第八章 搬出
帰りは、真美のお父さんに車で送ってもらった。
「ありがとうございました」
「はい、気を付けてね」
お礼を言って車から降りる。
家に帰ると、ニコニコ顔のおじいちゃんが待っていた。
「車両、新しく手に入ったんだってな?」
「うん、コッペルと中国と台湾で使われてたやつ。」
「コッペルか、なつかしいなぁ。雪の日の上り勾配は、苦労させられたよ。」
しみじみとした声で話すおじいちゃん。
「それでね、話があるんだけど、おじいちゃんって、機関車の運転方法、おぼえてる?」
「そりゃあ、もちろんおぼえてるさ。」
よかった。だいじょうぶだ。
「あのね、わたしたちの保存会の大人のメンバーがいるの。SLの運転は、その人たちがやるんだけど、みんな、運転技術がないんだって。だからさ、おじいちゃんができるようなら、教えてほしいんだけど・・・・・。」
「いいよ、ワシもまた、コッペルを運転したいしな。」
「やったー!ありがとう!おじいちゃん。」
おれ―野口翔悟は、真美のお父さんに送ってもらって、家に帰った、
家に帰ると、工場にはまだ電気がついていた。
「じいちゃん・・・・・・。」
そこにいたのは、おれのじいちゃんだった。
「おう、翔悟、帰ってきたか。」
じいちゃんがふりむきもせずに言う。じいちゃんは、うでのいい旋盤工だった。
でも、やめちゃった。つとめてた沼尻鉄道がなくなっちゃったから。
設計図どおり、一mmの誤差もなく、美しく仕上げる。
そんなじいちゃんをおれは尊敬している。
「だいじょうぶかよ?こんな寒いのに。」
真冬の工場の中は、寒い。空気が凍ってるんじゃないかとさえ思う。
「こいつにも、また、日の目をみせたいからな。」
じいちゃんの前には、磨き上げられた旋盤が置かれていた。
次の週の土曜日、今日は、白木城運送SL展示館からの車両搬出の日だ。
わたし―國分大和は、朝四時に起きると、ユメカガミにまたがって、家を出た。
くねくねした山道を通って、真美の家に向かう。
真美の家―白木城運送では、もうすでに、ほかのメンバーが準備作業をしていた。
展示館の中の機関車のかたわらには、工事現場で使う足場用の鉄パイプやがんじょうなワイヤーロープが置いてある。
展示館の外に伸びているレールの横には、自走可能なクレーン車と、大型のトレーラーが止めてあった。その車体には、〔(株)白木城運送〕と書かれている。
「おはよう。」
「國分、おせーぞ。」
「大和、そろそろ始めるよ。」
「おっはよ~!今日はいい天気だね。」
わたしが声をかけると、みんながそれぞれに返してくる。
朝の五時になると、メンバー全員、輸送にかかわる白木城運送の人たちが、機関車の前にならぶ。
真美のお父さんが今日の作業の流れを説明する。
「えー、今回の作業の流れは、まず、人力で機関車を引っぱり出します。その次に、クレーンでつり上げて、トレーラーの上に載せます。そして、機関車本体のブレーキとワイヤーロープで荷台に緊締する・・・という感じです。まず最初にコッペル6号。つぎに、芭石鉄道1号、これは、炭水車と機関車を切り離して輸送します。最後に、台湾糖業公司363号です。では、みなさん持ち場についてください。」
『はい!!』
そしてみんなが持ち場に着く。わたしたち中学生メンバーは機関車の前部、大人の人たちは後部の担当。
機関車の端梁にかけられたワイヤーをみんなで持つ。
「じゃあ!始めまーす!!!」
「りょうかーい!!!」
わたしが叫ぶと、機関車の後部からも、声が帰ってきた。
『せ~の!!』
思いっきり腕に力を籠める。
大人の人たちは、鉄パイプを使って、てこの原理で車両を前に出す。
ひっぱるうちに、機関車の車輪が回り始める。そのままこっちに曳かれてきた。
定位置で止められて、ブレーキが掛けられると、車両の前後にワイヤーロープがかけられる。
クレーンのフックにつながれると、グオォォォンと音を立てて、二台のクレーン車が機関車をつり上げた。
二メートルほどつり上げられると、下に大型トレーラーが入る。
ピッピーーーー!
