3.猫は好奇心に従う
旅人です。
話が繋がりました。
「ねぇ、本当に行くの…?」
「大丈夫だよフェル、ね、ミーシャ」
「そうそう、私たちが行ける所に危ないとこなんてないよ」
ミーシャの袖を強く掴むフェリルを二人は宥める。二人は不安を多少感じてはいるが好奇心が溢れ、期待、探求心、楽しさ、それらが目に宿っていた。もう、彼女らを誰にも止めることは出来ない。
三人が向かっているのは、公園の更に奥。手入れのされていない―様に見える―森である。三人は公園の柵を越え、看板の忠告を無視してここまで来たのには、理由がある。それは――
「森で動物の集会があるの?」
フェリルとイルルを先導するように、ぐいぐいと歩くミーシャに、フェリルが問う。もう既にここは膝の高さまで草が青々と生い茂っていた。
「そうそう。後少し先に開けた場所があって、朝か夜に色んな動物が集まっているらしいんだよね」
「へぇー。じゃあ早く行こうよ! 動物たちがどっか行っちゃう!」
イルルはミーシャとフェリルの手を掴み、奥へ奥へと突き進む。背の高い草が肌に当たり、むず痒くなる。長袖を着てくればよかったと若干後悔した。
「ちょっと、待ってって。危ないよ」
「しー、向こうに臭いがする。ほら、あそこらへん」
イルルが臭いのする方へ顔を向け、じっと奥の方を見つめる。二人はイルルを倣って視線を向けた。
草木の間に動く白色の毛らしきものが微かに見える。それは二十メートル以上も離れていた。
「よく分かったねぇ、流石イルル」
「へへん、そうでしょ。熊はね鼻が利くんだって母さんが言ってたんだ~」
獣人のスペックに驚きつつ、そーっと音を立てないように草を掻き分け進んでいく。心臓が、バクバクと外に聞こえるほどにうるさく拍動し、冷や汗が頬を伝う。何かよくわからんがめちゃめちゃ緊張しているのが自分でも分かる。
目的地にたどり着いた三人は幹の太い木の後ろから、覗きこんだ。
「うわぁぁ、本当に集まってる」
「ミーシャ…いないと思ってたんだ」
「いいでしょ、フェリル。見れたんだからさ」
そこには様々な動物がのんびりと日向ぼっこしていた。兎や鹿、小鳥や熊が横になって―――く、くまぁ!?? 食物連鎖はどうしたんだ!?
混乱を隠しきれずにいるミーシャに追い討ちをかけるように、動物たちは想定外の行動し始める。
「お前んとこの鳩、また道に倒れてたって聞いたぞ」
「あいつは飛ぶのに夢中すぎるんだよなぁ。魔力使うのは程々にって言ってるのに」
「そのうち猫に食われるぞ。あー、そうだ。朝飯前なら背中の虫食ってくんね? 痒いんだよ」
「了解。どの辺にいんの?」
鳩が熊の背中に乗って虫食い始めた…てか、動物の声が聞こえてる!? ミーシャは目を白黒させながらその光景を見つめていた。
「ね、ねぇ、二人は声って聞こえてる?」
「ミーシャの声なら、聞こえてるけど。何の話?」
「えぇ、いやぁ何でもない。ありがとフェリル」
ミーシャは自分で願ったことを忘れ、食物連鎖の崩壊と、見た目に合わずいかつい声をした鳩に、ただ頭を混乱させるしかなかった。
「集会…見れたから戻ろ」
「そうだね。満足したし、何より草が痒いし…ミーシャ、戻るよ」
「あ、あぁ、うん。分かった」
今度はフェリルが呆然としているミーシャと、目を輝かせているイルルの腕を掴み、先頭になった。そんなに森から出たいのか、はたまた虫が苦手なのか。
「そういや新入りの猫が来たらしいな?」
「俺その子見たことねーや」
やや大幅で歩くフェリルに、会話に集中していたミーシャは気がつかなかった。そして木の根に足を引っ掻けて盛大に転んだのは言うまでもない。う、後ろ髪を引かれてたんですよ! と被害者は言い訳をしており―――
森を抜けた彼女らは、自らの腹が鳴る音で時間の経過に気付く。陽は直角に差し、十二時の鐘が鳴っていた。
「あれ、もうお昼だー」
「…じゃあ、またね」
「またね。今日は付き合ってくれてありがとう」
二人にお礼を告げ、急いで家に帰っていく。少しでも遅れるといろいろ面倒なんだ。苦い顔を浮かべながらミーシャは走っていくのだった。
その後、ミーシャの家にて――
「ミーシャぁぁーーーー!!!」
「うぐうぇ! 飛びつかないでよ姉さん」
「だってぇー。寂しかったし…」
抱きついて頬をスリスリしてくる姉、ミーナ。やっぱりこうなったか…
ミーナは私が転生したとき、言わば物心ついたときから妹好き――シスコンだった。私が何をするにも何処に行くにも、おはようからお休みまで四六時中側にいて、隙あらば抱きついて耳や尻尾を撫でまわしてくる。最近は落ち着いてきたが、遊びにいくといつもこうなる。
「姉さん、昼御飯でしょ。早く離れて」
「分かったよ。じゃあ手を洗って一緒に食べよう! お母さんたちが待ってるよ」
「はーい。今日のご飯は?」
ミーナはシスコンで、ちょっと鬱陶しいところはあるけど、私はミーナが大好きだ。
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