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砂の棺 if 叶わなかった未来の物語  作者: 天海六花
綺麗な石ころ
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綺麗な石ころ 10

     10


 翌日は晴天に恵まれ、絶好のおでかけ日和となった。

 夜遅くまで、サプライズプレゼントの準備をしていたレニーはまだ眠っている。カルザスはそっと寝室を抜け出し、キッチンで朝食の準備を始めた。

 薄く切ったパンに、チーズと香草を乗せる。それをキッチンの片隅にある、小さな石窯へと入れた。

「んん……おはよ……」

「おはようございます。まだお休みになっていても大丈夫ですよ。昨夜は遅かったですし、お疲れでしょう?」

「んー、寝たいのは山々なんだけど、例のやつ、作るだけ作って一応完成したんだけど、包装がまだなんだよね」

「じゃあ、ホリィさんとパルさんの分だけでいいんじゃないですか? 僕達はこっそり最初から付けていっちゃって、お二人が包装を解いたところで、お揃いですよって見せちゃうとか」

「あ、それ面白れぇ。そうしよっかな。なんかカルザスさん、昨日からやたら冴えてるじゃん?」

「なんとなくですよ。僕だったら、そういう驚きを楽しむだろうなって思っただけで」

「とか言っちゃって、実際はホリィを喜ばせたいだけなんじゃねぇの?」

 カルザスはブンブンと首を振った。が、半分は事実だったらしい。赤面した表情が物語っている。

「そういうことにしといてやるよ、オニイチャン。ああ、早くパルの喜ぶ顔が見てぇなぁ……」

 小さな天使の姿を思い起こし、レニーの表情が崩れる。カルザスは苦笑するしかなかった。

 やはり息子溺愛の父親の姿だ、と。

「よし、じゃあ包装やってくっか。こういうのは、開ける瞬間も嬉しいもんだしな」

「あ、もうじきパンが焼けますから、食べてからでも……」

「包みながら食うから、後で持ってきてくれよ」

「分かりました。ハーブティーと一緒にお持ちします。ホリィさんから美味しい茶葉を分けていただいたので」

「ああ、よろしく」

 レニーは腕を回しながら、再び奥の部屋へと戻っていった。カルザスは彼の後ろ姿を見送ってから、ちょうどいい焼き加減になったチーズパンを皿に乗せ、芳しい香りのハーブティーを淹れた。


 アイル邸を訪れたカルザスとレニーは、今日もさっそく、パルから熱烈な歓迎を受けた。レニーはその小さな体を抱き上げる。

「ん?」

「わーい、レニー! たからもの! パルのたからものさがすの!」

 パルを抱いた瞬間、何か違和感めいた感覚があったのだが、パルはレニーに宝物探しを性急に要求している。あまりに元気な彼の様子に、気のせいか、と、その違和感を払拭した。

「分かった分かった。いっぱい探そうな」

「うん! あのね、あのね! きらきらしたのと、おっきいのがほしい!」

「キラキラのと大きいのか。パルは欲張りだな」

 レニーは大きなバスケットを持っているホリィアンに手を振って挨拶する。カルザスはすかさず、彼女の荷物を受け取った。

「朝、ちゃんとホリィを手伝ったか、パル?」

「ふぇ? ……う、ううん……パルねむかったからおてつだいしてない……おねえちゃんのおてつだいしなかったの、レニーおこってる?」

「なんで? 怒ってねぇけど、でも次はホリィを手伝ってやってくれな。一人でみんなの飯作るのがんばってくれたから、ありがとうも言うんだぞ? 約束できるな?」

「うん。パル、おねえちゃんてつだう!」

 そう宣言し、パルはぎゅっとレニーの首に抱き付いた。

「お薬が飲み薬に代わってから、眠気を誘う成分も混ざってるみたいで、パルはよく眠るようになったんですよ」

「それじゃあ仕方ないな」

 腕の中のあどけない天使を見つつ、レニーはふっと笑みを浮かべる。そんな彼に、ホリィアンは指先を口元に添えて片目を瞑って見せた。

「パル。次は手伝ってね」

「うん!」

「ではさっそく出かけましょうか」

 四人は揃って例の湖畔へと、のんびりと歩き出した。パルは自分で歩く気はないのか、レニーの首にしがみついている。レニーは重い重いと不満を口にしながらも、上機嫌で彼を抱いたまま歩いていた。

