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第6話 2作目になると人気って落ちるよね


「実はキュンパラには第2弾がありまして、一作目がユフィという令嬢が主人公だったのに対して、二作目は城に上がってきたばかりの平民の女性が主役です」

「ちょっと待って、ユフィってイグニスが私と婚約破棄するのに利用した子よね。その子が主人公だったの」

「そうです。季節外れに転入してきたユフィは、イグニス様率いる超イケメンな生徒会メンバーと付かず離れずのやきもきした恋愛駆け引きをして、攻略対象を一人落とす設定です。この世界はゲームの世界でも亜種なので、アンチハーレムエンドを迎えているみたいですが、おおむね1作目のストーリーはそんな感じです」

「へー、あの子が……駄目だわ、顔が思い出せない」


 どんな顔だっただろうか。あの時のイグニスの顔は覚えているのだが。たしか、女の子っぽい女の子が傍にいたような。駄目だ。どんな姿だったかも分からない。

 アンチハーレムエンドについては、リリアには関係なさそうなのでスルーした。


「俺がお嬢様に聞いていただきたいのは、一作目ではなく二作目の方です。侍女見習いとして城に来た主人公が、これまた将来は国の重鎮として活躍されるこれまた無駄にイケメンな方々と、馬鹿みたいにやきもきした恋愛をしながら男を攻略するストーリーなんですが。どうもその女性、先日イグニス様と婚約したみたいなんですよね」

「良いんじゃないの? 一作目もイグニスは、えーと攻略対象だったんでしょ。二作目の主人公は城の侍女なんだから、城住まいの彼がまた攻略対象になってもおかしくないと思うけど」


 なんでこんな話を真剣に聞いて、考えてあげているのか分からない。けれど、なんだかリリアは面白くなってきていた。男を侍らす主人公の魔性さが興味をそそる。



「ところがどっこい、そうでもないんです」


 リリアの疑問に、ビリーは残り半分となったスケッチブックをまた一枚捲った。


「二作目はイグニスルート後の話になるんです。つまりイグニス様とユフィさんは結ばれ、お嬢様は二回り年上の男の人の所に嫁がれます」

「私何したの!?」

「しかも、お相手は禿げたおじさんです」

「いくら私でも禿げたおじさまは嫌よ!」


 リリアは自分の体を抱きしめた。スケッチブックには、結婚ドレスを着たリリアが、禿げたおじさんと挙式を上げている絵が描かれていた。



(普通の婚約破棄で良かった!)



 いくら変態王子を受け入れられるリリアでも、二回りも年上のおじさまは御免被る。どうせなら同い年の禿げた若者くらいにしてほしい。


「それぐらいお嬢様は酷かったということです」

「貴方、よくそれで自分の彼女って言っていられるわね」

「そこも込みで魅力的なんです」

「……」


 リリアは白けた目を向けた。女の趣味がとことん悪い。一緒に住まない方が良いかもしれないと思えてきた。


「攻略対象も一作目から一新されています。なのに、この世界では二作目の主人公は、イグニス様と婚約された。とんでもない未開ルートです」

「なんで主人公だってわかるの?」

「平民の女性が城に上がることは滅多にありません。だから、婚約者の方が二作目の主人公というのは確定事項です」

「ちなみに、主人公の名前は?」

「ユナです」


 なるほど。名前がどことなく似て、頭文字しか合っていないけど似ている。イグニスは新たな婚約者のことを、理想の女性と言っていた。彼の言う理想の女性、それはつまり――。


「彼女は一体、どんな変態なのかしら」

「まだ会ってないのに、決めつけないでください」

「だって、あのイグニスの婚約者だし、絶対まともじゃないわ」

「まあ、そうなんですけど、それ自分にも当てはまってるの分かってます?」


 二人は同時に溜息を吐いた。会話をしただけなのに酷く疲れた。スケッチブックは閉じている。どうやら、話はすべて終わったようだ。内容はともかく、絵が上手かったのでわかりやすかった。すべて彼が書いたのだろうか。意外な才能だ。



