表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂の棺 if 叶わなかった未来の物語  作者: 天海六花
変化
31/71

変化 1

     1


 アイル邸から町のメインストリートまで出る道は、アイル家の私有地であるため、少々人通りが寂しい。

 そこでレニーは異変を感じ取った。

「……ふむ……違うな。カルザスさん、恨まれる覚えは?」

「差し当たって思い当たりませんが」

「ホリィは?」

「え、あ、はい? 突然、意味がよく分からないんですけど……」

 レニーが小声で彼女に耳打ちする。

「つけられてる」

「えっ? もしかして……」

「いや、〝あいつら〟の気配じゃない」

 危機察知能力がずば抜けて高いレニーが、きっぱりと断言する。

「狙いがおれじゃないとすると、商売してるカルザスさんか、名士の娘のホリィのどっちかなんだけど」

 ホリィアンが怯えたような目でレニーを見上げた。

「レニーさん、数は分かりますか?」

「待って……ん、四人、かな」

「長剣は置いてきちゃいましたから、何か代用できるものがあればいいんですが……」

 普段着ている衣服なら、ベルトの後ろに護身用の小剣を挿しているのだが、今日はマクソン達に会うため、その小剣はおろか、武器の(たぐい)は一切持ってきていない。

「剣の代わりって、長い棒……例えば角材とかでも大丈夫ですか? 剣みたいに斬ったり薙いだりはできませんけど……」

「ええ、ある程度の強度と重さがあれば問題ありません」

「じゃあこっちに建て替え中の家の材木置場があります」

 二人を信じるしかない。つい先程、カルザスはホリィアンを護ると、父親に誓ったばかりなのだから。彼女はそう気持ちを奮い立たせて、材木置場のことをカルザスに告げた。

「人払いも出来そうでいいですね。ではそちらへ」

 三人は固まって、彼女の案内する材木置場へと移動する。カルザスは現場に到着すると、さっそく手頃な角材を探し始めた。

「レニーさんはえっと……」

「おれは素手で大丈夫だよ」

「ふふっ。レニーさんに武器を持たせる方が、返って危険ですよ……あいたっ」

 カルザスが冗談めいて言った瞬間、レニーが彼に肘打ちを入れた。

「いたた……ホリィさんは僕の傍を離れないでくださいね。必ず護りますから」

「おれは誰かを護りながら戦うってのが苦手だから、ホリィはカルザスさんの傍を離れないように。ほい、来たよ」

 レニーが顔を横へ向けると、足音を忍ばせてつけてきていた男達四人が、さっと三人を囲った。

「いい男二人を(はべ)らせて、気分上々かい、アイル家のお嬢ちゃん?」

「わ、わたし?」

「狙いはホリィみたいだね」

 狙い(ターゲット)が分かれば、カルザスとレニーのすべきことは明確だ。ホリィアンを傷一つ付けず、護り抜けばいい。

「レニーさん、半分お任せできますか?」

「半分って、二人相手にするってことですか? でもレニーさんは個人戦は強いけど、複数相手は苦手って……」

「余裕」

 レニーが肩にかけていたショールを取った。

「あんな雑魚(ざこ)、数に入らない」

「では僕の方が終わり次第、援護に向かいます」

 カルザスは手頃な重さの角材を手に、いつもと変わらない温厚な笑みを浮かべている。

 レニーはショールを取って、すっとホリィアンに手渡した。

「ホリィ、持ってて。でも汚したら、あとで頭コツンな」

「あ、はい!」

 ホリィアンが大切そうに、レニーのショールを手にする。

「まぁ、お金目的の誘拐ってところでしょうか。でもこの女性(ひと)は僕の婚約者なので、お渡しできません。申し訳ないのですが」

「なんでわざわざ謝ってんのさ? いつもながら言ってることが、本気か冗談か訳分かんない人だよね、カルザスさんって」

 レニーは少々呆れつつも、カルザス達から少し離れて腰を落とし、スッと片手を構えた。

「はぁっ? ざけんじゃねぇよ、優男共が!」

 男達が一斉に飛びかかってきた。ホリィアンが短く悲鳴をあげて身を竦ませると、カルザスは彼女の腰を抱えてさっと最初の一撃を避けた。

「うわ、雑魚っぽいセリフ」

 揶揄してやると、男の一人がナイフを掲げてレニーに飛びかかってきた。だがレニーは嘲笑し、軽く地面を蹴る。

 軽く蹴ったように見えたのは、男達とホリィアンだけだったようで、レニーは軽々と彼らの肩を蹴って踏み台にし、その頭上を飛び越えて、後方へと着地した。

「わ、すごい……」