笛の合図で、トン越えの重さの車両が下ろされてきた。トレーラーの荷台に敷かれたレールに下ろされて、ワイヤーロープでしばりつけられる。
ほかの車両も同じようにして、トレーラーに積み込まれた。
そこまで終わると、トレーラーが出発準備を始めた。みんながトレーラーの後部座席に乗る。
わたしも、ユメカガミにまたがった。
トレーラーが駐車場を出た。うしろには自走式クレーン車二台も続く。
「ハイヨッ!!」
わたしも、ユメカガミの腹を軽くけって、発進させた。でもすでに車との差は何メートルもあいてる。
わたしは前後を見た。よし、車はいない。ポンッとまたユメカガミの腹をける。
パカラッパカラッ
ユメがわたしの合図にしたがって軽速歩になる。
「ユメ、おつかれさん、いつもありがとうねぇ。」
わたしが言うと、
「ヒヒヒヒーン!」
ユメはいななきを返してきてくれた。わたしは毎回、ユメに乗る時はこんなやり取りをしている。
翔悟の家―野口自工につく。ユメをつないで、その背中の鞍を下した。
工場の中にはもうすでに四本の仮設線路が引いてあった。その端っこは、屋外まで伸びている。
車両はもうすでにレールに乗せられていて、屋内に押し込まれるのを待つばかり。
『せ~の!!』
みんなで車体に手を当ててめいいっぱい押す。
動輪が少しずつ回り始めた。そのまま押し続ける。二時間後、三両全部が屋内に押し込まれた。
「まずはバラさなきゃな。」
先についていたおじいちゃんが言って、となりに立っている翔悟のおじいちゃんのほうを見た。
おじちゃんと翔悟のおじいちゃんは、昔、おんなじ職場で働いてたんだって。これにはちょっとびっくり。
もう一度、機関車を外に出して、クレーンを使って、運転室、水タンク、ボイラー、台枠を外した。砂箱やシリンダー、煙突も外す。
外した部品には、それぞれラベルがつけられた。
三両全部の解体作業が終わった時には、もう日が暮れていた。
着てきた服は汗でびっしょり、からだが悲鳴を上げている。でも、一生懸命何かをやるのって、楽しい!
「おつかれさまでしたー。」
この作業をやって、今日は解散した。
大和「大和とぉ!」
真美「真美の~!」
大和・真美『鉄道ラジオ~!!』
―この番組は、野口自工、白木城運送、國分電器店、沼尻鉄道保存会、猪苗代町、株式会社ゼロファイター・ジャパンの提供でお送りします。―
大和「みなさんこんにちは、メインパーソナリティーの國分大和です!」
真美「同じく、白木城真美です!」
大和「さて、今回のテーマは『保存鉄道』です!」
真美「おおっ!」
大和『保存鉄道とは、廃止になった路線や、廃車になった車両を貨客輸送などではなく、その路線や車両を保存する目的で作られた鉄道のことです。」
真美「わたしたちが目指しているのも、こういうのです!」
大和「わたしが知っている限りでは、北海道のふるさと銀河線とか、宮城県のくりでんミュージアム、長野県の「りんてつ倶楽部」とか「夢をつなごう!遠山森林鉄道」、千葉県の「羅須地人鉄道協会」とかだね。」
真美「ほかにもいっぱいあるから、気になった人は調べてみてね!」
大和「わたしたちも、早くこういう人たちの仲間入りをしなくちゃね~。」
真美「だね~。」
大和「欧米のほうでは、もっと盛んらしいよ!」
真美「わたしたちも、欧米に負けないように日本の保存鉄道業界を盛り上げていこうね!」
大和「さて、今日はここらへんでお別れとなってしまいました。それでは皆さん」
大和・真美『また次回、お会いしましょう!』