ある物語の終焉 下 私が此処に存る理由
――私が
この世界に来た意味
それは……
――――――
マナには特別なチカラがある。
それは【時空転移魔法】。通常の瞬間移動魔法ならば中級位の魔法使いなら習得出来る。上級魔法使いが複数集まれば、魔界や精霊界への転移も可能であろう。しかしそれは、あくまでもこの剣と魔法の世界の中での事。
マナの特別な時空転移魔法はこの世界の理を越えて異なる世界への転移、または召喚を可能とする。
この能力に気付いた時、チカラは微弱で小さなものしか転移出来ないし不安定であった。しかしながら、数々の戦いをくぐり抜け研鑽した現在は強力な能力となっている。
マナの時空転移魔法ならば破壊神の展開する暗黒の時空障壁を突破し、その体内へ転移する事が可能であろう。しかし……
――
手を繋ぎ合い破壊神の元へ向かおうとするマナとマリス。しかしマナも今までの戦いで疲弊しているし、傷だらけのマリスの放つ黄金の光も弱く、万全な状態には程遠い。
この状態で神級の魔力が収束する破壊神【核】を押さえ込める事は……
――その時、二人の元に巨大な魔族が一人降り立った。全身に炎を身に纏う5メートル程の大きさの魔族。尖った耳に爬虫類の如き赤い瞳。長い髪も燃え盛り揺らいでいる。それは魔族の王の真の姿であった。
魔王も激戦をくぐり抜けてきた筈だが、流石は魔族の王。まだまだ余力を残しているようだった。
「おおっ魔王!お前も無事だったかぁ」
健常な魔族の王の姿を確認したマリスはニッと笑いかけた。かつては宿敵であったが現在は、戦友であり友である。
「魂無き者如きに遅れはとらん」
魔王は不敵に微笑みながら答えると振り返り破壊神を眺め見た。
それは、強力で冷たい魔力を放ち続けていた。
「まだ戦いは終わらぬようだな」
破壊神の冷たい魔力の風が魔王の燃え盛る頭髪を揺らめかせている。
「ああ。だから俺達が終わらせに行くッ!」
マリスが答えるとマナも凛とした表情でコクリと頷いた。その決意に満ちた表情の二人を確認した魔王。
「私のチカラではあの破壊神を止めることは出来ぬようだ。――ならば……」
魔王は燃え盛る右腕の掌を二人の前に掲げる。
「私のチカラをお前達に託す!」
その長い鋭利な爪の生えた大きな掌から燃え盛る炎が二人へと放たれた!
それは魔王の持つ特別な能力【命の炎】である。魔王は命を奪うよりも分け与えるスキルを得意としていた。その身を犠牲にし――!
「――おおおおぉぉ!!!」
命の炎を受けたマリスが雄叫びを揚げ、その身から放たれる黄金の光は太陽の如く光り輝いた!頭髪も逆立ち炎の様に揺らぐ。
マナもまた、体力と魔力の充実を感じていた。
魔王の炎は消え、元の人に近い姿へと戻った。
「頼んだぞマリス……マナ……!」
「ありがとう……ありがとうな魔王っッ!
必ず――止めてみせる!」
マリスはそう叫ぶととマナと繋いだ掌を掲げた。
「さあ行こうぜぇ……これが最後の戦いだッ!」
強き心のこもった蒼い眼で叫んだ!
「うん!」
マナも微笑みながらマリスの決意に呼応する。
そしてマナが瞳を閉じ強く念じると、二人の姿は僅かな放電を纏い消え去った。
――――――
ここは破壊神の胸部。【核】の有る、その巨大な空洞へと二人は降り立った。数十メートル先には黒い光を放つ10センチ程の大きさの小刻みに振動する玉のような物体が浮いている。
「小さいな。圧縮されているのかッ!」
その玉は、マリスの記憶している姿とは大きく変化していた。先の戦いで破壊した核は直径100メートルは有ろうかという巨大な玉だった。
圧縮された核は破壊された核の断片を吸い込み続けている。その【圧】はますます強烈な波動となり二人を襲う。並みの人間では耐えきれないほどの……!
「マナ、俺から絶対離れるなよ」
マリスは手をつないだままマナに優しく語りかけた。
「うん……」マナ少し心配そうに答えた。
マナはマリスの黄金の光によって護られている。
二人が核へ近づく。目の前には収縮し今にも弾けそうな暗黒の核。その核を近くに見て――
マリスは悟った。
(止められねぇ……俺のチカラでもッ!)
マリスは核を睨みながら思う。
(だが限界までチカラを使えばあるいは……
しゃあねぇよな……皆を救えるのならッ!)
マリスは決意した。己の命を犠牲にする覚悟を!――そして目の前にいる、このどうしようも無く落ちぶれていた自分を此処まで導いてくれたこの女の子の為に!
