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獅子とマナ

登場人物


紫月 マナ

ぐっすりスヤスヤ女の子


紫月 獅子れお

空気読めない逞し高校生

 (うーん むにゃむにゃ)

 (あっ……ああっ)

 (そんなこと……わたしには……まだ)

 (だ……だめだってばぁ……)


 夜も明け切らぬゴールデンウイーク初日の早朝。マナはお布団にくるまって熟睡中。何か幸せな夢を見ているようだ。

 着ているパジャマは紫月ママのピンク色ワンピースお姫様系パジャマ。着るのを渋ってはみたものの、結局着たしとっても似合っていた。

 (あああっ……)


 (ソコは……だめ……だめぇ……!)


 ガララッ!と突然、マナの寝ている部屋の引き戸が勢いよく開いた。


「ふひっ……な、何……!?」

「敵襲!?オーク?ゴブリンッ!?」

流石は異世界帰りの少女。ガバッと飛び起き、身構えてきょろきょろと辺りを見回した。寝ぼけてはいるようだが。


「……あれ?…………あれぇ?」

寝ぼけ眼できょろきょろするマナに向かって、爽やかな男の声が。


「おはよう!妹よ♪」

獅子である。タンクトップに胴着ズボン。満面の笑みでマナに挨拶した。


「…………」

マナは眠気眼で暫く獅子を見つめ。状況に気付き、そして嫌そうな表情で答えた。


「何よ……てかノックぐらいしてよ……」


「ゴメンゴメン!」

獅子は悪びれず答える。そして右手の親指をマナに向かってgood!と突き出し爽やかな笑顔で言った。


 「さあ!鍛練しようぜっ!」


 寝ぼけ眼の猫背でお布団の上に立ち尽くすマナ。暫くの間フリーズしてたけど、無言でお布団にまた潜って寝ようとした。


「鍛練しようぜ~一緒にたんれんん~」

マナの寝ている敷き布団の端を持ってバサッバサッとしまくる獅子。


「もう!止めてよ!」

「ヤダよ 一人でやってよ!」

お布団に潜って揺らされながら叫ぶマナ。


「しようぜ~し~よ~うぜ~」

バサバサ止めない獅子。


(ああーもう!)

(このワガママ放題の一人っ子野郎がぁ……!)

マナは心の中で獅子に悪態を付いた。自分自身の事でもあるような気がするが。


「あ~!もう!」

「付き合えばいいんでしょつきあえばッ!」

マナは渋々、布団から出る。


「外で待ってるぜ~!」

そう言うと獅子は颯爽と去っていった。


「めんどくさい……」

「男の私ってこんなにめんどくさいヤツだったの……」

自分自身の事なので何とも複雑な感情がこみあげてくるマナであった。


 マナが玄関から庭に出ると、4月の早朝の冷たい風が肌を撫でた。遙か向こうの東の空は明るくなりかけている。

「うう……ちょっと寒……」


 マナの装いは、黒いアンダーシャツに金属プレートを取り外したミニスカート。紫月ママから借りたピンク色のランニングシューズ。とても動きやすい格好だ。碧色の髪はヘアゴムで纏めて長いポニーテール。


 数寄屋造りの外門を開けると、目の前の路上で獅子がウォーミングアップをしていた。


「で、何するの?」

マナはやる気無さそうに質問した。獅子は無言でニヤリと微笑み遠くの山にビシッと指を指す。


「あそこまで走るぞぉ!」


「ええー……」

マナが嫌な顔の反応を示すと、獅子は、


「よーしじゃあ競争だっ」

「負けた方は勝った方のを望みを1つ聞くってことで!」

「でわスタートだっ!よいドン!」

息を着かせぬ間に走り出す獅子。


「え!?ちょ、ちょとまっ……」

「……ああっもう!」

マナもしょうがなく獅子の後を追って走り始めた。


 遠くに見える山々。目的の山の名は【伊純ヶ岳(いずみがたけ)】という。マナたちの住む千代市から山のふもとまでは西に20km程。

 市街地を抜けると、長い一本道の田園地帯。開けた平野であり伊純ヶ岳の背後には更に高い山脈がそびえ立ち、壮大な景色を眺めることができる。

 所々に咲く、遅咲きの桜を眺め、朝の爽やかな風を感じながらマナは走りつづけた。


 太陽もすっかり上り、人々が活気づいてきた頃、伊純ヶ岳のふもとから更に7km。標高600m程の場所にあるスキー場の駐車場にマナは居た。


「ふぅ~結構疲れたね」

 汗ばむ身体。手うちわでパタパタ顔を扇ぎながら獅子の到着を待っていた。


「はひぃ~はひぃ~」

暫くして獅子がヘロヘロになりながら駐車場に到着した。そしてマナの足元に大の字になって倒れ込んだ。


「はい。私の勝ちね」

マナは獅子を見下ろしながら、ふんっと笑い勝利宣言した。マナは負けず嫌いだった。


「や、やるじゃねぇか。チッキショウ」

(おっ今日も白か)


