マナと尚輝
登場人物
紫月 マナ
お着替え中の女の子
白峰 尚輝
ボロボロイケメン高校生格闘家
紫月 獅子
男の娘から逃走高校生格闘家
紫月家前の道路に一台の黒塗りの高級外車が停まっている。運転席には運転手らしきスーツ姿の女性が座っており、その主の帰りを待っていた。
その女性の名前は、三条 沙霧29歳。黒いロングヘアーで切れ目のスタイル抜群な女性だ。なかなか戻ってこない主。沙霧はスマホ画面を見ながら一言呟く。
「あー……どこかにいいオトコ、いないかな……」
彼女は独身。彼氏無し。結構な美人だが何故か男運が無いアラサーである。
コンコン
と助手席の窓を叩く音がする。はっとして沙霧が振り向くと、そこには……
「なっ尚輝様!何があったんですか!?その怪我!」
ボロボロになった白峰 尚輝が相変わらず不敵な笑みを浮かべ窓に寄りかかっていた。
「ちょっと女の子に殴られてね……」
「沙霧。着替えの準備と応急手当てをしてもらえないか?」
心配顔で駆け寄る沙霧に尚輝はお願いした。
「か、かしこまりました。尚輝様」
沙霧はトランクから尚輝の着替えを準備しながら、
(尚輝様をボロクソにぶん殴る女の子……!?)
(一体どんなゴリラ女よそれ……)
着替えを終え、身なりは整い、乱れた頭髪もオールバック気味に整え直した尚輝はイケメン度が大分回復したようだ。沙霧の応急手当てを受けながらいつもの不敵な笑みを浮かべ語る。
「しかしながらその娘を今から食事に誘うことが出来た」
「この怪我など安い代償だ」
その言葉を聞いた沙霧は造り笑いをしながら思った。
(ゴリラ女を食事に誘ったの!?)
(尚輝様の女の子好きも更なる領域に達したわね……)
「お待たせー」
ゴリラ女とは思えない、透き通った女の子の声。尚輝と沙霧が振り向くとそこには……
白いレースのサマードレスにピンク色のショールを羽織った緋色の瞳の小柄な女の子が立っていた。編み上げのサンダルを履いた白く透き通るような脚。
先程とは違い、おろした碧色の長い髪を、柔らかな春風になびかせながら、頬をほんのり赤らめ、優しく微笑むマナ。その装いはまるでどこかの御令嬢の如く。
その美しさに思わず見とれてしまう尚輝と沙霧であった。
「これしかよそ行きの服、持って無いんだよね」
「へん……かな?」
「あ……いや……とても似合っているよ」
マナの事を今までも可愛いなと思っていた尚輝であったが、闘う姿のマナと、今の装いのマナのギャップに驚き、その姿から眼が離せないのであった。
(な、なに!?この娘……ホントに人間?)
(妖精……?いやアニメのキャラ?)
(こ、この娘が尚輝様をボコしたの……マジ!?)
沙霧は驚愕しうろたえながらマナを見て思った。
「じゃ、じゃあ行こうか。沙霧」
「……はッ……かかしこまりました。尚輝様!」
沙霧は尚輝の声を受け我に返り、運転席へと走る。
「さあどうぞ。お姫様」
尚輝が後部座席のドアを開けマナを招き入れる。マナは微笑みながら尚輝の手を取り、席へと座った。
此処は千代市の東に位置する千代港。車から降りた3人。広大な駐車場の先には巨大な客船が停泊している。
「わぁ~!スッゴいでかいね。あの船に乗るの!?」
「ああ。そうだよ。貸し切りでね」
「さっすがお金持ちだねぇ」
尚輝はマナの手を取り、船内へとエスコートする。後からは沙霧がちょっと羨ましそうな表情でついて来る。沙霧は尚輝の運転手兼護衛役なのだ。護衛が必要かどうかは別として。
広々とした船内のラウンジを抜け、落ち着いた雰囲気のレストランへ到着した。お嬢様みたいなマナと絆創膏だらけの顔の尚輝が窓際の席へ向かい合って座った。窓の外には水平線の彼方まで続く青い海と停泊している船々が見える。
マナと尚輝の少し遅めのランチが始まった。尚輝はマナと自分のワイングラスに深い紫色の液体を注ぐ。
「コレって……?」
「フッ……ノンアルコールだよ」
カティンと乾杯をしてマナは一口その液体を口にした。
「あっ甘くて美味しい」
(でもコレって……)
「気に入って貰えて何よりだ」
尚輝はマナの顔を見ながら眼を細めて言った。
洋食のコース料理が順々に運ばれてくる。マナのテーブルマナーは完璧だった。凛とした姿勢で、ナイフとフォークを使いこなし、上品にお料理を口元に運ぶ。その様子は気品溢れる御令嬢の如く。
(この娘は本当に獅子だというのか……)
(あの粗野で脳筋な獅子が……)
(育ちと性別で人はこれほど迄に変化するというのか)
尚輝は上品に食事をとるマナを観ながら青刃神社での出来事を思い出していた。目の前に閃光と共に突然現れた女の子。
(あんな光景を目にしては信じざるを得ないが……)
「とても美味しゅう御座いましたョ」
マナはわざとらしくお嬢様っぽく言ってごちそうさまでしたとペコリお辞儀した。満足気に微笑むマナ。その顔はほんのり紅くなり身体は少しゆらゆらしている。
食事が終わり、食後のコーヒーを飲みながら二人は談笑している。
「もっと異世界の話を聞かせてくれないか」
「いいよぉ~えっとね~」
尚輝のお願いに上機嫌のマナは異世界の思い出を楽しげに話し始める。マナ物語である。
二人の傍らに立っている沙霧もその物語に耳を傾ける。
(な、なによこの娘)
(容姿は可愛いかもしれないけどヤバい妄想娘じゃない!)