「レニーさんの身軽さは、初めて見るとちょっとびっくりしますよ」

 カルザスが腕の中のホリィアンににこりと微笑みかける。

「レニーさん、力加減は気をつけてくださいね!」

 そう叫び、カルザスはホリィアンを離して背後に匿った。そして角材を剣のように構える。

 カルザスに向き合っている男が持っている獲物も角材のようだ。カルザスは一瞬の隙を見抜き、角材を真一文字に振るう。男は手にしていたもので、それを防いだ。

「おや、意外とやりますね」

「スカしやがって……!」

「少しは手加減してくださいよ。こっちはたった二人なんですから!」

 カルザスは再び、角材を一閃した。そのまま重心を移動させ、ぶつけ合った互いの獲物の支点に力を加え、腕力だけで相手を押し返す。

 カルザスの意外な剛力に、ホリィアンは声もなく驚いていた。反対側ではレニーが奮闘している。

「こいつ! 女みたいにヒョロヒョロしてるくせに!」

 レニーに掴みかかってきた男を、レニーは身を捩って避ける。そして振り返り様、素早く回し蹴りを食らわせた。男が顔面から地面に叩き付けられる。

「ぐえっ!」

「動かないでくれる? うざってぇから」

 レニーは男の足首を掴み、関節とは逆方向へと捻った。男の絶叫が辺りに響き渡る。

「レニーさん、ダメですよ!」

「これ以上、無意味に動かれるとうざってぇから、足折っただけ」

 彼は簡潔に言う。人の足の骨を素手で折るなど、そんなに容易いことなのだろうか。残った男達に緊張が走った。

「もう……折っちゃったら、完治まで時間がかかるじゃないですか。可哀想です」

「情け無用」

 カルザスとレニーは、緊張感のない能天気な会話を交わしながら、易々と男達の相手をしている。そんな二人を見て、ホリィアンは完全に言葉を失っていた。

 この二人の戦いにおける実力は、自身の想像を逸脱している。そんな二人に自分は護られているのだ。信じる信じないという次元ではなく、絶対的な安心感を与えてくれるのだ。このならず者達とカルザス達二人では、経験してきた修羅場の数が違い過ぎる。まさに大人と赤子だ。

「お前ら……只者じゃねぇな?」

「只者ですよ? 元傭兵ではありますが」

「おれは、ご想像にお任せしますってことにしといて」

 レニーがカルザスの少し後ろへやってきた。どうやらホリィアンが見ていない間に、二人目の男を戦闘不能に追い込んでしまったらしい。道場等の模擬戦でない戦いの経験がない彼女では、二人の奮闘ぶりを同時に目で追うことは不可能だった。

 どうやったのかは見ていないので分からないが、やはり暗殺者だったという過去を持つ彼の身体能力は、相当なものなのだろうと、容易に察せられた。カルザスが褒めるほどなのだから。

「あちらが主犯格のかたのようです」

「こいつらよりマシっぽいけど、弱いね」

「レニーさん、しばらくホリィさんをお任せできますか?」

「了解。これ以上やったらおれ、ヤバそうだし」

「そうだと思いました。ではすぐ終わらせてきます」

 カルザスはホリィアンをレニーの方へと押しやる。彼女はハッと我に返り、レニーを見上げた。

「カルザスさんを手伝ってあげてください! まだ二人もいるんですよ?」

「大丈夫。カルザスさんを信じてやりなよ。それにさ、カルザスさんは、おれをこれ以上戦わせないようにしてくれたんだぜ」

「どうしてですか?」

 レニーが目を細めてカルザスの背を見つめる。

「これ以上やったら、おれはカルザスさんとの約束を破りそうだから」

「どういう意味ですか?」

「〝あっち〟のおれが目覚めそう、って言ったら分かる?」

 分からなかった。だが、レニーの握り締めた手が僅かに震えていることに気付いた。

「……これ以上、いくら弱っちくとも、こいつらみたいな奴らの相手してたら、おれはたぶん相手を殺す。もうおれは誰も殺したくないし、誰も殺さないって約束をカルザスさんとしてるんだ。ホリィはその約束を破らせるつもり?」

 ホリィアンはぶんぶんと首を振った。ようやく意味が分かった。だからレニーの意思は尊重してあげたい。ならばカルザスを信じて待つだけだ。

「参ります!」

 カルザスが角材を構え、一足飛びに男に向かって飛び込んだ。そして一閃。男の体が吹き飛ばされ、建替え中の家の壁にぶつかった。カルザスは踵を返した勢いで、もう一人の横っ腹を突き上げる。一切の、手加減無しで。

 勝負は一瞬で決着した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