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優しい温もり

登場人物


女の子 マナ

ドキドキ異世界帰還少女


紫月 獅子

腹ぺこ逞し高校生格闘家


白峰 尚輝

テクテクイケメン高校生格闘家


紫月 ???


 帰路につく人達を眺めながら夜の商店街を抜けて一本裏通り。

 古くからの住宅街であり、木造の日本家屋と洋風家屋が混在して立ち並ぶ。


 そこに獅子の家はある。


「ついたぜ」


 獅子と女の子(マナ)は数寄屋造りの外門の前に立っている。造られてからはかなり年月が経っているのだろうが、歴史を感じさせるような立派な外門である。


 【紫月】と彫られた大きめの表札が門燈に照らされている。


「ほら 入ろうぜ」

 獅子は女の子と繋いだ手をぐいっと引っ張るが女の子は抵抗し動かなかった。

 獅子が振り返り見ると不安そうな表情でうつむいている女の子。


 マナ(女の子)は此処まで来て、家に入るのが怖くなっていた。家族が、自分が獅子であるということを知っている訳は無い。

 でも父親、そして母親が今の自分の姿を見て、どんな反応をするのか?そんな事を考えたら、堪らなく怖くなってしまったのだ。


 「やっぱり私……」


 とマナが言い掛けたところで数寄屋門の引き戸が、ガラララッ!と勢いよく開いた。そして、


 「あ~っ獅子ちゃ~ん、おそ~い!」


 獅子の背中の先から聞き覚えのある間延びした女性の高い叫び声。獅子が邪魔でその姿は確認出来ない。


 しかしマナにはその女性が誰か、直ぐに解った。


(お おかあさ……)


「いやぁ(わり)い悪い。」

 獅子が振り返り苦笑いしながらその女性に話しかけた。

「尚輝のヤツに付き合ってて遅くなっちまったわ。ゴメンゴメン!」


「ま~た決闘~?頬、腫らしちゃって~」

「いやぁこの傷は尚輝にやられた訳ではなくて……」


 マナは、そんな会話をしている女性を獅子の陰からチラリと覗き見た。


 そこに居たのはマナと同じくらいの背格好の小柄な女性。


 ヒラヒラのフリルがいっぱいついたピンク色のワンピース。その上から白い割烹着というミスマッチな装い。金色の長い頭髪はお団子にして後頭部に纏めている。

 

 目元はニコッと微笑んでいるが、眉をしかめているので怒った表情なのだろう。


 紫月ママ、こと、紫月 クリスティーン。36歳の主婦である。


 察しの通り欧州系の女性。獅子もその血を間違いなく引いている筈だが黒髪だし全然似ていない。獅子は父親似なんだろうね。

 割烹着さえ着てなけば、36歳には決して見えない、若いお母さんである。


 紫月ママは右手に持ってる【おたま】をブンブン振りながら獅子の事を怒っているようだ。


「も~獅子ちゃんったら、今度遅れたら晩御飯抜き何だから~」


「…………ん~あら~?」


 紫月ママのにっこり瞳がマナに気付く。マナはドキリとして紫月ママを見たまま固まってしまう。


「えっ……ええ~!あれあれぇ~!」


 紫月ママは瞳を見開いて、びっくりした表情でマナにぱたぱたと駆け寄ってきた。


 全く同じ身長の二人。


 紫月ママのちょっと緑掛かった青い大きな瞳が、マナの緋い大きな瞳と見つめ合った。


「ああ、この娘はね……」と獅子が言い終える前に、


 マナの視界にふわっと広がる桃色の影。


 抱擁。


 いきなり、紫月ママはマナの頭に両手を回し、その胸に抱擁した!強く、そして優しく。


 ほんのり香るお花の香り。


 暖かくて柔らかい温もりを頬に感じる。紫月ママのお胸はかなり大きかった。


 マナはあまりにもいきなりの事で頭の中がグルグルなり、硬直してしまった。


「あっ……あの……はっ……わたっ」

 マナはなんとか喋ろうとしたけども全く舌が回らなかった。


 瞳を閉じて優しい表情で抱きしめる紫月ママ。驚き戸惑いの表情で抱擁されるマナ。


 金色と碧色が街頭に照らされてキラキラと輝く。


 獅子はその光景を、はぇぇ~↑。といった表情で眺めている。


 マナの心は徐々に落ち着き、母親に抱き締められている、という実感と幸福感に満たされ、瞳を閉じてその思いに浸る。


 暫くの抱擁の後、紫月ママは、ぱちっと瞳を開き、獅子の方を見て言った。


 「ねぇ、獅子ちゃん」


 「私に【娘】っていたんだっけ~?」


 娘。


 紫月ママはマナの事をそう呼んだ。初対面のおかしな装いの女の子を抱きしめて。何も知らない筈なのに。


「う……」


「うう……」


「うわぁーーん!」


 マナは感情が抑えきれなくなり号泣した。母親の胸に抱かれたまま。


「あらあら~」


「よしよし、今まで辛かったよね」


「一杯泣いていいのよ」


 紫月ママはマナの頭を優しく撫でて抱擁した。獅子は、はぇぇ~↓。といった表情でその様子を眺めている。


 マナが泣き止むと、紫月ママは優しく声をかけた。


「さぁお家に入りましょ~」


「晩御飯、用意するからね~」

 

 マナが少し躊躇すると、紫月ママはマナの耳元で囁いた。


(遠慮しなくていいのよ~私はね、【全部知っている】んだからね~)


 マナはまた心臓がドキリとした。


 全部知っている。


 そう母親は言った。何処まで知ってるの?私が獅子だって事?異世界から還ってきた事?本当に!?何で!?


 頭の中で疑問がグルグル渦巻きながらも母親に抱かれながらマナは外門をくぐった。



 獅子が頭をポリポリ掻きながら、前を歩く母娘に言った。

「本当に二人は良く似てるなぁ~」

「眼とか鼻も口もソックリだ」

「あ、でも似てない部分もあるな~」


「お前は【胸が全然無い】し」

「お袋は【尻と胸が太り過ぎ】だし」

「それに【しわ】もーー」


 言ってはいけないような事をいくつも言ってしまう獅子。その刹那、


「【しわ】もーーどふぉっ!!」


 母娘による怒りのダブルキック!


 獅子のみぞおちにクリティカルヒット!


 崩れるように膝をつく獅子。口からは【自主規制】がキラキラと流れ落ちる。獅子は思った。


(息……ピッタリだな…………)


 紫月家の夕食タイムが始まる。






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