しょうがない。普通の人はまずそう思うよね。
楽しげに語るマナを優しい表情で見詰めながら耳を傾ける尚輝。聞き上手でイケメン。お金持ちで頭脳明晰。高身長でスポーツ万能。嫉妬以外でこの男に悪い印象を持つ者はそうはいない。
それはマナも同じ……
マナと直樹は外の展望デッキにやってきた。尚輝に手を引かれながら。水平線の彼方まで続く雄大な海原を観る二人。
「わぁ~スッゴい綺麗だね~」
「ああ。そうだね」
景色を見て素直な思いで声をあげるマナ。二人は海を眺めながら暫く間、談笑した。
「なん……か私……眠くなって……きちゃった」
暫く歩くとマナはうつろな表情になって尚輝の腕にもたれ込んだ。
「それじゃあ少し休もうか」
「船内の客室でね……」
尚輝に言われるがまま、マナは手を引かれ船の最後部にあるスイートルームにやってきた。豪華な造りの室内にはキングサイズのベッドがひとつ。
朦朧としていたマナはベッドの上に倒れ込んで、そのままスヤスヤと眠り始めた……
「さて……」
尚輝は不敵に微笑みながらネクタイを少し緩める。
「沙霧。お前は部屋の外で待っていろ」
「えっ……ハ、ハイ!申し訳ございません」
(な尚輝様、まさか……)
いそいそと沙霧さんは部屋の外に出て行った。
「……フッ」
無防備に安らかな表情で眠るマナ。オフショルダーのワンピースから見える白い肌の肩と首すじ。少しめくれたスカートからは細めの太ももがチラリ。
尚輝はその様子を見詰める。そして……
「…………」
「うーん……あれ……此処は?」
「……ああ寝ちゃったんだ……あ、夕焼け……」
どれくらい寝ていたのだろうか?客室の窓から見える空は朱く染まっている。マナは眼を細めて眠たい表情でそれを観る。
「良く眠れたかい?眠り姫」
マナに声を掛けた尚輝はアンティークのチェアーに腰を掛け、何やら外国語の本を開き観ていた。
「ご、ゴメン!寝ちゃった……」
「フッ……問題ない」
尚輝は何時ものように微笑むと立ち上がり、
「さあ家まで送ろう。母君が待っているのだろう?」
ベッドから起き上がったマナに手を差し伸べた。マナはコクリと頷き、尚輝の手を取った。
黒塗りの高級車が再び紫月家の前に停車している。マナは車から降りて尚輝に話しかける。
「ランチとても美味しかったよ」
「……それと私の物語を沢山聞いてくれてありがとう」
「その……とても嬉しかったよ」
マナは恥ずかしそうに上目遣いで尚輝を見詰めながら言った。
「こちらこそ楽しい一日だったよ」
「今度立ち会う時はもう少し闘えるよう鍛練するよ」
「マナを少しでも満足させるようにね」
尚輝の乗った車が去っていく。マナは両手を振ってそれを見送った。
(尚輝……滅茶苦茶良いヤツじゃん……)
(顔もカッコいいし)
(……って私、いや俺なに考えてんだ)
(尚輝だよ?尚輝……)
(うーん……)
マナは何だかモヤモヤした気持ちを抱えながら家の中に入っていった。
後部座席に座る尚輝は脚と手を組み、スマホの画面を見詰めながら思う。
(フッ……)
(この娘を汚すことは俺には出来ないな……)
黒塗りの高級車は夜の街へと消えていった。
……時間はちょっと戻り
「はぁはぁここならば……」
「ここならば悠遠に見つかりはしないだろう!」
焦った表情で座り込む逞しい男、紫月 獅子である。
(わぁ~スッゴい綺麗だね~)
下の方から聞き覚えのある女の子の声が聞こえてくる。獅子は身を乗り出してその姿を確認する。
「なん……だと……」
そこには仲良さそうに手を繋ながら談笑するマナと尚輝の姿が。
「一体これは……どういう事だってばよ!?」
混乱して暫く、その様子を追っていた獅子。
突然、マナが尚輝の腕にすがりついた!そして尚輝がマナを抱き寄せ、船内へと消えていく。
「お、オイオイオイ!何しようってんだぁ!」
自分の事のようにおののき、後を追おうとする獅子であったが、
「獅子くーん!どこぉ!」
「ひっひィ!悠遠が来たぁ!」
悠遠の声に恐怖した獅子は大海原にダイブして消え去ったのであった。
(ごぼぼ……マ、マナ……!)
(も、もうひとりの俺……!)
(尚輝と何をしているんだァ……!)
マナの部屋のタンスには紫月ママがマナの為に買って着た服や下着がしまってあるよ。
ただし、ロリータぽい服や、ピンクのフリルの可愛い下着みたいなのばかりで、マナが着用するのは相当勇気がいる服装ばかりだよ☆