「ほら、飲みなよ」

マナはスキー場の自販機で買っておいたスポーツドリンクを獅子に差し出した。

「おっサンキュー!」

獅子は笑顔で受け取りぐびぐびっと飲んだ。

 

 スキー場の駐車場からは下界の眺めが良く見える。所々に桜の咲く山裾。マナ達が走り抜けてきた田園の一本道。更に遠くには千代市のビル群。千代名所の巨大な【千代大菩薩】も存在感良く眺め見ることが出来る。


(ここからの眺めも久しぶりにだなぁ)

マナはこの駐車場からの眺めが好きだった。男だった時、良くここまで走ってきて休憩ついでに下界を眺め見た事を思い出す。


 マナの隣に獅子も一緒に下界を眺め見る。

「懐かしいかい?」

と獅子がマナに話しかけ

「うん」

とマナが返答した。


「えっ!?」と思いマナは獅子の方を見る。

(懐かしいか?)とマナに問いかけるということは……


「あなた……獅子は私の話した私の物語……」

「信じてくれるの……?」


 紫月ママが妄想したマナの設定。無茶苦茶ではあるがマナの話した異世界話よりはまだ説得力があった。しかし……


 獅子は真っ直ぐな瞳でマナの事をみつめる。

「信じるさ」


拳をマナに向かって掲げ続けて言った。

「一度拳を交わしたオマエの事は」

「俺が一番良く解っているのだから」


 マナはドキッとして胸が熱くなった。こみ上げてくる感情。それは驚きと喜びが混ざり合った複雑な感情。

 マナは恥ずかしくなって眼をそらした。でもマナも拳を突き上げ獅子の拳にコツンと合わせる。


「あり……がとう」

マナが恥ずかしそうに言うと獅子は爽やかに微笑んだ。


暫く二人で下界を眺めていたが獅子が口を開いた。


「そういえば勝負は俺の負けだったな」

「何でも1ついうこと聞いてやるぜ!」


「いいよ……別に何もしなくても」

マナは獅子に背を向けて歩きながら言った。


「……」

「ひぁっ!?」

歩くマナのお尻に突然抱きつく獅子。


「なん 何するのっ!」


マナのお尻に顔を埋める獅子は叫ぶ。

「それでは俺の気がおさまらーん!」


グリグリと頭をマナのお尻に押し付ける獅子。


「ひぃぃっ!やっやめろぉバカァ!」

マナが獅子の頭をポカポカ殴るがなおも押しつけてくる獅子。


そして……


ババーーン!


獅子がマナを肩車した状態になった!満面の笑みの獅子。


(な、なにこれぇ)


マナが唖然としていると獅子が


「よっしゃこのまま家までランニングだぜ!」

と爽やかな笑顔で叫んだ!そして走り出す獅子。


獅子のタテガミの如き髪の毛がマナの内股にチクチク触る。


「いっ痛い!」

「おっ降ろしてよ!恥ずかしい!」

しっかりとマナの脚を掴んで離さない獅子。


「お~ろ~しぃ~てぇ~~!」


 この日の朝、千代市の各所で肩車をして走り回る仲の良い兄妹が目撃された。目撃した人は皆さんはとてもほっこりしたそうです。




「腰が……股が……」

家の近くまで戻ってきたマナと獅子。やっとの事で降してもらえたマナであったが、長時間の肩車ダッシュの影響か、マナの腰はガクガクだった。


「いやぁ良い鍛錬になったぜ」

満足げな獅子。


家の外門が見えてくると誰かが門の前に立っている。


「げげっ!」

その人物に気付いた獅子が驚いて叫んだ。


「あっ!」

門の前に立っていた人物が獅子に気づいてこちらに向かってきた。


「獅子くぅーん!」

両手をパタパタと振りながら笑顔で走ってくるのは、マナより少しだけ背が高いくらいのショートカットの女の子……



  いや、男の子!?








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