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第24話 急展開すぎません?


「そういうことでしたら、俺から言うことはありません。全力で協力しますよ。俺は一人で見つからないように怯えながら動いていたのに、お二人はリールさんのところで朝まで隠れていたとか何それ羨ましいとか、仮眠もしたのかふざけるなとか、そんなこと全く言いませんよ。ええ、俺だけ仕事多くない? とかそんなこと、これっぽっちも、一ミリも思っていません」

「めちゃくちゃ言ってるじゃない」


 朝、約束通り部屋に戻った三人。不自然なくらい、三人の不在は騒ぎにならなかった。三人は、夜に仕入れてきた情報などを共有し、計画をすり合わせた。


 そして、運命の時がやってきた。




 王の間では、空席となった玉座の横に立つスルベル。その下にいるエリックとリリア。そして、左右には多くの重鎮や貴族、兵がいた。


「兄上、お考え直しいただけませんか。私達には、貴方が必要なのです。国民も貴方を求めているのですよ」

「何度も言うけど、僕なんかにはとても務まらないよ。僕よりも君の方が向いている」

「そうおっしゃらずに、我々がフォローいたしますから」



(ぐー……はっ、いけない私ったら、立ったまま寝てたわ)


 エリックの後ろに控えていたリリアは、居眠りがバレていないかさりげなく周囲を伺う。周りはエリック達に夢中で、こちらには気づいていないようだ。リリアはほっと息を吐く。


「どうしても、お考えを変えるつもりはないんですね」

「うん、相応しい人がなるべきだよ。たとえば、――ここにはいないもう一人の弟とか」


 スルベルの笑顔が一瞬固まった。


(さっそく、切り込んだわね)



 エリックにしてはよくやった。商談の教育を受けていない彼には難しいと思っていたが、上手く事を運んだようだ。話を持ってこれたなら好都合。あとはどう転んでもリリア達の良いように事が及ぶ。


「すみません。兄上は知らないでしょうが、私以外にも弟は大勢いるんです。どの子のことでしょうか」

「おかしいな、皆いなくなって、この城には君とリールしかいないと聞いたけど」


 リールの名前が出たことで、スルベルから表情が消える。王の間に入る前、リリアは上手くできるか不安を見せていたエリックに、こう助言した。



『我慢する必要はないわ。言いたいことをすべてぶちまけなさい。本心から語られたことは、少なからず誰かの心に残るわ』


 エリックが息を吸った。



「何度も言っているけど、僕はまともな教育を受けていない。それなのに、王様の遺言だからという理由で、僕を次の王様にするのはどうなのかなと思うよ。僕なんかを王子にしていいの? 初めてこの国に来たけど、いま国自体が大変なんだよね。僕は国なんて治められないよ。そもそも僕は父親のことなんて知りたくなかったんだ。なのに、僕の村にまで刺客なんか送るから、こうして動かなくちゃいけなくなったんだ」


 刺客という言葉に、その部屋にいた何人かが反応する。本気で驚いている者、不自然なくらいに表情を変えない者。我関せずを貫く者。誰もが薄情だ。


「僕は国の未来なんてどうでもいいから、君がなってもいいんだよ。だけど、君はあんまり素行が良くないんでしょ。町は、君が他国に喧嘩を売って戦争を起こす気だって噂で持ち切りさ。もし実現すると、僕の住んでいる国にまで被害がでるんだ。だから僕は、次の王様はリールが良いと思う。彼はまだ小さいけど、君より素行が良い。国のために尽くしてくれるよ。フォローなら、それこそ、君がすればいいんだから」



 一通り言い終わると、エリックは一息吐く。スルベルの秘書と思われる男が、声を上げる。


「お待ちください、エリアクデル様! いくらなんでも、あんな不要な子供を推薦するなど――」

「僕は――――」


 秘書の男の言葉が最後まで言い切る前に、エリックが遮る。男に鋭い視線を向ける。


「エリアクデルじゃない。エリックだ。しがない村の出身。顔も知らない父親の遺言で、人生を決められるなんてまっぴらごめんだよ」


 秘書の男がたじろぐ。周りの者達は、視線をキョロキョロ動かしてほかの者の出方を伺っている。



「はは、ははは、あーはっはっはっははははははは」



 それまで静かに聞いていたスルベルが、狂ったように笑いだす。


「ス、スルベル様?」


 秘書の男が、戸惑いながら彼に声を掛ける。スルベルは肩を震わせ、笑いを収めた。


「兄上は父上とは違い、正直者のようだ。いいね、俺は好きだぜ。使い勝手が良さそうだ」


 スルベルは、取り繕うことを止めた。周りの者達から、色が消えていく。皆、こちらに被害が向かないようにと俯く。


 スルベルの瞳は、まっすぐとエリックだけを見つめる。



「アンタを王にしてから殺そうとも思ったんだが、止めだ。変更はなし。このまま続行しよう」


 すると、兵が一斉に近くにいる人に刃を向ける。悲鳴があちらこちらで上がる。リリアとエリックも、周りを兵に囲われた。いきなり刃を向けられた貴族が叫ぶ。


「スルベル様、これは一体どういうことですか!? 私が何をしたというのです!?」

「簡単なことだ。俺が作る国にお前たちは要らない。ゴミはゴミらしく死ね」


 リリアはエリックの背に、自分の背中を預ける。


「行ける?」

「頑張るわ、貴方はどうなの」

「こういうのは不得手なんだけど、僕も頑張る」

「それはお互い様よ」


 二人はこの場に似つかわしくない笑みを向ける。まるで、新しいおもちゃを手に入れた時のような笑みだった。


「ヤれ」


 スルベルが合図を送る。兵が一斉に動きだした。


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