 二人の光景を、一歩離れたところから、カルザスが見つめている。そしてホリィアンとお互いに耳打ちしあった。

「レニーさん、やっぱりお父さんですね」

「はい。すっかりお父さんです」

 ホリィアンにも同意され、クスクスと笑いながら、カルザスは重たいバスケットを抱え直した。


 以前、三人で来た湖畔。今回は四人での再来だった。カルザスは何気なく思う。ここへ来るたびに、一人ずつ増えるのではないか、と。なにせ最初に来た時は、レニーと二人だったのから。

「レニー! あっち! あっちでさがそ!」

「待て待て。先にちょっと休憩してからだよ。おれ、腕がもう限界」

 レニーは苦笑しながら、ここまでずっとパルを抱いてきた両腕を擦った。

「レニーさん、ごめんなさい。パルったら重かったでしょう? この子、もうわたしじゃ抱えきれなくて」

「ガキの成長は早いもんなぁ。ホリィの細腕じゃ、さすがにもう無理だろうね」

「細腕……」

 ホリィアンは一見して非常に細身のレニーを見つめる。レニーはその視線を真っ向から受け止め、仏頂面になる。

「あのさ、ホリィ。おれだって見た目はこんなだけど、一応男なんだけどね?」

「……だって……わたしより細くて綺麗なんですもん」

 以前、二人して着飾り、カルザスを脅かした時のことを思い出したのだろう。ホリィアンは恨めしげに、レニーの細くしなやかな腕をじっと見ている。

 その光景に、カルザスはふふっと笑っていた。

「あー、もー。おれのことはもういいから、とにかくお茶くれ。喉乾いた」

「はーい。わかりましたー」

 ホリィアンはつんと唇を尖らせたまま、瓶に詰めてきた香茶を、桜紙に包んで持ってきたティーカップに、人数分注ぎ入れた。

「外でお茶会とかする時って、どうしてもお茶が冷めちゃうんですよね。一応、冷めても美味しい茶葉は使ってるんですけど……」

「でもホリィさんの淹れてくださったお茶は、温かいものも、冷たいものも、とても美味しいですよ」

「お、さっそく惚気てるねぇ?」

「レ、レニーさん!」

 カルザスは顔を赤くして、そういう意味ではないという様子で両手を振る。ホリィアンも頬を染めて、膝の上で両手を添えて黙り込んでしまった。

 レニーはそのタイミングを狙い、パンと手を打った。

「はい、注目ー」

 カルザスは彼の意図に気付き、小さく頷き合う。

 レニーは腰に下げていたポーチの中から、パルに小さな包みを手渡した。ぽかんとするパル。

 それが何か気付いたホリィアンに、今度はカルザスが包みを手渡す。彼女もまた、突然の出来事に面食らい、口を噤んでしまった。

「パル。ちょっと早いけど、誕生日おめでとう」

「パルさん。おめでとうございます」

「ふぇ? パルの……おめとぉ?」

 面食らった幼児は不思議そうに全員の顔を見回す。まだ意味が分かっていないらしい。

「ねぇ、パル。おめでとうを言われたら、ありがとうって答えるのよ? パルのお誕生日のお祝いなんだから」

 自身の手の中にある包みは一旦置いておいて、ホリィアンが〝姉〟らしく、パルにお礼をすることを教える。

「パルの……おめとぉ? ありあとぉ?」

「ええ。ありがとう、よ。言ってごらんなさい」

 パルは少し考え込み、だがすぐに満面の笑みを浮かべた。

「ありあとぉ! レニー……と、おにいちゃん!」

「はい、よくできました。一つ賢くなりましたね」

「えへへー、パル、ありあとーなのかぁ。ねー、レニー。これなーに?」

「あっ! そうですよ! わ、わたしもこれ! な、なんですか?」

「開けてみなよ」

 パルは幼児特有の豪快さで、黄色いリボンをぐいと引っ張る。ホリィアンも胸を高鳴らせつつ、薄紅色のリボンを解いている。

 その中身がパルの小さな手に零れ落ちた。

「わっ! きらきら!」

「すごく綺麗なブレスレットですね。レニーさんが作ってくださったんですか?」

 手の中に溢れる輝石(ビーズ)のブレスレット。陽の光を反射してキラキラと輝いている。

「そ。実はね。これカルザスさんの提案で、みんなでお揃いなんだ。どう?」

 レニーが袖をまくり上げると、パルが手にしているものと色違いのブレスレットが嵌められている。同時に、カルザスも袖をすっとまくって、お揃いのブレスレットを見せた。

「わぁ……綺麗です。素敵です。わ、わたしもいただいてしまって良かったんですか?」

