第二十七章 木材切り出し、そして、大和が迷子になる!?
転車台も作らなきゃだけど、もう一つ、作らなくちゃいけないのがあるんだった。
「機関庫は、大和のうちで資材を用意してくれるんだよね!」
真美が目をキラキラさせながらわたしの両手を握る。
「そう。うちの持ち山からテキトーなのを切り出して製材すればOK!」
「ありがとっ!大和!」
わたしに抱き着いてくる真美。その手には、愛馬雪姫の手綱が握られていた。
「そろそろ行くぞ」
翔悟がわたしたちに声をかける。その手に握られているのは、近くにいる馬の手綱。
今わたしたちがいるのは、猪苗代にあるわたしの家の私有地だ。
ここは、おじいちゃんが家で薪にする用に若いころから植林をしてきたところで、スギやヒノキ、コナラなどの良質な木がいっぱい生えている。
今回、機関庫や工場兼クラブハウスの設計と建設は、郡山北工業高校の建築科が「実習」っていう名目でやってくれるんだけどその分資材はこっちで用意しなきゃいけない。
白木城運送が輸送では全面協力してくれるといっても、木材だけで馬鹿にならない金額がかかるし、難燃化加工もお金がかかる。
で、國分家は山を持っている。
だったら、うちの山から木を切り出せばいいよね!
・・・・・・と、いうわけで、わたしたちは山に入るわたしたちであった。ちゃんちゃん。
うちには、ユメカガミのほかにハフリンガー種の風太もいて、真美の雪姫と同じように乗輓駄載の訓練を受けている。
で、真美の雪姫とうちの風太には、山で切り倒した木を麓まで引いていくという任務が与えられた。
「ハイ!ハイー!」
真美が雪姫に掛け声をかけながら手綱を引いていく。
「俺たちも行くぞ、風太」
翔悟も風太の手綱を引いて歩き始めた。
カパラッ、カパラッ・・・・・・・・・
うちから山までの間の道はアスファルト舗装になっていて、蹄の音がよく響く。
パキッ、パキッ・・・・・・・・
途中から山道に入ると、雪姫と風太の足音は、道に落ちた枝を踏み折る音に変わった。
「ハイ!ハイー!」
「ホーレ、ホレ!」
真美と翔悟は二頭に掛け声をかけて励ましながらジグザグの山道を登っていく。
やがて、今回のためにあらかじめ目星をつけておいた木に到着した。
「じゃ、やりますか。」
武さんが担いでいたチェーンソーを下ろした。
キュポキュポと燃料ポンプを押してエンジンに燃料を注入。
「えいやっ!」
キュルルルンッ!ドドドドドドドドド・・・・・
紐を引くと、一塊の白煙とともにエンジンが動き始めた。
「これと、これっ・・・・・・・・」
「クサビ、重いわね。」
わたしとカンカンは、雪姫の背中に積んできた伐採用具を下ろして整理する。
今回切り出すのは、樹齢五十年くらいのヒノキ!
「あまったら風呂桶にしようぜ!」
翔悟が叫んでいる。
「ヴヒヒヒーン!」
風太も翔悟の横でいなないた。
(もうすっかり仲良しだね)
出会って一週間くらいなのに、風太はすっかり翔悟になついちゃった。まあ、わたしにはユメがいるからいいんだけどね。(負け惜しみ)
ギュイィィーン!ギュイィィーン!
「うん、こんなもんかな。」
武さんが何回かチェーンソーを空ぶかしすると、こっちに声をかけた。
「そろそろ始めようか!」
『はい!』
みんなが一斉答える。
そして、作業が始まった。
まずは、木にロープをかけた。その端っこを手すきの人全員で引っ張る。
「じゃあ、いくぞー!」
ギュイィィーン!
武さんがそういって、チェーンソーで斜面の下側に倒れるように木に切り欠きを入れた。
「反対側もやるからなー!」
『はい~!』
わたしとカンカンは、木に切り込みを入れる作業をじっと見守る。
「こういうのを『追い口を切る』って言うんだ」
『へぇ~』
武さんは、このごとにつく前は、営林署で働いてたんだって!
「はい!切込み終わり!」
武さんがチェーンソーを抜いて言った。
「ここからはわたしたちの出番ね!」
カンカンの目が輝く。
「安全確認よし!」
わたしは、木の倒れる側に人がいないことを確認すると、クサビを持ってきた。
「えいやっ!」
斜面の上側のほうの切れ込みに差し込む。
「行くわよ!」
カンカンが巨大なハンマーを振り上げた。
「えいっ!」
一気にクサビに向かって振り下ろす。
カーンっ!メリッ!
