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第20話 まどろっこしいのは嫌いなの


 隣国に入るのは意外と容易だった。いまだ国が混乱しているからだろう。見張りも少なく、統率にも乱れがあった。


 まあ、こちらはしかるべき身分があり、後ろめたいこともないので、いくら調べられても良かったのだが。むしろそれでエリックの身分が分かった方が、都合が良かったかもしれない。


 とにかく、最初の関門で時間が取られてなったのは僥倖だろう。


 王都までの道のりも、スムーズに行けた。途中で盗賊っぽいモノに遭遇したが、リリアが千切っては投げ、千切っては投げ、エリックがすばやく相手を気絶させた。ビリーは、隅の方で応援していた。



(やっぱ、俺いらなかったかも)


 付いてきたことを、遅くも後悔してきたビリーであった。




 ビリーはリリアに、どうしてここまでエリックのために動くのかと、行く途中で聞いたことがある。すると彼女は、ただの気まぐれだと答えた。

 本人も、どうしてかわかっていないのだろう。不思議そうな顔をしていた。その時のビリーの感想は――。


(エリックルートに入ったな)


 だった。どこまでも期待を裏切らない残念な男である。




 さて、多少予定にズレがあったものの、無事に三人は王都にやってきた。表向き町には活気が溢れているように見えるが、表情はどことなく暗い。


「アンタ等、よそから来ただろ。悪いことは言わないから、早くお帰り」


 道中話しかけてきた女性の顔は険しい。


「何かあるの?」

「アンタも噂で聞いたろ、馬鹿共の権力争いでこの国は忙しい。この先どうなるかわかりゃしない。今にも戦争がおっぱじまりそうさ」

「戦争? どこの国と?」

「さあね、王様代理が馬鹿なせいで、いつよそ様に喧嘩売っちまうか。アタシ等はヒヤヒヤもんだよ」


 うんざりした様子で、女性は溜息を吐く。



(思ったより切迫しているわね)


 戦争なんて、もう何十年もこの大陸で起こっていないのに。

 これは、形振り構っていられない。早急に動かなくては。


「あの方が生きておられたら、こんなことにはならなかったのにねぇ」


 “あの方”というのが誰か、考えるまでもない。リリアは、反射的にエリックを見る。

 彼は、恐ろしいくらい表情が抜け落ちていた。


「エリック?」

「――ん?」

「…なんでもないわ」


 名前を呼ぶと、いつもの彼に戻る。触れてはいけないと思い、リリアは見なかったことにした。

 思わぬ情報をくれた女性に礼を言い、リリア達は城に向かう。





 城の前には、当然ながら見張りの兵がいた。三人は物陰に隠れ、作戦会議を始める。


「ここまでお嬢様に付いてきましたが、どうやって中に入るんですか。俺達、招待状とか何も持ってないですよ」

「え、作戦があったんじゃないの。僕、てっきり二人が考えていると思ってたんだけど」

「俺は一介の執事なんで、作戦考える頭脳は持ち合わせていません。というか俺こそ、この壮大な泥沼家族問題をどう解決するのか聞きたいくらいです。え、ちゃんと考えてますよね? 勝率あるんですよね?」


 ビリーは、心配そうにリリアに聞く。エリックも、困ったような顔をしていた。


「僕も知りたいなー」

「いや、当事者が知らないってどういうことですか。バッドエンドフラグ建ってますよ」

「うるさいわよ、ビリー」

「なんで俺だけ!?」


 少しは自分で考えてほしいものだ。しかし、このメンバーとなると、作戦を立てるのは必然的にリリアになる。リリアは、キリッとした顔を作った。



「私を誰だと思っているの。このリリア・ルクエインにどんと任せなさい!」



 リリアは、自分の胸をドンと叩いた。これでもリリアは学生時代、成績トップをイグニスと争っていたのだ。作戦の一つや二つ、お茶の子さいさいである。


「わー、リリアが言うなら安心だねー」

「なんだろう、嫌な予感」


 片やパチパチと手を叩き、尊敬の眼差しを向ける者、片や青ざめる者。正反対のリアクションを頂いた。


「それじゃ、作戦を開始するわよ。二人共、私に付いてきなさい」


 そう言って、男二人を左右に侍らせ、リリアは城の前に歩いていく。彼女達に気付いた警備兵が、槍を構えた。彼女の前で槍が交差する。



「止まれ。現在この城はスルベル王子が認められた者以外、入城を禁止している」

「許可のない者は入れん。首を貫かれたくなければ、即刻立ち去れ」


 首に槍が向かれる。ビリーは青ざめており、エリックは特に何も考えていなかった。リリアは貴族らしく優雅に微笑んだ。


「許可など必要ありません。――私は、迷惑なご近所さんを懲らしめに来ただけですもの」


 その瞬間、バキッと音がした。え、と折れた折れた槍を呆然と見る警備兵。原因を辿ると、リリアが槍を真っ二つに折っていた。



「こんな物騒な物、レディに向けちゃダメよ」


 リリアが手で槍の先を曲げる。警備兵は信じられない気持ちで、それを見ていた。




 それから城は、すわ敵襲かと大騒ぎだった。


 いきなり、たのもー!、と叫んで貴族っぽい女性とそのお供が扉を壊して入ってくれば驚くだろう。なんやかんやあって、エリックが死んだとされていたエリアクデル王子とわかると、迎撃体制も解かれた。



 さっくり書いているが、実際は城中の兵がかき集められ、リリアの怪力無双でさらに相手が捕まえようと躍起になったり、ビリーが泣き崩れたり、王子の名を騙る愚か者どもと殺されかけたり、本人であると証明するためにエリックの痣を見せたりと、かなり際どい場面が多かった。


 ……終わりよければすべて良しとしよう。



 後にこのことを振り返ったビリーが、ああいうのは作戦ではなくて無計画っていうんですよ!と苦言を呈し、それをリリアが笑って受け流すのがお約束になる。


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