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刀拳乱舞

登場人物


女の子

殺気ムンムンコスプレ少女


紫月 獅子れお

命狙われ焦り高校生格闘家


白峰 尚輝

イケメン金持ち傍観高校生

 辺りはすっかり暗くなって、肌寒い風が吹き始めた。場所は青刃神社の境内。幾つかの薄暗い街灯が、男二人と対峙する少女を照らしている。少女の抜いた剣が街灯の光をキラリと反射する。


 右手で剣を持ち、獅子の方へと突きつける碧色の髪の小柄な女の子。その緋い瞳は殺気に満ち獅子を睨みつけている。


「コロス……コロス……コロス………」


女の子は物騒な事をブツブツと呟いている。


(コロスって……いやアレ玩具の剣だよね?)

(うむ……しかしながらあの刀身の輝き…真剣のような?)

 男二人でそんな会話を交わした後、獅子は少女に訴えかけた。


「ちょ、ちょっと待て」

獅子は両手を上げて引きつった笑顔で女の子に訴えた。

「幾ら玩具の剣でもそれは――」


 ヒュンッ!


 と言い終えるまえに少女の剣による突きが獅子の顔面めがけて飛んできた!獅子は紙一重の所で首を横に倒して回避する事が出来た。獅子の髪の毛がハラリと切れ落ち、頬からは一筋の切り傷が浮かび上がり血が垂れる。引きつった獅子の笑顔が凍りつく。


(マジで真剣だコレ)


 獅子は横目で刀身を見、青ざめながら思った。すぐ目の前には剣を突き立てたまま獅子を睨みつけている女の子。綺麗な顔なのに恐ろしい形相だ。


(これはヤバい……ヤバすぎる!)


 只の頭のおかしなコスプレ少女ではない。そう思いながら獅子は後方に遠く飛び退いた。女の子もすぐさま反応し獅子を追う。


 女の子の斬撃が一斬、二斬と獅子に襲いかかる!獅子はなんとか避けながら神社の境内を逃げ回った。刀身と碧色の髪がキラキラと飛び回り獅子の後を追う。


「キエロ キエロ キエロォォッ!」


 怨念めいた言葉を獅子に投げかけながら剣を振り回す危ない女の子。


「うひぃ!お、おい尚輝!観てないでこの娘なんとかしてくれぇ!」

獅子は情けない声をあげて尚輝に懇願した。


 いつの間にか遠くの杉の木に、もたれかかりいつものポーズ(腕を組んで右手の人差し指を額に)を取る尚輝。

「標的はお前のようだ 俺には関係ない事だ」

眼を閉じてフッと笑いながら尚輝は答えた。


「は 薄情者ぉー!」

獅子は必死に女の子の斬撃を避けながらながら叫んだ。


 尚輝は、獅子に襲いかかる女の子を静観していた。冷静沈着な切れ目の瞳で。そして思った。


(うむ……速い……!あの獅子と互角の俊敏性…あの娘何者だ!?)


 尚輝も獅子も高校生ではあるが、その格闘技の実力はかなりのレベルである。ましてや、同じ年かそれ以下の女の子に遅れを取ることは決して無い筈だ。


(しかしながらあの娘……よく見ると何処かで……?)

そんなことを思考しながら傍観していると事態は動いたようだ。


「っきしょーめ

 いい加減にしやがれッ!!」


 逃げるのを止めて、女の子と対峙する獅子。しかし女の子は構わず、殺気込めた剣を獅子の胸へと突き立てた!


 獅子が右掌打を放つ。女の子へ初めての反撃は刀身の側面を狙った一撃だ。刺突の軌道をそらし、剣は左脇腹を皮一枚でかすめ通り抜ける!


「ッしゃあ!」


 獅子はそのまま膝蹴りを放ち、少女の剣の持ち手の手首へヒット!剣は少女の手から吹っ飛び、クルクルと宙を舞う。


 ストン!と剣は石畳に半分ほども突き刺さった。凄い切れ味の剣だ。突き刺さった剣を見て獅子は冷い汗をかきながら思った。こんな剣で斬られたらマジで死んでたな、と。


「ふ、ふぃ~」


 獅子は取り合えずば安心して、女の子の方を見た。4、5メートル程先に立つ女の子は、打たれた手首を抑えて動かない。獅子が、何か話しかけようかな。とか思ったその時!


「はぁぁぁぁ……!」


 息を吐きながら少女はゆっくりと構えた。左半身を前に向け、腰を落として脚を開き右手を腰に…獅子に向ける掌は手刀の形を取っている。そして獅子の方を睨みつける。その緋い瞳は相変わらず殺気に満ち……!


(!!!

 な、何ぃー!)


 獅子は驚いた。自身と寸分違わぬ構え。女の子のとる構えは獅子が修める【紫月流格闘術】の構えの一つだ!


 遠くから傍観している尚輝もまた驚嘆していた。

(何者だ……あの娘。まさか紫月の血縁者なのか!?)


