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異世界少女☆逆ホームシック

登場人物


女の子

ションボリトボトボコスプレ少女


紫月 獅子れお

逞し頬腫れ高校生格闘家


白峰 尚輝

イケメン見守り高校生格闘家

 (ニセモノは私の方だ……)


 冷たい風が吹く夜の青刃神社。700程ある長い石階段をトボトボと降りる碧色の髪の少女。


 壮絶な闘いを経て、剣と魔法の世界から、何の変哲も無い地球へ戻って来ることが出来た。


 だがその表情は暗く悲しみに満ちていた。


 彼女の本名は獅子(れお)というが、今の名はマナという。マナはこの世界に戻ってきて早々、自分自身に出会ってしまう。しかも男の子のままの獅子に。


 マナは剣と魔法の世界に転移した時、理由は解らないが幼い少女の姿になってしまった。


 それから女の子として何年も過ごし、苦労に苦労を重ねてやっとの事で、いや奇跡的にこの世界に戻ってこれたのだ。


 だがマナは自分自身、獅子と立ち合って悟った。この世界には私の居場所は無いのだと。


 長い石階段を降りながら、眼前に広がる夜景を観る。遠くに千代(せんだい)市中心部のビル街がキラキラと地上の星のように煌めいている。


 ガタンガタンと電車の走る音。


 車の走る音。


マナは元の世界に戻ってきた事を改めて実感した。


 長い石階段を降りきると石造りの鳥居がある。マナはポンと鳥居の柱に触れて通り抜けた。


 鳥居を抜けるとそこは青刃公園というちょっとした公園になっている。砂場、鉄棒、滑り台、ブランコ。日中は子供達が遊んでいるが今の時間は誰もいない。薄暗い街灯が静寂の公園を照らしている。


 マナはブランコにちょこんと座り、哀しげにうつむいた。そして獅子との立ち会いを思い出していた。


 最初は男の自分が目の前に立っていることに驚愕し、本気で消してしまおうと思って剣を振るった。しかし、久々に用いた紫月流格闘術。


 楽しかった。


 命のやりとりではない、純粋なチカラ比べ。拳と拳のぶつかり合い。男の時の自分を久し振りに取り戻した様な気がした。


 でもあっちの獅子の、あの純粋な笑顔と言葉を聞いて、現実へと引き戻された。


 目の前にいる男が本物の獅子であり、自分はまがい物の獅子であることを。


 心まで女の子になってしまった【マナ】であることを……


「あの世界に……」


「マリスのいるあの世界に帰りたい……」


 涙をぽろぽろ流しながらマナは呟いた。


 マナはハッとして気付いた。私には【時空転移魔法】があるじゃないか!と。戻ろう、私がいるべき世界へ!

 そう思いながら、涙目をこすり、立ち上がって両手を目の前にかざした。そして剣と魔法の世界の事を必死で念じた。


 だけども、どれだけ念じてみても転移魔法は発動しなかった。魔法のチカラが失われているのか……?


「何で……」


「何でなの……ううっ……ぅ……」


 マナは絶望し、うずくまってまた涙を流した。家にも帰れない…どうしたらいいのか解らない。


 「あっ!いたいたっ!お~い」


 途方に暮れるマナに声をかける脳天気な男の声。


 マナが声の方向を振り向くと、腕をブンブン振りながら、白い歯を見せ満面の笑顔でこちらに歩いてくる逞しい男、獅子であった。その振り回す手にはマナの落とした長剣が握られていた。

 獅子はタンクトップの上に高校のブレザーを袖を通さず両肩に羽織っている。先程は裸足であったが、今は革靴を履いていた。


「ほら、この剣、忘れもんだぜ」

 獅子はマナの前に剣を差し出した。マナは無言で剣を受け取り鞘に戻して涙目をこすりながらブランコにまた座った。獅子も隣のブランコに座った。


 鎧を着た少女と格闘高校生。何ともいえない組み合わせの二人。


 暫くの沈黙の後、獅子が口を開いた。


「お前の名前、何ていうんだ?」


「その格闘術、どこで習った?」


「どこに住んでるんだ?」


 マナは答えることが出来ずただうつむいているだけだった。


「家に帰らなくて良いのか?」


 獅子がその質問を投げかけた時、マナはまた悲しくなって涙を流す。獅子は気まずそうに続けて問いかけた。


「帰る所が無いのか?」


 マナはうつむき涙を流しながら小さくコクリと頷いた。


「だったらよ」


 うつむくマナにレオは明るい声で言った。


「オレん()へ来いよ!」


 マナは驚いた顔で獅子の顔を見た。獅子は白い歯を見せ爽やかに笑っている。マナは躊躇した。


 この女の子の姿で家に帰るなんて……。


「でも私……私はっ……」


 言いかけた所で獅子が強引にマナの手を取り立ち上がった。


「ほらっ!行こうぜ!」


「お袋の作るメシは美味いんだぜ~!」


 マナは心臓がドキリとした。数年ぶりに思い出す母親の事。その思いに抵抗できず、獅子に手を引かれてマナは歩き始めた。


 獅子とマナの家まではこの寺街から南方、つまり千代市街の方へ15分ほど歩いた処にある。人もまばらな夜の寺町を手を繋ぎながら歩く獅子とマナ。


「大分、遅くなっちまったなぁ」


「こりゃお袋、相当怒ってるだろうなぁ」


 困った顔で頭を掻きながら獅子が言う。それを聞いたマナも、母親の怒った顔を思い出してちょっと可笑しくなった。


「……ねえ」


 そういえばマナは確認したいことがあるのを思い出し獅子に話しかけた。


「ん、何だ?」

獅子が歩きながら答えた。


「今って……何年の何月なの?」


 おかしなことを聞くなぁと思いつつも獅子は答えた。


「XX年の4月だぜ」

「そういえば明日からゴールデンウィークで学校暫く休みになるんだったなぁ」


 獅子の答えを聞いてマナは驚愕した。


 マナが獅子だった時の最後の記憶、それは中学の卒業式。マナが剣と魔法の世界へ飛ばされてから、こちらの世界は2ヶ月程しか経っていないのだ。


 獅子の姿をよく見るとマナ(獅子)が4月から通う予定だった高校の制服を身につけている。


 マナはふと考えた。今、自分の年齢はいくつなんだろうか、と。

 幼い少女の姿から異世界に数年。いや7、8年くらいは居たのだろうか?とすると今の自分の年齢は……


 ……15、6歳位なのかな、と。


 獅子は難しい顔をしながら歩く女の子を横目に見ながら思った。


(うーむ 確かに尚輝の言う通り……)


 そうこうしているうちに寺町を抜けた。そこはちょっとした商店街通りとなっている。目の前は明るくなり、人の通りも多くなる。仕事帰りのリーマンや塾帰りの学生がせわしなく歩いている。


 懐かしそうに見回しながら歩くマナ。獅子はその様子を見ながら言った。


「もうすぐオレん家に着くぜ」


 勿論、それはマナにも解っている事なのだがその言葉を聞いてマナの鼓動は高鳴った。


 本当に家に帰れるんだ、と。


 そして二人は紫月家の門の前についた。




  

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