2.再誕者、ミーシャ
こんにちは、旅人です。
大きな変更を加えました、二話目です。人物は変わりませんが、展開を少し早めにしました。
「おはよう、ミーシャ」
「おはよう、姉さん」
私の顔を覗く猫耳の女性、彼女はミーナ、私の六つ上の姉だ。…少しシスコン染みている。さりげなく頭を撫でてくる姉をスルーし、寝巻きから着替える。腕を通し、頭を出し、尻尾をズボンの穴に通す。
そう、私は獣人に転生したのだ。猫の。
リエルさんには聞かされていなかったが、ある程度成長したら記憶が戻るそうで、三歳ほどでミーシャは三咲となり、三咲はミーシャとなった。そして、自分自身と十分程にらめっこをしていた。変な目で見守られていたのは言うまでもない。
頭の上に生えた薄く暖かい猫耳と、半ば無意識に動く尻尾。人間の時に耳があった場所は何もなかった。ツルッツル。
そして、世界は地球とは非常に異なっていた。鮮やかで淡く光る花や、火を吹くトカゲ、そして魔法と言う存在。どれも見たときはワクワクし、好奇心が体を満たした。魔法を母さんに見せて貰ったときはもう一回、あと少し、と年甲斐なくはしゃいでしまった。
どうやら、精神は肉体に引っ張られるらしい。そうじゃないと、泥んこになって遊んだり、美味しいご飯を食べて足をばたつかせたり、積み木を飽きずに遊び続ける―――なんて事はしないはずだ。
思い出の引き出しを全て開けつつ、朝食の席に着く。香ばしいパンの香りと、彩り豊かな新鮮の野菜、しっかり冷やされたオレンジジュース。朝から豪華だなぁと三咲時代の朝食と比べつつ美味しくいただく。
トーストを口一杯に頬張っているミーシャに、母のラミアが問いかける。
「ミーシャ、今日はあの子達と遊ぶの?」
「うん。いつもの公園で鬼ごっこする」
ラミアが問いかけてきたあの子達、と言うのはその公園で意気投合した二人の女の子である。一人は無口な絹糸の様な艶やかな髪が特徴的の子、もう一人は太陽のような笑顔、の言葉が似合う活発な子だ。
「いいなー、私もミーシャと遊びたい~」
「ミーナは毎日一緒に遊んでいるでしょ。それに、遊ぶよりすることが残っているでしょ」
「えっ!何でそれを…」
「あなたは分かりやすいの」
駄々をこねるミーナを母のラミアが叱る。姉のミーナはアストラ魔法魔術学校と言う家から二十分ほどの学校に通っている。前にミーシャが聞いたとき「とても大きくて、ちょっと古い」と言っていた。未だ見たことがなく、期待が膨らんでいく。
この世には「魔法」と呼ばれる、科学を無視した未知の力が存在する。空気がなくても火が燃え、手を触れずとも物を動かすことができ、極めれば天候さえ操ることができる――と母に聞いた。その魔法を使うには「魔力」が必要だとも。
「魔力」は魔法を行使するために必要な力の源、である。魔力量は人によって異なる。使えば減るし、時間が経つと徐々に回復する。「魔法」と「魔力」は今の科学ではハッキリと分かっていないらしく、大自然のエネルギーだとか、神が与えた奇跡を起こす力だとかいろんな説がある。
正直、ちんぷんかんぷんで全く理解できなかった。頭の良い人は構造から違うのだと結論付け、母に聞いたとき考えるのをやめた。
遊びの準備を済ませる間、思い出の引き出しのへそくりまで取り出したところで、靴を履き、抱きついてくる姉のミーナを剥がして外に出る。
外は桜の、もといサクラの季節で風が暖かく気持ちいい。散歩を楽しむ人が数多く見られる。
そんな人たちを横目にミーシャは走り行く。足が止まらない。くそっ、何で尻尾が激しく揺れるんだ。道行く全員に微笑ましい目で見られてるじゃないか…!
「到着~!!」
肩で息をしながら、着いた公園の入り口で仁王立ちする。公園と言っても遊具等はなく、色鮮やかな花が咲き乱れ、手入れされた木々が青々と繁る、自然溢れた公園だ。
小鳥やリス、様々な動物がここを訪れているのを度々見つけたことがあった。外見は地球に生息していたのと違いは見受けられなかったので、生態系や生物に大きな違いは恐らく無いのだろう。
正直、あんまりこの世界をよく知らないから確定は出来ない。ゲームみたいに魔力が存在するから、魔物がいるかもしれない。もしそうだとすると、魔物と動物との住み分けはどうなっているのだろう? 魔界とかあったり―――
「ミーシャちゃーん!!!!」
「うわああぁぁっっ!! ……ってイルルか、驚かせないでよー」
一人物思いに耽っていたミーシャに、全力で走ってきた元気で活発な女の子、イルルが抱きついていた。可愛い。
「……イルル、早くミーシャから離れて。苦しそう」
「あ、ごめん。大丈夫?」
「うん、大丈夫。ありがと」
心配してくれたのはフェリル。普段はおとなしくて、感情の起伏が薄い…ように見えるが、今も動く頭の狼の耳や尻尾がそうではないと示している。可愛い。
この二人とはこの公園で出会った。イルルとは木登りをしていた所を話しかけたのが、フェリルとは私が花畑で熟睡しているところを話しかけられたのがキッカケだった……本人いわく、死んでるんじゃないか、と思ったそうだ。
私たちはいつもここで鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり、缶けり、丸踏み等、昔の小学生でやったことを踏破してきた。
しかし、今日は違うことをする!!
「ねえ、二人とも。ちょっと来て来て」
「…?」「なになにー?」
寄ってきた二人の肩を抱き寄せ、そっと耳打ちするミーシャ。その顔は何処かいたずらっ子のような、悪巧みをしている顔だった。その内容に一人は好奇心が全身に満ち、もう一人は少しの不安を心に宿した。
「よーし、行こうかっ」
「わーい!」「……ほんとに大丈夫?」
ミーシャをじっと見つめるフェリル。袖を掴む手は何処か弱々しい。
「大丈夫だって。深くまでいくつもりはないし、いざとなったら…」
「…?」
首をかしげ、こちらを見る。可愛い。
「走って逃げる!」
「駄目じゃん。危なっかしいなぁミーシャは」
そう言って笑うフェリルは、大人びて見えた。おかしい、私の方が何倍もの人生経験を積んでいるはずなのに。
ミーシャは何処か複雑な感情を覚えながら、あるところへ向かうのだった…
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話は現在三話まで繋がっております。