「くっ!」

 剣を弾き飛ばして安心していた獅子であったが女の子の構えを見て自身もまた、同じく腰を落とし構えた。


 暫の睨み合いの後、少女が先に動いた!疾風の如き速さで間合いを詰め、中段の右掌打を放つ女の子。獅子の左脛による受けがなんとか間に合う。凄まじい衝撃音と共に獅子のタテガミは激しく揺らいだ。小柄な女の子が放ったものとは思えない程の重い打撃だった。


 すぐさま女の子は飛び上がり、後ろ廻し蹴り、そしてそのまま空中でもう一発蹴りを獅子の頭部へと放つ!2連の蹴りは獅子の鼻先をかすめ、何とか避けることが出来た。


 1秒にも満たない迅速なコンビネーション。普通の女の子に出来るような技ではない。流石の獅子も驚嘆した。


 女の子の攻撃は更に続く。2撃、3撃……止むことのない拳と蹴り。まるで竜巻の如く獅子へと襲いかかる。


 女の子が蹴りを放つ度にスカートの中身がちらちらと見えた。


 (白……だな!)


 獅子はそんな邪な事を考えながら防御していたせいだろうか。何とか攻撃を捌き続けていた獅子であったが、女の子の打撃をとうとう被弾してしまう。両手の平を合わせて突き出す双掌打が獅子の腹部へとヒットしたのだ!


「ぐぅッ!」


 凄まじい衝撃が獅子の腹部へと走り、10メートル程、後方へ吹き飛ばされた。だが獅子は倒れず、踏みとどまる。少女は構えたまま獅子を警戒し睨む。


 獅子は前屈みになり両腕は脱力し、だらりと下がっている。しかし次の瞬間、両の手は力強く拳を握り、獅子は再び女の子の方を向いた。


――その表情は恐れでも焦りでもない。闘志こもった瞳で白い歯を見せニカリと笑っている。それは歓喜の表情の様だった。獅子は女の子に話しかけた。


「強えぇ……強えぇな!アンタ…!

 そんな小さな身体でこれほどの打撃……

 今まで相当な修練を積んできたんだな!

 ならよ……同じ武道家として全力を尽くして相手するってのが筋ってもんだよなぁ……!」



  「ここからは【本気(ガチ)】でいくぜ!」



 獅子は再び腰を落として構える。先程とは違い、焦りも、迷いもない闘志こもった表情。闘気か風か、獅子のタテガミの如き頭髪が揺らめいている。


 そして再び獅子と女の子は激突した!


 獅子の右掌打と女の子の右掌打。全く同じタイミングでぶつかり合う。突きと突き、蹴りと蹴り。全く体格の違う獅子と女の子。しかしまるで鏡を見ているかのように同時に放たれ相殺しあう。砂塵巻き上げ旋風する二人の影。闘っているというより舞っているが如く!


 二人の闘いを遠目に観る尚輝は呟いた。

「あの娘…これほどの実力とは!

 俺との立ち会いは……

 獅子にとっては遊びの様なものだった

 あれが獅子の本気!」


 尚輝は幾度となく獅子と立ち合ってはいるがまだ一度も勝利したことは無かった。


「フッ……俺がアイツを跪かせるにはまだまだ修練が足りんようだな」

尚輝は二人の闘いを観て素直に賞賛していた。


――幾度となく相殺しあう二人の打撃。獅子は闘いながらも女の子の表情が変化しているのに気付いた。殺気のこもった表情は消え、闘志こもった緋い瞳に白い歯を見せ笑っている。女の子もまた、この闘いを楽しんでいる様な……!


(この娘は俺と…とても似ているな……!)

獅子は拳を交わして感じ取る。この女の子に感じていた恐怖は何処かへ消えてしまった。新たなライバルの出現に歓喜とワクワクの感情が生まれている。


 互角の攻防と思われた闘いであったがその均衡は徐々に傾いていく。


 獅子はまだ知らない。目の前の女の子は、幾度と無く死闘を勝ち抜き、一つの世界を救った英雄であることを……!


 女の子の旋風は更に速くなる。そして更に。獅子の攻撃は出遅れるようになり、相殺仕切れなくなった。


(ぐっ!くぅッ!)

徐々に被弾し始めるようになる獅子。…そして最後に飛び後ろ廻し蹴りが獅子の顔面にクリーンヒットし、獅子はぶっ飛びダウンした。


 獅子は顔を掌で押さえながら、よろよろと立ち上がり片膝をついた。女の子は容赦なく追い討ちをかけようと拳を振るったが――


 「待て」

 獅子の手のひらが女の子の前に向けられた。


 「俺の負けだっ!」


 獅子が叫ぶと女の子の小さな拳は獅子の顔面ぎりぎりで止まり、碧色の頭髪を揺らめかせながら、後方に飛び退き間合いを取った。


 まだ臨戦態勢の女の子は困惑混じった表情で獅子を観ている。獅子はふぅーっと一息し女の子に笑顔で話しかける。その頬は若干腫れ上がっていたけれど。

 

 「本当に強いな!アンタ!女の子に一本取られたのは初めてだぜ。だがよ、次やるときは負けねえぜ!」


 獅子は爽やかに笑いながら言った。その言葉を聞いた女の子は何故かこわばった表情で獅子を見つめている。


――そして女の子の瞳からは涙が溢れ出す。


「えっえぇっ!?」

獅子は涙を流す女の子を見て困惑しアタフタした。そして女の子は呟いた。


「私が……


 私の方が……


 ニセモノだ……」


 そして女の子はくるりと背を向け走り、石階段を下りて逃げるように去ってしまった。涙を流しながら……



「??何だったんだ……」


 冷たい風が吹き、辺りは静寂に戻る。困惑し立ち尽くす獅子の元に尚輝が近づき、そして腕を組み右手の人差し指を額に添えて眼を閉じ少しの間、思慮してから言った。


 「獅子、ちょっと変なことを尋ねるが……



――あの女の子、お前の母君に似てないか?」





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