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ある物語の終焉 中 歓喜そして絶望




 戦いが始まり、どれほどの時間が経ったのだろう……


 空が灰色に曇るこの最果ての大地は、荒れ狂う破壊神の攻撃により激変していた。まるで隕石でも落ちたような大きな窪みが無数に開いて黒煙吹き上げている。


 辺りには力尽きた無数の竜、巨人族、

魔族や天使、人間の兵士の亡骸。


 まだ半数程の戦士たちが生き残っては居るが

始め程の覇気はなく、皆、満身創痍だ。


「ハァ……ハァ……」


 息も絶え絶え、碧髪の少女剣士も剣を支えにして立っているのが精一杯の状態であった。


 倒しても倒しても湧いて出てくる【生命無キ兵】。戦士達は皆、限界を迎えつつあった。



 ――しかし突然、【生命無キ兵】はその動きを止め沈黙した。少女剣士は遠方にそびえる破壊神を眺め見る。


 破壊神は両の膝を大地につき、右腕は崩れ落ち、残った左腕も力なく垂れ下がっている。

(こうべ)をたれ、胸には巨大な穴があき破壊神はその活動を停止していた。


 破壊神の胸の穴から一筋の金色の光が飛び(いで)る。

巨神の大きさから比べれば米粒程の大きさの光。


 険しい表情で巨神を眺めていた碧髪の少女であったが、その光を確認すると安堵と喜びの表情に変わった。


「マリス……ッ!マリーース!」


少女は大きな緋色の瞳に涙を滲ませ金色の光に、マリスと力一杯呼んだ。


 光は呼応するように飛翔し少女の前に降り立った。金色の光は少し弱くなり男の姿が現れる。


 それは蒼色の瞳に金髪の英雄。頭髪は光の影響か逆立ち、炎の様に波打っている。マリスとはこの英雄の名だ。


 ――マリスの身につけていた鎧は砕け去り、上半身があらわになっている。鍛え抜かれた肉体に無数の古傷。そして無数の新しい生傷。片手に持つ剣の刀身は折れ、半分程になっている。

それは闘いの凄まじさを物語っていた。


 マリスはヨロヨロと少女の方へと歩き出した。その身から発していた光は消え、燃えるように揺らぐ頭髪もまた静かに収まった。それと同時にマリスの体勢が倒れ落ちる。


 倒れ落ちようとするマリスを碧髪の少女が抱きしめるように支えた――


 蒼色の瞳と緋色の瞳が見つめ合う。マリスは震える腕でポンと少女の頭に手を当て微笑みながら言った。


「マナ……みたかよ……俺だってやるときゃぁやるんだぜ……」


 マリスは碧髪の少女をマナと呼んだ。


「うん……そうだね……うん……」

マナは涙目で振えた声で言った。


 マリスが破壊神の体内へ侵入し、激戦の末にその【(コア)】を破壊したのだ……!


「おかえりなさい……」

マナはマリスを見つめ呟いた。


「ああ……ただいま……!」

マリスは微笑みながら言葉を返した。


 見つめ合う二人。このままだとちょっとした一線を越えてしまう。そんな雰囲気……


「コホン」


 二人の背後から聞こえるわざとらしい咳払い。二人は我に返って振り返った。そこには赤髪の魔法使い少女がジトっとした目で二人を見ていた。そして腐れ縁の仲間達も皆無事で二人の周りを取り囲んでいた!


 はっとしてちょっと離れる二人の顔。


「ははっ……いやこれは……」


マリスは苦笑いし、マナは沈黙してうつむいた。その表情は見えないが、頬や耳はほんのりと赤く染まっている。


「――破壊神の残存魔力反応 ゼロ……」


 魔法使いの少女が呟いた。その表情は少し微笑んでいるように見えた。それを聞いたマリスは立ち上がりまわりを見回す。


 そしてマリスは凛とした表情で腕を振り上げた!その手に持つ折れた剣から一筋の光が天へ向けて発せられる。


――英雄の勝ち名乗りである!


 様々な場所で戦っていた各種族の英雄、そして戦士達はその光を見た。破壊神の討伐を知り、辺りは歓声の声に包まれた!


