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第23話 弟が欲しいと思っていました


「おかえりなさい、兄さん、リリアさん」


 少年と言って差し支えない子供が、二人を出迎えた。


「ただいま、リール」


 リールと呼ばれた少年は、エリックに頭を撫でられて頬を染めている。リリアはそれを微笑ましく見ながら、この部屋の家具を壊したら弁償代はいくらになるのか考えていた。


 リールは、もうほとんど空きになってしまった後宮に棲んでいる。彼以外の兄弟は、後継争いに敗れ、辺境の地へ追放されたか、死んでいる。


 リリア達が彼を見つけたのは、本当に偶然だった。見回りや使用人に見つからないようにウロウロしていたら、たまたま後宮に入ったというだけだ。後宮は不自然なほど、人が少なかった。それが逆に不気味に思え、誰かいるのか捜したところ、彼に会ったのだ。



『君は王様になりたい?』

『はい』

『どうして?』

『僕は父上の跡を継いで、僕を馬鹿にした人たちを見返したいです』


 牢屋の男には、リールは国想いの子と言ったが、先の言葉は嘘だ。その思いもあるのだが、リールの根底にあるのは反骨精神だ。


 だが、どうしたら国を守れるか、経済学や経営学などは一通りマスターしている。頭の回転も速く十二歳の割に、大人な考えを持っている。しかし、継承権が低いということで、その頭脳が使われる機会もなく、使用人からも馬鹿にされながら育ってきたらしい。


 これほど優秀な子供を馬鹿にしてきたとは、この城の者たちは見る目がない。第二王子の影響かもしれない。上が馬鹿だと、下の者達も似たような人種が集まってくるのだろう。



『これまで何とか凌いできましたが、このままでは僕も兄様や姉様たちのように城には居られなくなります。だから、僕ができることならなんでも協力します』


 リールは非常に聡明だった。初対面の男にいきなり“僕は君の兄だ”と言われて、はいそうですかと信じる者は少ない。あるとしたら、疑うことを知らぬ者か、人を見極める能力に長けているものだ。リールは後者だった。


 だから、リリア達は彼を王に仕立てようと決意した。まだほんの子供に、一国を任せるのは如何なものかと思ったが、自分達よりも頼もしいのも確かだった。それに、彼にも心を許せる者がいるようなので、重圧に潰れることもないだろう。



 リールの部屋に帰ってきて早々、リリア達は今後の予定を立て始めた。


「私たちが出ている間に、考えはまとまった?」

「はい、やはりスルベル兄様の不正を暴くのが近道でしょう。兄様は、父に隠れて横領やメイドへの不貞など、色々としていますから」

「その点は任せて、ウチの執事が洗い出してるわ」


 現在単独行動中のビリーは、人の秘密を暴くのが得意なのである。その能力で、リリアの力がバレないように動いてきた。ようは脅し材料を見つけるのが上手いのだ。



「でも、貴方もすごいわね。さすがエリックの弟いうことかしら。後宮から出られないのに、よくそういう情報を仕入れられるわね」

「ここにいると噂話しかすることがないですから。僕、耳は良いんですよ」


 リールは、悪戯を企てている時のように、ニヤリと笑う。それにリリアも同じ顔をしてみせた。



 彼は現在、後宮に軟禁されている。以前は序列が下ということもあり、自由に城の中を出入りできたらしいのだが、今は身の安全を護るためという理由で後宮から出られないでいた。しかし、それは建前で、見張りは形だけ。出ようと思えばできるのだが、その分城の中に人が集まっているので、そう出歩ける状況でもないのだ。



「それじゃあ、もう一度確認しましょう。


私たちは、朝の5時には部屋に戻る。そこで、ビリーと情報のすり合わせをするわ。そして、スルベル王子との話し合いに、私とエリックが行く。私たちが話し込んでいる間に、ビリーがリールを迎えに行って私たちの所に連れてくる。リールが部屋に来たところで、スルベル王子の不正を暴いて、いかに王に相応しくないかを城の人達に示す。


成功すれば、どうせどっかの誰かがエリックが王になれとか言ってくるから、本当は王の血筋じゃないとかなんとか言って誤魔化す。そして、最後の王子であるリールを推薦する。


付け焼刃だけど、これぐらいしかできないでしょうね。長引かせれば、私たちの方が危ないわ」



 本当はもっと情報を集めて、綿密な計画を立てたいのだが、こちらの命が危うい以上、そうも言ってられない。かなり大雑把で行き当たりばったりな作戦だが、成功させるしかない。


 エリックは、緊張した面持ちの弟の顔を、心配そうにのぞき込む。


「しなくてもいいんだよ」

「ううん、僕やります。一度決めたことを曲げる者は、王とは言えません」

「お兄さんの前に立てる?」

「スルベル兄様は、自分の欲望の為にたくさんの兄様たちを処分してきました。なら、これから起こることはあの人の自業自得です。僕は、いなくなった兄弟の仇を取りたい。もちろん、エリック兄さんの分も含めてですよ」

「うん」


 エリックの手が、リールの頬を撫でる。


 くすぐったがる子供の体を、強く抱きしめる。子供は、兄の背を笑いながら抱きしめる。


 こんな形でなければ、もっと普通の兄弟になれたのだろう。リリアは、視界を閉ざし、下を向いた。










 一方、単独行動中のビリーはというと……。


「うわ、何コイツ、典型的な悪徳代官じゃん。えげつねー」


 あまりの悪行に、口調が素に戻っていた。


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