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第21話 軽口叩くから長くなるんだよ


 なんでかなー、というのがエリックの率直な感想である。



 スルベルと名乗った弟らしい人は、刺客を差し向けるほどエリックに王になってほしくないらしい。王様にはなりたい人がなれば良い。エリックには絶対無理だ。だからエリックは、自分は王子にはならないと言った。


 これで万事解決。


 と、思っていた。なのに――。



「それはできません。父の遺言で次期国王は兄上と決まっております。これは何人たりとも覆せないのです」

「でも、僕はこの国のことなんて分からないよ。学校だって日曜学校でしか受けてない。なりたい人がなればいいんだよ」

「いいえ、決まりは絶対です。貴方がなるんですよ。大丈夫です。私が兄上を支えますから、安心してください」

「だから、僕には無理なんだって」


 弟は、顔は笑っているのに、目が笑っていないを地で行く人だった。いいから俺の言う通りにしろ、というのが透けて見えていた。高そうな装飾を付けており、そのうちの一つでも売れば何十もの人が飢えで苦しまなくてすむのにと思った。



 結局、話は平行線のままエリック達は城に泊まることになった。


「貴方の利用方法はいくらでもあるわ。一つは、貴方を王に据えて裏で操る方法。貴方が引っ掛かりやすければ洗脳で意のままに操れるでしょうね。それか、王に仕立て上げてから自分が次の王であるという遺書を書かせて殺すこと。これが一番手っ取り早いかしら。もう一つは、王になる前に貴方を殺すこと。そうすれば必然的に遺書の効果はなくなり、候補筆頭のスルベル様が次の王になる」


 なぜ自分を王に据えようとするのか、と聞いたエリックに、リリアは常と変わらぬ様子で答えた。エリックは、へー、と気の無い返事をした。



「あー、やっぱ来なきゃ良かった。キュンパラの内容がラブコメだから、軽い気持ちで付いてきたけど、なんでこんなドロドロしてんの。ドロってんのは昼ドラだけでいいんだよ。最悪だー。愛しのリリアに会いたい。俺の心の恋人よブツブツブツブツ」

「大丈夫?」

「いつもの病気よ、ほっときなさい」


 城に来てから、ビリーのSAN値はゼロを下回っていた。怪力ゴリラの異名を持つリリアがいるから余裕だ、とか思っていた自分を殴りたい。リリアは、ビリーの入れてくれた紅茶に口をつけようとしたところで口を開いた。


「確認したいことがあるんだけど、この部屋にいたらまずいわよね」

「まずいでしょうね」

「どうして?」


 頭を切り替えたビリーは、リリアの言葉に同意する。エリックは首を傾げた。



 ここはエリックに与えられた部屋だ。ビリーとリリアも別の部屋を用意されている。今日はそこで休み、また明日話し合おうという運びになったのだ。


 だから、この部屋にリリア達がいるのは駄目なのかもしれない。しかし、別に悪いことをしているわけではないのだから、寝るまで一緒にいてもおかしなことはないだろう。


 本気で分かっていないエリックに、今度はビリーが丁寧に説明する。



「さっきお嬢様が言ったでしょ。王になる前に貴方を殺してしまえば、スルベル王子が次期国王になるって。それは早ければ早いほど良い。お嬢様のせいで、貴方の存在は城中の人が知ることになりました。貴方を王子に据えたくない人はたくさんいます。だから、スルベル王子以外にも、貴方を殺したい人が刺客を仕向けてくる可能性が十分にあるんです」

「えっと、寝ている間に、たくさんの人が僕を殺しにくるってこと?」

「ざっくり言えばそうです。そして、付き添いである俺とお嬢様も口封じとして殺されます。幸いというか不幸というか、お嬢様とイグニス様の関係は知られていませんので、俺達を殺しても実害はないと思われています。だから、俺達がこの部屋にいるのは非常にまずいんです」

「寝ている間に刺されたくないでしょ」



 リリアの最後の言葉に、エリックは頷いた。自分はともかく、二人を部屋に置いときたくない。かといって、自分と共にいれば安心というわけでもない。彼らの一番の目的は自分だ。余計に命の危険がある。


(考えるの苦手なんだよなー。守るのも性に合わない。はぁ、いやだなー)


 どうしたものか。当事者である自分がなんとかしないといけないのだが、情けないことに良い案は浮かばない。ビリーも、うーんと唸っている。人差し指を顎の下に添えていたリリアが口を開く。