 戦いは終わった。


 マナはその小さい両手で傷だらけの英雄の手を握りしめる。マリスはマナに支えられながら微笑み言った。



「帰ろうぜ 俺たちの世界へ!」


マナも微笑みコクリと頷いた。




  ――The en――




「!!!!!!」


 悪寒が走る。辺りの空気がひんやりと張り詰める。

次の瞬間凄まじい【圧】が英雄達を襲う。

大地は激震し冷たい激風が吹き荒れる!



 マリス、そして英雄達は破壊神を振り返り見た。

沈黙して動かない破壊神。だがその【圧】はますます強くなるのが感じられる。


【圧】は胸部に開いた大穴から発せられている。其の場所はマリスが破壊したはずの【(コア)】の有る……!


「なん……だと……」


マリスは目を見開いて狼藉した。


「そんな……そんなっ」


マナもマリスを支えながら呟いた。


「――ッ!大きな魔力反応を確認……計測開始」


魔法使いの少女は続けて言う。


「――計測完了……魔力量……神級(ゴッドクラス)……!」


 それを聞いたマリスもマナも周りにいた仲間達も声を出すことが出来なかった。続けて魔法使いの少女は分析結果を語り出す。


「神級の魔力が一部に収束している」


「このままではやがて臨界点に達し爆発する……」

魔法使いの少女は表情は変えなかったがその目には涙が浮かんでいる。


「魔力の属性に時空属性を確認……

 時空属性はまだその全てを解明されてはいない。でも……

 爆発により推測される被害範囲は――

 人界に留まらない……繋がる世界全てに影響を及ぼすと推測される……」


普段は寡黙な魔法使いの少女は辛そうな表情を浮かべながら時折、言葉に詰まりながら説明する。


 要は、このまま爆発を許せばこの世界の(ことわり)に属す地である、人界も魔界も精霊界も全て滅び無に帰る。そういう事である。


「くそ……くっそぉ!」


 マリスは悲痛に叫び、魔力を込めてもう一度黄金の光を纏った。しかし疲弊した身体に纏うその光は輝きは弱い。


「止めなければ……もう一度破壊神の体内へッ!」

マリスは気力を振り絞り叫んだ!


「マリスっ!でも……その体じゃぁ……」

マリスの手をしっかりと握り締めたままマナは言った。


「それでも……やるしかねぇよなぁ……!」

マリスは呟いた。


 マリスが動くよりもいち早く動き出した集団があった。竜族である。空を飛翔する無数の竜達が破壊神の元へ向かった。


 しかし、竜達が破壊神へ到達することは無かった。破壊神の周りには見えない壁が存在していた。竜達が壁に激突すると轟音を響かせ黒い雷が強烈に放電し、その時だけ壁の存在が確認できた。


竜達は次々と力尽き、堕ちていく……


「破壊神の周囲に時空障壁を確認」

魔法使いの少女は語る。


「あの障壁は通常の魔力では破壊する事も通過する事も不可能

 通常の転移魔法でも侵入は不可能……でも」


と言いかけたところでマナが口を開いた。


「私のチカラならあの障壁を越えて破壊神の内部へ転移することが出来る」

マナの返答に魔法使いの少女がコクリと頷く。


そう答えるとマナは真っ直ぐな瞳でマリスを見つめた。


「俺と一緒に行ってくれるか?」

マリスもまた、マナを見つめ返しながら問いかけた。



 マナは(ふところ)から何か取り出した。それはキラキラと輝く桃色リボン。


「それはいつぞや俺があげた……まだ持っていてくれたのか」


 そのリボンは水晶が編み込まれた綺麗なリボン。マナは恥ずかしがって今まで着けることは無かった。


 マナは瞳を閉じ、戦いにより乱れた碧髪を後ろにまとめリボンで結んだ。長めの髪のポニーテール。

そして瞳をそっと明けて微笑みながら言った。


「言ったでしょう

 マリスには私が必要だって……

 何処までもついていくって……!」


 マリスとマナはお互いを見つめ合い微笑む。


 そして二人は手を繋ぎ破壊神を決意のこもった眼差しで見た。


繋いだマリスの右手とマナの左手。眼前の破壊神へ掲げる!




 いざ、再び破壊神の体内へ!





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