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14.

 昼間。ホワイトドラムにある後藤の居室へと呼び出された。木製の天板のテーブルを挟んで、ソファの上で向かい合う。


「相変わらず、ヘッドホンは手放せないようだね」

「今日はどんな用件ですか?」

「仕事を推し進めたり情報を得たりするにあたって、僕は複数のカットアウト、すなわち仲介人を、しばしば使っている」

「初耳です」

「だけど、なんとなく勘づいてはいただろう?」

「否定しません」

「一から説明しよう。あ、お茶は要るかい?」

「喉は渇いていません」

「とあるカットアウトが末端の情報屋と共謀して、僕に背くと言い出した。ウチについて知り得た情報を持って某反社会勢力に加わるってね。そうされたくなければ金銭を寄越せと言ってきている。迷惑な話だろう?」

「裏切るという行為がまかり通るということがなんらかのかたちで他に知れてしまうと、そこには問題が生じてしまいかねない」

「そういうことなんだ」

「問題ありません。ります」

「僕が彼らをここに招いて直接手をくだす。それもアリなんだけれどね」

「崇高な理想を実現する。代表にはその目標に向かって邁進していただく必要がある。ウェットワークを請け負うのは、僕一人で充分です」

「君は本当に頼もしい。だけど、代表じゃなくて、後藤さんだよ」

「失礼しました」




 後藤から電話番号を教えてもらい、問題のカットアウトに連絡を入れた。指定された場所は、夜になると馬鹿みたいに騒がしさを増す繁華街、その一角にある規模の大きなバーだった。スパンコールが散りばめられた薄いドレスをまとった女性が中央の舞台でポールダンスを披露している。


 常連客用とおぼしき座席、店の奥のソファには、口の周りにひげをたくわえた男が座っていた。オーナーっぽい。そんな雰囲気がある。明らかにヤクザだ。取り巻きの男は四人。いずれも白いスーツにサングラス。彼らも極道に見える。誰からもなにも聞かされていないけれど、まずは口ひげの男に話をつけるべきだろうと考えた。彼は右手を前に差し出した。「向かいにどうぞ」ということらしい。


「若いな、にいさん。首のヘッドホンはなんだい?」

「僕にとっては欠かせないものです」

「そうなのかい?」

「はい」

「にいさんにこんなクラブは似合わないな」

「かもしれませんが、仕事をするにあたってはこういうシチュエーションがえらく多いんですよ」

「俺もそれにたがわずってわけか」

「自身の領域に引き込みたい。それは誰しもが思うことですよ」

「小難しいことを抜かすんだな」

「あなた方は本当に反社会的な勢力だと?」

「ヤクザなんだ。少なからずそうだろうさ」

「それはその通りですね。思想家ではないんですか?」

「あるいはそういう判断もできなくはないな」

「わかりました」

「さあ、商談に移ろうか」


 ここで初めて、僕はソファに腰を下ろした。


「それで、問題のカットアウトと情報屋は?」

「上の階で遊ばせてやってるよ。身柄そのものが取り引き材料にされてるとも知らずにな。俺としちゃあ、『治安会』とやらには興味がある。以前、同業がアンタらにしょっぴかれたって話を小耳に挟んだんだよ。そういう知らせを聞いた以上、用心するに越したことはないだろう?」

「我々は悪さをしないヤクザには寛容ですよ」

「悪さをしているから、少しでも確かな情報を仕入れておきたいんだよ」

「もう仕入れたでしょう?」

「少しだけな」

「少しだけですか?」

「ああ。少しだけだ」

「ウチと懇意にしたい。そういうことですね?」

「ああ、そうだ」

「わかりました」

「どれだけ要る?」

「その前に、人払いをしていただけますか?」

「金の話をするだけじゃねーか」

「店の評判を思っての発言です」

「にいさんはなにが言いたいんだ?」

「もうなにも言いたくありません」

「どういうことだって訊いてんだよ」

「こういうことですよ」


 僕は左脇のホルスターから素早く抜いた銃を使って、口ひげ男の鼻面を撃ち抜いた。醜く目を見開いた彼はどっと前に、テーブルに倒れ込んだ。取り巻きの四人が懐から銃を抜き払おうとする。それより速く順番に顔面に弾丸をくれてやって一気に駆逐した。それら一瞬かつ一連の出来事がスローモーションのように見えた。それが僕の特徴とでも言うべき性質だ。


 高かったり低かったりする様々なヒトの悲鳴が響き渡る。銃声が轟いたのだ。客は場から逃げ出そうとして当然だ。


 赤絨毯が敷かれた螺旋階段を使って二階に至る。女性達はいち早く逃げおおせたらしい。緑色のジャケットを着た男が一人、茶色いスーツを着込んだ男が一人、コの字型に配置された黒いソファに座っていた。怯えた様子。そんな彼らに僕は容赦なく鉄砲を向ける。


「『治安会』に刃向かうカットアウトと情報屋、ということで間違いありませんね?」


 緑色のジャケットの男がハンズアップしている。「ま、待ってくれ。詳しい情報はまだくれてやっちゃいない。これからだったんだ」と吐いた。


「あなた方は後藤を裏切ろうとした。その事実だけでじゅうぶんなんです」

「た、助けてくれ。悪かったのは俺達だ。ああ、認める。認めるさ」

「聞けない頼みです」

「ど、どうしてっ?!」

「決まっています。『治安会』を絶対的に守るためです」


 二人の男の眉間にもれなく弾をくれてやった。少々の駆け足で螺旋階段をおり、裏口から表に出た。目撃者もいることだろうし、そうである以上、警察はやいのやいの言ってくるかもしれない。そのへんをやりすごして見せるのは後藤の仕事だ。




 翌日、後藤の居室のソファの上にて。


「基本的に、僕と契約しているカットアウトは、プロ意識がある連中ばかりなのにねぇ」

「あくまでも今回の件はイレギュラーだったと?」

「そうだね。そう信じたいし、またそう願いたくもなる」

「とはいえ、進言したいです」

「カットアウトや情報屋なんて使うな。そう言いたいんだろう?」

「『治安会』はミニマムであるべきでは? 手を広げすぎると百パーセントの仕事ができなくなってしまいます」

「耳が痛いことを言うね」

「非礼があったなら、謝罪します」

「そんなところで気をつかわないでよ。僕達は志をともにする仲間なんだから。今回の件を踏まえて、僕も一考することにするよ。試行的な行いは慎重に選びたいと思う」

「代表」

「後藤だよ」

「後藤さん」

「なんだい?」

「今さらなんですけれど、僕の特技は血なまぐさすぎる気がしています」

「自分が『治安会』にいてもいいのか。そんな疑問かい?」

「同僚は爽やかなニンゲンばかりですから」

「君がそういった点を気に病んでいて、悩んでいたとして、だったら君の能力はどこで発揮されるというんだい?」

「僕みたいなニンゲンがいない世の中。それが美しいと思います」

「美しい国を実現するには力が要る。途方もないパワーが必要なんだ。君のスキルは不可欠なものだ。僕は誰にもその点を否定させやしない」

「わかりました。また汚れ仕事があれば、振ってください」

「悠君。君は遠くない未来に自分が天国に召されるとでも思っているのかい?」

「後藤さん、聞かせてください。天国なんて、あるんですか?」


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