「作戦があるんだけど」

「貴女の作戦はもう信用しません」

「今度はまともに考えた奴よ」

「ふざけた作戦であるのは自覚があったんですね」


 この二人の応酬にも慣れたものだ。しかし、緊張感が失われるので、空気は読んでもらいたい。


「明日生きていたとして、どうせ話は進展しないわ。だから、これから二手に別れて城の中を探って突破口を見つけましょう」

「でも、部屋に誰もいなくなったら、みんな探し回ると思うよ」

「問題ないわ。ちょっとしか城の中を歩いてないけど、貴方の敵は思ったよりも多いみたい。敵意いっぱいの視線を貰っていたわよ」

「そうなの?」


 あの時は初めてのお城と、初めて会う兄弟に緊張しっぱなしで周りを見る余裕なんてなかった。そんなことができたのは、イグニスの婚約者だったリリアぐらいだろう。ビリーですら、何度城を訪れても緊張してしまうのだ。城の持つパワーというのは侮れない。



 リリアはティーカップを掲げる。


「実はこの中には毒が入っているわ。これを床に零した状態で部屋を出ます。さらに、念のため持ってきたリリア特製血のりを、私たち全員の部屋にぶちまける。見張りはエリックが気絶させておけばいいわ。これで、私たちは敵の襲撃に遭い連れ去れた、あるいは逃げたという状況を作る。普通はそんなことが起きれば、貴方の行方を捜すところだけど、死んでようが生きていようが、貴方は隣国の片田舎で平々凡々に暮らしてきたと思われているから、もうここには恐れをなして来ないと判断するでしょうね。この部屋の惨状を見た人達は、急いで偽の死体を用意するだろうけど、私たちは何食わぬ顔でメイドが起こしに来るまでに部屋に帰ればいい。追求されても知らぬ存ぜぬを突き通せば良いわ。どう、これなら部屋を出ても問題ないでしょ」


 唖然とリリアを見る。てっきり褒められると思った彼女は、困惑を示した。



「私、変なこと言った?」

「いえ、恐ろしく作戦っぽいことを言ったので純粋に驚いているのと、なぜ毒が入っているのが分かったのか教えてもらいたいのと、毒入りの紅茶を入れてしまった自分を嘆く感情がせめぎ合って、うまく感情表現ができません」

「なんで念ために血のりを持ってきたのかなー」

「毒はイグニスに気を付けるように言われて鍛えたからよ。血のりは趣味ね、以前イグニスにリアルな血のりが作れないかと聞かれて面白半分で作ったの」

「全部、あの人のせいじゃないですか!」


(こんな時に役立つなんて、訓練サボらなくてよかった)



 毒の知識はイグニスと婚約を結んでいた時に、自分で気づけるようにと彼に鍛えられたからだ。そのおかげで、こうして生きている。血のりについては、完全な悪ノリである。

 実は敵を欺くために、死んだフリをしたイグニスが使ったことを彼女は知らない。


 リリアはこれ以上部屋に長居しないために、話を進めることにした。



「でね、私はエリックと行くから、貴方は一人で探索してちょうだい」

「なんで俺一人!? 俺、アンタ等より弱いんですよ」

「適材適所よ、貴方はスルベル王子を探ってちょうだい。私たちは、お城の内情を探るわ。クーデターのリーダーさんにも会いたいわね。つまり、貴方は諜報担当、私達は荒事担当。どうかしらエリック?」

「僕はなんでもいいよ」

「どうかしら? これでも一人は嫌?」

「どっちも嫌ですけど、荒事はもっと勘弁したいです」

「じゃあ決まりね、さっそく取り掛かりましょう」


 妙なことになった気がしなくもないが、今更であろう。一介の執事が諜報なんて、それどこの世界の執事という感じである。しかし、それができるだけの力量がビリーにはあった。知らぬは本人だけで、彼はかなり有能で万能な執事なのである。



 リリアの指示のもと、部屋の中を並々ならぬ事態があった状態に仕上げていく。


「集合は五時くらいにしましょう。特にビリー、うっかり寝ないようにね」

「骨は拾ってください」

「眠気に勝つ努力をしなさい」

「うっかり殺したらごめんね」

「ごめんですまない謝罪は止めて」


 部屋を出れば作戦開始なのだが、どんな状況でも緊張感のない三人であった。


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