「それで、私はどうすれば良いの?」

「どうって?」

「私に何かしてほしくて話してくれたんじゃないの?」

「いえ、特にないですね」


 リリアは一瞬止まった。ちょっと休みたかった。一瞬で現実に帰ると机をバンと叩く。壊れはしなかったが、机が過去最高に凹んでしまった。


「ない!? これだけ話しておいて!? じゃあ、何のために今の話を私に聞かせたのよ!?」

「話しておいた方がいいかなーと思って」

「理由が軽い!」


 一応頑張って真面目に聞いていたのに。完全に聞き損じゃないか。こんなに長く執事の話に耳を傾ける主人は珍しいんだぞ。これを機にもっと敬ってもらいたいものだ。


「もういい、畑にお水あげてくる! ごちそうさま!」


 リリアは、お茶を一気に飲み干す。そして、ドスドスと足を踏み鳴らしながら部屋から出ようとした。「ああ、床が」という声は聞こえなかったことにする。すべて彼が悪い。



「お嬢様」


 名前を呼ばれた。先程までのお気楽な雰囲気がなくなり、しんとした空気が広がる。真面目な顔があった。



「今の話、全部、信じるんですか?」



 見極めようとしている。リリアの真意を。リリアは小馬鹿にした笑みを見せる。



「馬鹿なことを言うのね。私が貴方の話を否定したことなんて、今まで一度もないでしょ」



 ビリーの頭がイっていることは、昔から知っている。それでも今まで解雇してこなかったのは、それが彼だと思っているからだ。彼にとって真実ならそれは真実であり、リリアも受け入れる。

 今回の話は、いつもの斜め上のさらに斜め上だったが、信じてみても良いかなと思った。違ったら彼のいつもの妄想で終わるだけだ。事実なら、それはそれで面白い。彼の知っているゲームとこの世界がどう違うのか。それをこれから聞けるかもしれないのだ。それでリリアは満足だ。

 別にこの世界がゲームの世界と知ってもショックなどない。この家で穏やかに暮らせれば、それでいいのだ。この世界が誰かの創造物だとしても、リリアにとっては些事なのだ。



 リリアの答えを聞いたビリーは、真顔のままポツリと呟いた。


「これが俺の彼女なら、『執事の癖に私に話を聞いて欲しいですって。毒と縄と剣、どれが良い?』くらい言って溺死されますよ」

「選択肢の意味は?」

「裏切られたっていう顔が良いんですって」

「趣味が悪い」

「溺死だと綺麗な死体が出来上がるらしいですよ」

「知りたくないわそんな情報」


 よくもまあ、それだけの行いをして捕まらないものだ。リリアの家は、そこまで強い権力は持っていかったはずだが。それともお金に物を言わせているのだろうか。どっちにしろ、とても同一人物とは思えない。


「貴方、彼女のどこに惚れたのよ」

「顔ですね」


(うわー)


 リリアはドン引いた。顔が良ければ何でも良いのか。そこでリリアは、ん?と思った。


「顔なら、私だってパーツは同じよ」

「お嬢様は、なんか違うなって。すみません」

「何で私がフラれたみたいになってんのよ」


 その申し訳ないという顔を止めろ。リリアだってビリーはお断りだ。わかりづらいが、彼は自分のことを妹のように思っている節がある。それはリリアも同じだ。やはり自分と同じ名前で同じ顔の子を、彼女と言っているのは気持ち悪いが、リリアにとって彼は最も近しい家族だった。


「私、今度こそ水やりしてくるから、ドア壊しても文句言わないでよ!」

「壊しながら言わないでください!」


 でも、やっぱりフラれた感じなのはムカつくので、思いっきりドアを開けて壊しておいた。これは修理に時間が掛かるだろう。手痛いのはリリアも一緒なのだが、まあ今回は大目に見てほしい。ビリーに捕まる前に、走って部屋を出る。今頃、ドアの破損具合を見て呻いているだろう。



「あはは!」



 リリアはなんだか可笑しくなって、大きく口を開けた。



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