マナ 設定を盛られすぎて困惑☆
登場人物
マナ
警戒ドキドキ帰還少女
紫月 クリスティーン
お玉身構えイキリママ
紫月 獅子
お腹一杯マッタリ高校生格闘家
白峰 尚輝
マナを見過ぎイケメン高校生
紫月 獰虎
寡黙武骨巨体武人パパ
???
玄関カラカラ謎来訪者
「むっき~!」
小柄な二人。母と娘?は来訪者に身構えた。
夕食も終わり、夜はいっそう深まっている。武人は微動だにせず、その息子は寝そべってテレビを観る。壁にもたれかかるイケメン。
一方、母はイキり、娘?には緊張が走る。
諸悪の根元。
紫月ママがそう呼ぶ人物は一体、何者なのだろうか?マナは床に置いてある鞘に手をかけ、万が一の為に備える。
ガラリ、と居間の引き戸が開き謎の来訪者が現れた。
「むっき~!」
と、同時にイキりママが【おたま】を振り回し飛びかかった!
ポコポコポコポコ…………!
いきなり来訪者の頭を【おたま】で叩きまくる紫月ママ。頭を抱えて倒れ込む白衣姿の老人。
「いててっ痛いっ!」
「ちょっとクリスちゃん!」
「いっいきなり何するんじゃい!」
老人が言った、クリスちゃん、とは紫月 クリスティーン。紫月ママの愛称である。
その老人はマナにとってもお馴染みの人物であった。
ヨレヨレの白衣姿に、雑に整えられた白髪オールバック。白い毛混じりの無精髭。顔には深いしわが刻まれている。
紫月 鴉 71歳。紫月パパの父であり、獅子とマナの祖父である。
「何だ ジジイか」
獅子が寝そべったまま眠たい眼で言った。
(何だ ジジイじゃん……)
マナも同じく思った。
ポコポコとジジイの頭を一心不乱に叩きまくる、瞳はニッコリのままイキる紫月ママが叫ぶ。
「このっ」 「このっ」
「鴉ちゃんの……」
「まっどさいえんてぃすと~!!」
紫月ジジイは科学者であり発明家である。普段は市内の大学で教鞭を執っており、今夜も大学の研究室に居た処、紫月ママに呼び出された次第である。
興奮する紫月ママに見かねてマナが声をかける。
「あ、あのぅ……」
「この人が一体何か……?」
それを聞いた、頭を抑える涙目のジジイが叫んだ。
「そうじゃい!」
「ワシが一体何をしたというんじゃい!」オョョ
紫月ママがいっそうイキりながら返答した。
「このヘンタイ科学者~!」
「シラを切ったってむだなんだから~!」
そしてその後、とんでもない事を言い出す紫月ママ。
紫月ママはビシッと人差し指をマナに突きつけて叫んだ!
「この娘ぉ~!」
「私のぉ~!」
「【クローン人間】でしょ~!」
「アナタがぁ~」
「造ったんでしょぉ~!」
?
!?
「エエエエエェェーー!!」
マナは紫月ママの発言に驚愕し、開いた口も塞がらず、更に頭がグルグル混乱した。
「な、なにいっとんじゃい!」
「幾らワシが天才でもそんな事出来るかい!」
「ほ、ほらこの娘もビックリして固まっておるじゃろが!」
(……てかこの娘、確かにクリスちゃんによく似とるが)
ジジイ必死に弁明するが紫月ママはそれを聴かず、更に荒唐無稽な事を主張し始めた。
結論から言うと、紫月ママは一切、何にも解ってはいなかった。自らの荒唐無稽な妄想でマナの事を解った気になっていただけなのであった。
以下が紫月ママが主張したマナの事の一部である。
・私のクローン人間である。
・研究室で育てられた可哀想な娘。
・様々な人体実験を受ける。
・感情を殺し、殺人マシーンとして育てられた。
・時にはヘンタイ科学者の慰め者に……
・耐えられなくなり脱走。
・母の温もりを求めひとりさまよって……
・やっとの思いで私の元へ……
等々。
剣と魔法の世界から戻ってきた、女の子になった獅子。というのも荒唐無稽ではあるが、紫月ママの妄想もそれに負けない位、荒唐無稽であった……
紫月ママは天然だ。しかし天然にも度が過ぎた。
はえぇ~↑という表情の獅子、微動だにしない父、フッっと笑う尚輝。
「なんじゃい!そりゃあ!んなわけあるかい!」
ジジイが叫び、マナもウンウンウンウンと頷きまくる。
しかし紫月ママはマナの事を抱きしめ、青い瞳を潤ませながら言った。
「もういいのよぉ!」
「こんなヘンタイ科学者ぁ、庇う必要無いんだからぁ!」
(えぇぇぇ……)
途方に暮れるマナ。
「もう、埒ががあかんわい!」
そう言うとジジイは白衣のポケットをごそごそとまさぐり、何かの機械を取り出した。
スーパーのレジでピッとするヤツみたいな形の機械。
「簡易DNA鑑定器じゃい!」
「電話口でもクローンがどうとか言っとったから」