「当然ですよ。ホリィさんだけ除け者という訳にいかないじゃないですか。これからも、みんなで一緒、という約束の証なんですよ。だから同じ形で色違いなんです」

「パルのは黄色、ホリィのは薄紅で、おれが白で、カルザスさんが青。色は違うけど、デザインはみんなで一緒。パル、気に入ったか?」

「おててのきらきら? レニー! パルのつけてつけて!」

「はいはい。ほれ、腕出してみな」

「ホリィさんもぜひ」

「ありがとうございます!」

 ホリィアンが喜々として、薄紅色のブレスレットを自分の腕に付ける。そして太陽に透かしてみた。

 薄紅色の小さな硝子玉が、太陽の光にキラキラと輝いている。その手の横に、青いブレスレットが添えられた。

「似合いますかね? 僕はこういうものをあまり付けないので、少し違和感があるのですが」

「お似合いですよ。そんなに謙遜なさらなくても」

 ホリィアンとカルザスは、指先同士をチョンと触れ合わせた。

「ね、ホリィ。堅物のカルザスさんにしちゃ、これってなかなか気の利いたアイデアだと思わない? どう? 惚れ直した?」

「もうっ、からかわないでくださいよ。でも……すごく嬉しいです。わたし、これからももっともっとお二人の力になれるようにがんばりますね」

 ホリィアンは大事そうにブレスレットを擦り、柔らかな笑みを浮かべた。

 彼女が今後も後押ししてくれるなら、これほど心強いことはない。レニーは自身の周囲に増えてゆく、頼もしい味方たちに、心からの感謝を送った。これからも、おれの味方でいてくれ、と。

「レニー! パルきらきら! ほら!」

「うん。おれと一緒で、ホリィと一緒。カルザスさんとも一緒。これからずーっと一緒」

 ぎゅっと愛しい天使の体を抱き締め、レニーは目を細めて彼の頭を撫でてやった。

「えへへー。パルのきらきらー! ……あっ! ねぇレニー、おねえちゃんのいちごのけーきたべよ?」

「えっ? どうしてベリーパイのこと、パルが知ってるの?」

 ホリィアンが素っ頓狂な声をあげる。

「えへへ。あさおきたら、パルだいすきないちごのにおいしてた」

「もうっ。食いしん坊さんね」

 ホリィアンはバスケットに隠してあったベリーパイを取り出し、パルの前に置いた。

「パル、誕生日おめでとう」

「ありあとぉ!」

 先ほどのホリィアンの忠告は、しっかり学習したらしい。パルは素直にお礼の言葉を口にする。

「本当は誕生日っていえば、クリームのケーキなんですけど、さすがに持ち歩くのは難しいかと思ってパイにしちゃいました」

「クリームのケーキはまた今度ってことで予約しとくよ」

「楽しみにしていますね」

「任せてください! クリームいっぱい、フルーツてんこ盛りで作りますよ!」

 三人の胃袋をがっちり掴んだ専属パティシエールが、拳を握り締めて宣言する。

「あ、あま……甘さは適度にお願いします、ね?」

 カルザスは若干引き気味に、張り切るホリィアンに小声でリクエストをしておいた。

 ベリーパイにそっと手を伸ばそうとしていたパルを、レニーが背後から羽交い締めにする。

「こーら。一人だけ抜け駆けはダメー。ホリィ、切り分けてやって」

「はい。ちょっと待ってくださいね」

「あーん、ちょっとだけー!」

「今からいっぱい食えるんだから、もうちょっとだけ辛抱しろっての」

「おねえちゃん、はやくはやく!」

「本当に食いしん坊なんだから」

 ホリィアンは多少呆れつつ、ケーキナイフを取り出して、ベリーパイをサクリと切り分けた。

「レニー、はい!」

「は? なんでおれからなの? 今日の主役はパルなんだから、お前から食っていいんだよ」

「パルたべていいの? わーい!」

 手掴みで差し出されたベリーパリを丁重にお断りして、レニーは膝の上でパルがパイを頬張る様子をにこやかに眺めていた。

「じゃ、おれもご相伴にあずかりますか、と」

「僕もいただいていいですか?」

「はい、たくさん召し上がってください! 他のお料理もすぐ用意しますね」

 ホリィアンは次から次へ、まるで魔法のようにバスケットから取り出した様々なパーティー料理を、シートの上へと並べていくのだった。

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