「マナ、お前は外へ戻れ。ここは俺が……」
――そう言い掛けて手を繋ぎ隣に居るマナを見るが……
マナはその大きな緋色の瞳を更に大きく見開き虚空を見上ている。心ここにあらず、というような……
「マナ…どうした…」
マリスが心配し声を掛けた。
少しの間をおき、虚空を見上げたままマナが小さく呟いた。
「今……解った……
私がこの世界に来た意味……」
そしてマナは心配そうに見つめるマリスの方を向いた。マナの表情は優しく微笑んでいる。いや悲しく……
マナは空いている右の掌をマリスの胸へそっと当てた。そして
「ごめんね……」
そう一言呟いた……
「なにを……」
マリスがそう問いかけた瞬間、マリスは自身の光のチカラが急激に失われるのを感じた。
「ッ!ぐっ!マナッ!何をッ!」
次の瞬間、マナの体が激しい光に包まれる。マナが時空転移魔法を使いマリスのチカラを、黄金の光をその身に転移させたのだ。
そしてマナはマリスを後方に軽く突き飛ばす。僅かなチカラを残し跪くマリス。
「何を……何をするんだ……マナ……マナッ!」
黄金の光放つマナを見上げマリスが力無く問いかける。
マナはマリスに向けて掌を掲げた。マリスはその意味を理解し、気力を振り絞って叫ぶ。
「やめろ……!やめるんだッ……!」
――マナは静かに語る。
「私がこの世界に来た意味……
この能力を得た意味……それは
今、この瞬間を迎える為だったの……
私がこの核を転移させる……!
マリス……あなたはまだこの世界に必要よ……
だからあなたは生きて」
「バカな……バカな事を言うのはよせッ!」
マリスは悲痛な表情を浮かべ叫ぶ。
マナは微笑み続けてマリスを見る。
マリスは自分の身体が転移されるのを感じる。
「やめろ……!止めてくれッ!」
「マナ……マナ……獅子ッーー!!」
転移される最後の瞬間マリスはマナのことを【獅子】と呼んだ。
――
巨大な空間に少女が一人。そして今にも最期の時を迎えようとしている破壊神の核。
「ははっ…私の本当のなまえ、覚えてくれてたんだ」
――何度かマリスに話したマナの過去。マリスは冗談だろ?と言って笑っていた。マナは核を見ながら、思い出し微笑んだ。
マナは両手をコアに向かって掲げた。
「さあ……やるよ!」
マナは目を瞑り念じる。強く、より強く。
この核をもっと遠くへ
もっと……
もっと……!
全ての魔力を燃やして!!
そしてその緋色の瞳を見開いた!
破壊神の核と少女は一瞬のうちに暗黒の穴に飲まれ消え去った。
その瞬間に【圧】は消え去り……辺りは静寂に包まれた。
――――――
何処までも続く闇――静寂。
音も光も地もなく天も存在しない。
ここは理すら存在しない無……
弱い光を放つ少女が独り――浮遊していた。
傍らには闇に紛れて見えないが、核の鼓動を感じる。
(成功……した……)
(これで……あの世界は……)
(私の愛したあの世界は……救われた……)
マリスの残り火がマナの身体から失われていく。
(よかったんだ……これで……)
次の瞬間マナの目の前にはらりと舞う光。
それはマリスのくれた水晶のリボン……
(あっ……ああっ……)
マナは必死に手を延ばそうとしたが動かす事は出来ない。
水晶のリボンは闇に触れると塵となって消え去った…
マナは突然、恐怖に駆られた。
決意したはずなのに……
世界を救い安堵した筈なのに……
(嫌だ……)
(嫌だっ……)
(消えたくない……)
(消えたくない……またマリスに会いたい…!)
涙を流したいのに流れない。
叫びたいのに声が出ない。
(嫌だよ……誰か……助けてよ……)
次の瞬間、破壊神の核は最後の時を迎えた。
暗闇は一瞬で白くなり
マナの意識はそこで途絶えた。
――――――
最果ての地。空を覆っていた暗黒の雲は晴れ、穏やかな風が吹き暖かな陽光が射し込んでいる。
今度こそ本当に戦いは終わった。
歓喜する者、死者への祈りを捧げる者、膝を突いて呆然とする者、戦士達の反応はそれぞれだった。
――
巨大な破壊神の亡骸を目の前に慟哭する英雄が一人。
英雄の隣に少女はいない。
蒼い瞳を腫らし、泣き叫ぶ英雄。
仲間達は誰一人、英雄に声をかけることは出来なかった。
――The end――
Mana will return
ここまで読んでいただいて大変ありがとうございます☆
しかしタイトルが示す通り本当の物語はこれから始まります。ジャンルもコメディなのでマナちゃんの笑顔はまた見ることが出来るでしょう☆
もし続けて読んで頂けるなら作者はとても幸せです☆
これからのおおしながき
・マナと獅子の奇妙な関係
・マナの学園生活
・マナと家族の日常
・まさかの恋(女の子と?男の子?)
・異世界の回想
・ちょっとSF?
脳内ストックは有ります☆皆様、私に文章化するチカラをお与え下さいませ~もっと表現力をお与え下さいませ~☆
ではまた!