見たことのある者達だった。


「懲りないわねぇ、いっそのこと乗り込んで脅してこようかしら」

「旦那様が大変になるのでお止めください」


 見合い写真を確認しながら地面に捨て、火に掛ける。三回目ともなると手慣れたものだ。それにしても、あと何回燃やさなくてはいけないのか。返事を出さずに無視し続けているのだから、さっさと次の相手を探せば良いものを。こう何度も送られてくると鬱陶しい。見合い写真が塵となっていくのを眺める。



「ぐあ゛」


 突然、いつぞやの蛙が潰れたような声が聞こえた。リリアは振り返る。


「どうしたの?」


 ビリーが、信じられないというように一点を見つめていた。そこにいたのは、いわずもがなエリックだ。彼も視線に気づいたようで、ちゃんとお饅頭を飲み込んでから自己紹介をする。


「あ、リリアさんと一緒に住んでいる人だね。僕はエリック、よろしくー」

「執事の、ビリーです。お、お会いできて、光栄、ていうか、うん」

「僕もお会いできて光栄です」


 なぜかぎこちなくも恭しく礼をとるビリーに、エリックは気さくに真似する。


「ねぇ、どうしたの?」

「いえ! なんでもありませんよ、ええ!」

「そ、そう」


 いつにない様子に、リリアが再度訪ねる。彼は、なぜか焦った様子でなんでもないと返した。しかし、所々声が裏返っており、明らかに何かあるのが丸わかりだった。


「ビリー?」


 リリアが半目で問いかける。すると、ビリーが腰に縋り付いてきた。


「本当に何でもありません! というかそれ以上聞かないでください、お願いします! あと少しだけ猶予をください! もう少しだけ、ほんの少しで良いから!」

「わ、分かったわよ、聞いた私が悪かったから、だから縋り付かないで!」


 何かを必死に拒絶している。いつも意味が分からない彼だが、あまりに必死過ぎたので、こちらが悪いような気がしてくる。

 というか、忘れているようだがこの場にはエリックがいるのだ。執事に縋り付かれる令嬢など、これ以上見られたくない。だから、とりあえずリリアは謝った。謝れば大抵何とかなる。



「あ、ビリー、村の入り口に立ってた木が倒れたんだけど、退かすの手伝ってくれない?」

「この状況でお願いするの!?」


 と、思っていたのだが、完全にリリア達を視界に入れているはずのエリックは、全く気にした様子もなくリリアに泣きついているビリーに、木を退かすのを手伝ってほしいとお願いする。とんでもないマイペースさだ。



「いいですよ」


 瞬時に頭を切り替えたビリーが立ち上がる。


「村の入り口で良いんですね」

「うん」


ビリーがキビキビと歩いていく。そんな彼を追いかけることはせず、エリックは隣のおばあちゃんに顔を向ける。


「おばあちゃんはどうする?」

「うん、よきかね」

「分かった、終わったら迎えに行くね」


(なんで通じてんの?)


 あの一言にどんな言葉が集約されていたのだろうか。だが、やはり孫。祖母の言葉を正確に理解していた。エリックはのっそりと立ち上がる。


「リリアも行く?」

「そうね、ちょうど暇になったから。見物にでも行こうかしら」


 リリアは、エリックと一緒に歩き出す。しかし、あまりにもゆっくり彼が歩くので、リリア達が村の入り口に来た時には、すでに男達が木を動かそうとしている真っ最中だった。



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