「持ってきて正解じゃったわい」
ジジイがその機械を構えながら言った。
「これを使えばすぐに濡れ衣も晴れるわい!」
「さあっおまいら 腕を出せぃ!」
むぅ~と言いながらマナを抱きしめたまま、腕を向ける紫月ママ。マナも一緒に腕を向ける。
「面白そうだなぁオレもオレも」
獅子も飛び起きて腕を出した。
ピッピッピッと三人の腕に機械を充てるジジイ。そして右手に装着しているブレスレットをちょいといじると、ジジイの目の前に19インチ程の空間光子ディスプレイが現れた。
画面にはDNAの螺旋構造が表示されている。
「さあ解析を始めるんじゃ」
ジジイがブレスレットに向けて話しかけると、
「解析開始しマス」
と無機質な女性の声が返ってきた。
「解析完了。結果を表示しマス」
あっという間に解析が終わり解析結果を喋りだすブレスレット。
ドキドキしながら結果を聞く紫月ファミリー。
「被検者Aと被検者B、被検者Cは」
「99%以上の確率で血縁関係有りデス」
被検者Aとは紫月ママ、Bはマナ、Cは獅子である。
「な、何じゃとぉ!」
予想外の結果に驚愕するジジイ。
だから言ったでしょ~という表情の紫月ママ。
マナも嬉しく感じたが、同時に事態がよりややこしくなるのではないか、と危惧していた。
そしてその危惧は現実に……
「被検者Bと被検者Cは」
「100%一致」
「同一個体、若しくは一卵性の双子と判断しマス」
ブレスレットの女性の声が返答した。
「なななな何ぃぃ!!」
ジジイがことさらに驚愕する。
(あああ……やっぱり……)
マナには予想通りの結果であった。
「それってどういう事だってばよ?」
首を傾げる獅子。
「んなアホな……故障じゃっ機械が故障しとるんじゃ!」
何とか言い訳をしようとするジジイであったが、
「私の解析は正確デス」
とブレスレットのお姉さんが無情にも答えた。
「鴉ちゃん……」
紫月ママの優しくも怒りのこもった声……
「私のクローンじゃなくて」
「獅子ちゃんのクローンだったのね」
「しかも女の子に作り替えるなんて……」
「ヘンタイにも程があるわよ~!!」
「この……」
「ヘンタイオブザイヤー!!」
眉をしかめて汚いモノでも見るような瞳でジジイを罵る紫月ママ。
「違うんじゃぁ~」
「これは何かの間違いじゃぁ~!」
「ワシは潔白じゃぁ~」
涙を浮かべ必死で否定するジジイ。
ひたすら罵る紫月ママ。目が点になり首を傾げる獅子。微動だにしない父。無駄にイケメン顔でマナを見つめる尚輝。
(あああ……もう…………)
マナはこの事態を収集すべく覚悟を決めた。そして叫んだ。
「私はっ」
「俺はッ!」
「「俺は獅子本人なんだよぉぉー!!!」」
………………
よく通るマナの甲高い叫び声。その声を聞き、一同は静まり返った。
「コホン……」
小さく咳払いをし、マナは語り始める。
1から今まで事を全て。
気づいたら見知らぬ世界。何故か自分は幼い女の子になっておりー。色々苦労しー
勇者を頑張って見つけー
色々冒険しー
竜が巨人が妖精が魔王がー
破壊神が転移魔法がうんたらかんたらー
そう。マナの物語。マナ物語である。
「で、やっとの思いでこの世界に戻ってきたんデス!」
「そしたら獅子は男のままで存在してるしーー」
小一時間休まず語り続けたマナ。瞳を閉じて静かに聴く紫月ママ。相変わらず首を傾げる獅子。微動だにしない父。だが新聞のページが進んで無いのでマナの話は聴いていたのだろう。マナの顔をマジマジ見つめる尚輝。
「そうじゃぁ~この娘のいう通りじゃぁ~」
「ワシは一切、関係無いんじゃぁ~」オョョョ
兎に角、身の潔白を証明したいジジイ。
全てを話し終えて流石に疲れた様子のマナ。
紫月ママはゆっくりと瞳を開くと、大粒の涙を流しながらマナをギュッと抱きしめた。
「辛かったのね」
「今まで本当に辛い思いをしてきたのね~」
(ああ……良かった……信じてもらえた)
マナは母の温もりを感じながらホッとして微笑んだ。
「もういいのよ……」
(ん?)
「そんな作り話で逃げなくても」
(あれぇ)
「ママがこれから沢山」
(あああ……)
「アナタに幸せを与えてあげるんだからぁ!」
(だめだコレ……)
マナ物語は徒労に終わった。紫月ママの中でマナは
【辛さのあまり、空想の世界に現実逃避した可哀想な獅子のクローン】
という設定が追加されただけであった。
マナは紫月ママに抱きしめられながら呟いた。
「…………」
「もう……クローンてことでいいです…………」
緋い瞳はちょっと曇り……