クサビをたたくごとに木にクサビが食い込んでいき、木が引き裂かれていく。
「それ!」
カーンッ!カーンッ!・・・・
五発目を撃ち込んだ瞬間
メリメリメリ・・・・・・・・・バキッ!
木が折れていく音がした。
「はい!逃げて―!!」
武さんの指示で、ロープを引っ張っていたみんなが一斉に手を放して逃げていく。
キィィィィィ・・・・・・・・ドサァッ!
きしむ音とともに切り倒された木。即座に武さんがチェーンソーで枝を落としていく。
「カンカン、大和、手伝って!」
真美に呼ばれていくと、真美は雪姫の装着した牽き具に接続した鎖を原木の端に結わえているところだった。
「ちょっと雪姫の鼻を押さえといて。」
「了解」
右手雪姫のハミをとり、やさしく抑える。
「よーしよしよし。ドウドウドウドウ」
左手で鼻面をやさしくなでてやっていると、雪姫もわたしの肩あたりを甘噛みして、親愛の情を表してくれるようになった。
「よしっ!カンカン、大和。ありがとっ!」
結わえ終え割った真美が立ち上がると、雪姫の手綱をとった。
もう一本、あらかじめ切り倒してあった原木には風太がつながれ、翔悟がその手綱を握っている。
「じゃ、しゅっぱーつ!」
真美がそういうと、雪姫の牽き具を確認した。
「ハイ!ハイー!」
声をかけながら手綱を引っ張る。
「ホーレ、ホレ!」
翔悟も真美の後に続くように風太を引いて歩き始めた。
カサッ、パキッ、ズズズズズズ・・・・・・・・・・・
二人と二頭の後姿は、木立の合間に消えていった。
「ねえ、翔悟」
わたし―白木城真美は、愛馬雪姫の手綱を引きながら翔悟に声をかけた。
「どうした?真美」
翔悟がこっちに返す。
「わたしたちって、恋人同士なんだよね。」
「そうだよな。」
わたしは、雪姫を止めると、後ろを振り向く。翔悟も、わたしにつられるように風太を止めた。
「でも、まだ恋人らしいことしてないじゃない。」
雪姫の手綱を手近な木に結び付けると、翔悟のほうに近づいた。
「お、おう」
翔悟が気圧されたかのように一歩下がる。その手をガシッとつかんだ。
「だからさ・・・・・・・・・」
翔悟の手をいったん放して、今度はその顔をそっと手で挟んだ。わたしのほうに引き寄せて背伸びした瞬間・・・・・・・・・・
「キャァッ!」
ズザザザザザザザザザ・・・・・・・・・!
突然崩れる足元。つま先立ちだったわたしは思いっきりバランスを崩して、下に落ちていった。
体のあちこちが痛い。試しに手の指を開いたり閉じたりしてみる。
「よかった。体には特に異常なさそう。」
「真美!大丈夫か?」
そっと手をついて上体を起こしたところで、上から翔悟の声が聞こえてきた。
「大丈夫そう。それより、雪姫は?」
「雪姫も風太も無事。ちょっと待ってろ。」
念のためにリュックサックに着けておいた縄を翔悟がほどく。片方の端を立木に結び付けると、もう片端についているカラビナを自分のベルトにかけた。
「よっこいしょ・・・・・・」
ズルズルと下りてきた翔悟は、わたしのことを抱き起してケガがないか確認した。
「どうやら落ち葉が下に厚く積もっていたから、クッションになったんだな。真美、立てるか?」
「うん。翔悟・・・・・・・・・・・」
そっと翔悟の肩に手を回す。
「ありがと・・・・・・・・」
わたしと翔悟の唇が重なろうとした。その瞬間・・・・・・・・・・
「真美!翔悟!何やってるの!?」
上から聞こえてきた大和の声。わたしたちは慌てて体を離す。
「まったく・・・・・・・いつまでも帰ってこないと思ったら・・・・・・・」
その後ろからカンカンも下りてきた。
「二人とも、なんてことしてるの!?」
「風太と雪姫は一旦麓に木材を下ろして、また引いてきたわよ。ね。大和」
カンカンが言ってくる。そして、後ろを見た。でも、そこには大和はいない・・・・・・・・・・
「大和ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
カンカンの大声が、山の中に響いた。
今回の鉄道ラジオは、パーソナリティーが行方不明のためお休みです。